見出し画像

Web3が中二病的に萌える。

来月に刊行予定の『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』の編集作業が大詰めで、NFT、DAO、ブロックチェーンといったいわゆる「Web3」「Web3.0」について目下勉強中です。

新刊『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』の著者は思想家/人権ハクティビストという肩書で頭角を現し始めている、これからのテクノロジー界隈における重要な論客となるであろう落合渉悟さんです。

落合渉悟|Shogo Ochiai
思想家/人権ハクティビスト
イーサリアム関連技術研究者/開発者/ブロックチェーンエンジニア
大阪大学大学院情報科学研究科情報数理学専攻スマートコントラクト活用共同研究講座特任研究員。2016年よりブロックチェーンの高速化に関わる研究で実績を残し、現在はDAO(自律分散型組織)型自治プロトコル「Alga(アルガ)」ファウンダー。情報科学全般の広く深い知見に加え、制度設計の基礎を踏まえた洞察や、アクティビズムの実戦に即した民族学的分析に長けており、パブリックチェーンが社会に与える影響を遠く見通しながら多くのユニークなプロジェクトに知見や実装を提供している。とくに制度設計に精通しており、「the fairest democracy」というTEDxtalkはブロックチェーン時代の民主主義について世界的な議論を巻き起こした。

こちらの「ブロックチェーン・暗号資産(仮想通貨)業界、フォローしておくべきインフルエンサー特選」というWEB記事では堂々1位の重要人物。

雑誌『WIRED』の最新号でも「22世紀の民主制|DAO FOR NATIONS」という落合さんの特集が組まれています。

画像1

佐藤直樹さんがアートディレクターを務めていたころの「WIRED」が大好きで、当時は毎号買っていましたが、その後は手に取ることも少なくなり、超久々に買いました。ワイアード。

判型が小さくなって、本文用紙も軽くなってるんですねー。

いやー、この「WIRED 2022 Vol.44」はめちゃ面白い。勉強になる。

肝心の落合さんの特集ページはネタバレになるので、多くは語れませんが、落合さんがどんな活動をしている人物かというと、ブロックチェーンを技術的基盤にしたDAO(Decentralized Autonomous Organization=分散型自律組織)を用いることで「真の民主主義国家」を実現するというものです。

この試み、痺れませんか?

すでにプロトタイプである「ALGA」は発表されていて、興味のある方は下記リンク先を覗いてみてください。

落合さんの処女作『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』のなかでも、このALGAの見取り図を易しく視覚的にかみ砕いて解説しています。

本書では特別対談も企画しており、対談相手は内田善彦さん(東京大学特任教授)、樋田桂一さん(ブロックチェーン戦略政策研究所代表)、星暁雄さん(ITジャーナリスト)の3名。先日、対談を収録したのですが、なんというか、もう、キレッキレの議論で白熱しきり。優れた頭脳の対話って、ほとばしる知性のダダ洩れがすごいなと感じました。

ちなみにさきほどのWIREDでは、メディア美学者の武邑光裕さんの特別講義「Web3の課題と個人主義の再解釈」という特集もあって、これもめちゃくちゃおもろい。

武邑光裕|Mitsuhiro Takemura
1954年生まれ。メディア美学者。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。80年代よりメディア論を講じ、VRからインターネットの黎明期、現代のソーシャルメディアからAIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。著書に『ベルリン・都市・未来』(太田出版)など。

その中で興味深い書籍が紹介されていました。ちょっと引用します。

『The Sovereign Individual』という本があります。著者はジェームズ・デイル・デヴィッドソンというアメリカの個人投資家/投資ライターらで、1997年に出版された本にもかかわらず、いまだにクリプトコミュニティではバイブル扱いされています。国民国家の衰弱とか、インターネット上に国家が生まれるとか、ある意味いまのWeb3のコンセプトを先取りしたかのような暗号通貨の存在とか、言ってしまえば預言書めいた本なのですが、なぜいまでも読まれているのかというと、全編を通底している「主権を持った個人」、平たく言うと「個人主義の再構築」というテーマに惹かれているのだと思います。

さっそくAmazonで検索してみたところ、3万円前後のプレミアがついていました(2022年4月現在)。

そしてこの「個人主義の再構築」という思想から想起されるのが「サイファーパンク宣言」だというのです。

サイファーパンク (cypherpunk)とは、社会や政治を変化させる手段として強力な暗号技術の広範囲な利用を推進する活動家である。元々はサイファーパンクメーリングリストでの対話を通じて、非公式なグループが暗号技術の積極的な利用によるプライバシーとセキュリティの確保を狙ったものである。サイファーパンク達は1980年代の終わりから活発な運動に携わってきた。(wikipediaより)

「サイファーパンク」(CypherPunk)はCypher(暗号)とPunk(パンク)を組み合わせた造語です。直訳すると「暗号パンク」。高円寺のライブハウスにいそうなバンド名っぽく、ちょっと微妙な語感ですが。

サイファーパンクの概念はいまなお曖昧な部分があるようですが、サイファーパンクの観念を示す文書として“クリプトアナーキスト宣言” (1992)というものもあるようです。

印刷技術が中世のギルドや社会的権力構造の力を変革し、ひきずり降ろしたように、暗号もまた経済的取り引きに対する企業や政府の干渉の本質を根本的に変革してしまう。暗号の無政府主義は新しく生まれた情報市場と結合して、言葉や画像のあらゆる素材の流動市場をつくるだろう。そして、まさしく有刺鉄線のように一見とるにたらない発明が広大な牧場や農場を囲みかねない - たとえば、フロンティアの西部における国土と所有権についての概念を永遠に変えたように。ならば、数学の難解な一部門から出た一見とるにたらない発見も、知的所有権をとりまく有刺鉄線を取り去るような鉄線ばさみにだってなるかもしれないではないか。

立ち上がれ、君をとりまく有刺鉄条網のほかに失うものはないのだ!

いやぁ~、痺れますね。

開拓時代のアメリカでスチール弦のアコースティックギターが誕生したのは、有刺鉄線の材料をギターの弦に用いたからという説を思い出しました。

テクノロジーが世界を変えていく。

「暗号の無政府主義は新しく生まれた情報市場と結合して、言葉や画像のあらゆる素材の流動市場をつくるだろう」なんて、完全に今のNFTを預言してしまっています。

「かつて概念やコンセプトや思想だったもの」が、現実になってきている、その真っただ中に私たちが生きているのを感じます。ワクワクしますね。

最後に「WIRED」の武邑光裕さんの文章を引用して終えたいと思います。

サイファーパンク宣言や『The Sovereign Individual』が提示した世界観・価値観は30年ほど経って社会に受け入れられました。では、これから30年後に向けていま耳を傾けるべき人物は誰か。ひとり挙げるならば、マーシャル・マクルーハンでしょう。マクルーハンはさまざまなメタファーを使って事象や概念を説明する能力に長けていましたが、そのひとつに「魚は水をどう認識しているのか」というメタファーがあります。つまり、両生類にジャンプしたときに初めて水を見ることができるわけで、われわれはまだ水の中=旧世界に滞留しており、水というものを自覚的に把握できていないというわけです。そしてマクルーハンは、新しいテクノロジーの影響が旧体制において影響力を発揮するまでには40~50年かかると指摘し、その影響を最初に社会に対して提示・警告してくれる存在がアーティストだと付け加えます。

結局最後はマクルーハン。

マーシャル・マクルーハンって、すげーな。1911年生まれで、1980年に没したマクルーハンはインターネットの「イ」の字も知らずに亡くなったわけですが、メディア論のさまざまな予言者としてたびたび引用されます。

「魚は水をどう認識しているのか」というメタファーは実に面白いですね。

そんなわけで、来月刊行予定の落合渉悟さんの処女作『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』はWeb3、テクノロジーの最先端の現場から生まれた意欲作です。ご期待ください。

※「WIRED」のWeb3特集号も永久保存版。

(フォレスト出版編集部・寺崎翼)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?