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18歳と81歳の違い――誰も知らない名言
こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。
先日、仕事で関西エリアに出張に行っていた知人から1枚の写真が送られてきました。兵庫県・明石のカフェで撮ったとのことですが、インスタ映えにはほど遠いものでした。
カフェといっても、いわゆる昭和風の喫茶店であることは、写真の右端に見切れているカウンターでわかります。喫茶店でよく見かけるコーヒー抽出器具も写り込んでいるので、同店のコーヒーは、豆からとって淹れているのでしょう。送り主は喫煙者なので、タバコが吸える喫茶店であることも、おおよそ想像できました。
では、写真のメインに写っていたものは何か?
パーテーションなのか、壁なのかよくわからないところに貼ってある、薄汚れたクリアファイルに入った1枚の紙でした。
クリアファイルを壁にセロテープでペタッと貼っているだけで、ちょっとぶつかったり、触れたりしたら、すぐに落ちてしまいそうです。
どこか別のところに貼ってあったものを少々乱暴に外してきたのでしょうか、その紙の左端は、なぜかちょっと切れています。
クリアファイルに入れているぐらいなのだから、大事なものなのかと思いきや、すでに紙にはコーヒーをこぼしたと思われる大きなシミがついています。クリアファイルへの紙の入れ方も雑で、少々斜め右寄りです。
このようにツッコミどころ満載の写真なのですが、紙に綴られている8本のメッセージが秀逸で、思わず笑ってしまうものでした。
「ガハハ~ッ!」と大笑いできるというより、妙に納得しながら、思わず笑みがこぼれるという感じです。
8本のメッセージをまとめているタイトルは「18歳と81歳の違い」。
「タイトル」というより「お題」といったほうが正しいかもしれません。このお題を基に、大喜利ネタが8本披露されているのです。
さっそく紹介してみます。
まずは、【1本目】。
恋に溺れるのが18歳
風呂におぼれるのが81歳
思わず「座布団1枚!」と言ってしまいそうなのは、私だけではないでしょう。
【2本目】は、最近の社会問題を風刺したネタです。
道路を暴走するのは18歳
道路を逆走するのは81歳
おお~っ!
「山田くん、座布団3枚持ってきて!」とすっかり「笑点」の司会者気分になってきます。
【3本目】は、意外とフツーです(笑)。
心がもろいのが18歳
骨がもろいのが81歳
かつての歌丸師匠あたりが言いそう、もしくは、言われそうなネタです。
【4本目】からは、あえて文字をブランクにしますので、●●に何が入るか、皆さんも一緒に考えてみてください。
※答えは、ラストの8本目の直後に載せる写真でご確認ください。
※文字遣いは、そのまま載せています。
【4本目】
偏差値が気に成るのが18歳
●●●●●が気に成るのが81歳
【5本目】
まだ何も知らないのが18歳
●●何も●●●●●のが81歳
【6本目】
東京オリンピックに出たいと思うのが18歳
東京オリンピック●●●●●と思うのが81歳
【7本目】
自分を探しているのが18歳
●●自分を探しているのが81歳
【8本目】
家に帰らないのが18歳
家に●●●●のが81歳
いかがでしたか?
答えは、以下の写真でご確認ください。
「18歳と81歳の違い」というお題だけで、これだけのネタを考えつくのは、相当の頭の柔らかさとユーモアを持ち合わせた人物なのだろうと思えてきます。
この作者はいったい誰なのか?
とても気になってきます。
写真を確認する限り、作者の名前は見当たりません。半自虐的なネタから察すれば、御年81歳以上の方だと思われます。
喫茶店のオーナーが自分の絵やその他作品を自分の店内に飾ることは、普通にあること。となれば、店主が81歳以上で、ご自身の作品を展示しているのではないか?
そのような推測は、誰もが容易にできるでしょう。ところが、写真の送り主によれば、作者は店主ではないといいます。
では、この喫茶店の常連客ではないか。ただ、常連客の作品を、あの薄汚いクリアファイルに雑に店内展示しておくのも、店としてはなんだか無神経な気がします。写真の送り主である知人も、作者が誰なのかまで詳しく聞けなかったようで、結局、謎に包まれたまま――。
「万葉集」の詠み人知らずならぬ、現代版の詠み人知らず(明石在住と思われる)の作品に出合ったわけです。と同時に、私はかつて読んだ『誰も知らない名言集』(リリー・フランキー著)を思い出した次第です。
今回の明石の詠み人知らずのように、市井には、私たちがまだ出合っていない、光が当たっていない才能が多く眠っていることを改めて感じます。
出版に携わる人間にとって、そんな才能の原石を見つけるのが大切な仕事の1つです。
ただ、デスクに座っているだけでは才能の原石との出会うことはなかなかできません。街に出歩いているからこそ、人とコミュニケーションをとっているからこそ、出合える一次情報があるものです。
ネットやSNSにも無数に転がっていますが、基本的に世界中に公開されている情報のため、一次情報としての価値はどうしても落ちてしまいます。自分の目で見たもの、人から直接話を聞いたものほど、一次情報としての価値が高いものはありません。もちろん、同じものを見るにしても、聞くにしても、こちらの編集者としてのセンスが問われるわけですが……。
喫茶店やレストランの隣の席に座った人たちの会話に耳を澄ませ、どんなことに悩み、どんなことに興味を持っているのかを知る、企画のヒントにするという行動は、記者や編集者の昔からの常套手段としていわれていますが、今も何ら変わらず重要だなと思います。
コロナ禍で、街を出歩くこと、人と会うことが、以前に比べて難しくなっていますが、その大事さを、明石の詠み人知らずの写真を送ってくれた知人が思い起こしてくれたと、勝手に思っています。ニューノーマル時代の一次情報のつかみ方を模索し続ける予定です。
ちなみに、写真の送り主(知人)は、還暦を過ぎた出版編集の大先輩です。O先輩、刺激的な写真、ありがとうございました。