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100年後の出版業界を勝手に想像してみた。
あけましておめでとうございます。
フォレスト出版編集部の森上です。
2020年11月16日に配信スタートした音声メディアVoicy「フォレスト出版チャンネル|知恵を植えるラジオ」(毎回10~20分程度。土日を除く平日毎朝配信中です)。
同チャンネルの年始配信回用として、弊社代表・太田にゲスト出演してもらい、昨年末に収録を行ないました(配信日は、2021年1月5日、6日)。
太田にオファーしたテーマは、年始ということもあり、「弊社代表が語る、2021年の出版業界」です。
収録した12月下旬時点では、2020年の出版市場規模のデータがまだ発表されていないため、下記の2019年のデータを基にしたトークがスタートしました。
▼2019年の出版市場規模(公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所より)
詳しくは、1月5日のVoicyをチェックしていただきたいのですが、注目すべきは、全体の市場は2014年の電子出版統計開始以来、初めて前年を上回った点です(前年比0.2%増)。紙の市場は同4.3%減少したものの、電子出版が同23.9%増と大きく成長したためです。「この傾向は、これから発表になる2020年のデータも2019年と大きくは変わらないだろう。ということは、2021年もそんなに大きくは変わらない」という見解でした。
このように、1年単位で見ても変化が乏しく、あまりおもしろくありません。
そこで、太田から出てきたのが「100年後の出版業界を考えてみよう!」という新たなテーマの提案でした。
100年後というと、2121年です。
人生100年時代といえども、私たちの多くは、おそらくこの世に存在していないでしょう。当たり前ですが、100年後の予測が当たるかどうかなんて、誰もわかりません。そもそも答え合わせできる人さえいないのですから。
実に無責任な予測になるのですが、トークテーマは、急遽「100年後(2121年)の出版業界はどうなっているのか?」に変更してトークを再開することになりました。
今回は、2021年1月5日に配信したVoicy「フォレスト出版チャンネル|知恵を植えるラジオ」のトーク内容をダイジェスト的にお伝えします。なお、トーク内容を一部補足したり、一部省いたりしていますので、興味のある方は、Voicyの1月5日配信回をチェックしてみてください。
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100年後の出版業界を考える前に、100年前の出版業界はどうだったのかを見ていきます。
100年前というと、1921(大正10)年です。第一次世界大戦が終結した1918(大正7)年と、関東大震災が起こる1923(大正12年)年の間に位置する、束の間の落ち着いた時期であり、文化が発展した時代でもありました。
1919年に雑誌「キネマ旬報」が創刊、1920年には「松竹」が設立など、映画産業が活性化。1922年に雑誌「週刊朝日」「小学五年生・六年生」が創刊、1923年1月には「文藝春秋」が創刊されています。
書籍の世界では、島崎藤村『ふるさと』、西田幾太郎『善の研究』をはじめ、久米正雄、有島武郎らが活躍していた時代です。
ただ、現在、彼らの作品は残ってはいるものの、そのすべてが残っているわけではありません。今もなお多くの人々に読み継がれているものは、主に代表作が中心です。
①読書の定義が変わる!?
ここで1つ、考えてみたいことがあります。
100年前にはなくて、今、普通にあるもの、私たちが当たり前に使っているものは何か?
すぐに思いつくとすれば、スマホ、タブレット、ネット、電子書籍……などでしょうか。
では、100年後にどうなっているのかを考えたときに、果たして「紙の本」が存在するのかどうか。電子書籍すら、形や使い方が変わっているかもしれません。
100年後の世界ではどのようなモノやデバイスが使われているのかを考えてみると、私たちが現在当たり前のように使っているPCやスマホ、タブレット自体がなくなっているかもしれません。
私たち人間の体の中にチップが埋められて、耳を触ると目の前に文章や映像が出てきて、それを楽しむ。はたまた、文字すら読まず、ポチっとボタンを押すと、テキストデータが自動的に脳にインプットされる――。
もはやSFの世界ですが、「読書」の定義が変わるかもしれません。
②世界が小さくなる
昨年2020年の出版物の中で、今後の出版業界を考えるうえで注目すべき2冊があります。
◎『大分断』(エマニュエル・トッド 著/PHP新書)
◎『コロナ後の世界』(ジャレド・ダイアモンド、リンダ・グラットンほか、大野和基 編/文春新書)
この2冊に共通することがあります。
それは、コロナ禍において、海外の著者に直接会うことなく、オンラインの取材でつくられた本であるという点です。
これは実に画期的なことなのです。
今までにも、雑誌を中心に、日本の編集者が海外の著者に直接アポイントをとって取材、執筆オファー、出版につながるケースはあったかもしれません。ただ、現時点での日本における外国人著者の書籍は、海外ですでに書籍化されているものを翻訳されたものが大半です。海外の著者に日本人向けに書き下ろしてもらう(取材して1冊の本にする)ことは、それなりにハードルの高いことでした。
それを鑑みると、先に挙げた2冊の事例は、今回のコロナ禍を機に世界的にそのハードルが下がってきたことを示した、象徴的な事例と言えるのではないでしょうか。逆に、海外の編集者が日本の著者に直接執筆オファーするケースもたくさん出てくるかもしれません。
まだ「言語の壁」があるといえども、昨今のテクノロジーの発達を考えれば、早晩その壁は低くなるはずです。100年後となれば、それこそ言語の壁なんてほぼないでしょう。
つまり、世界はだんだん小さくなっています。
ということは、出版社や著者からみれば、自国だけでなく、世界中の人々が読者対象になります。編集者としては、日本国内の著者のみならず、世界中の著者と一緒に仕事をすることになるわけです。100年後は、それが当たり前になっているのは想像に難くないでしょう。
日本中の編集者が世界中の著者の企画・編集し、世界中の編集者が日本人著者に注目して企画・編集する時代――。
それが、これからの100年、出版業界が向かっていく流れの1つといえるかもしれません。
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そう考えると、書籍編集の端くれとして、基本的に著者も読者対象も日本国内だけを見据えて本づくりをしてきた身としては、とてもワクワクしてきます。と同時に、世界中の人たちと渡り合うためには、今まで以上に教養や文化的な知識を身につけていく必要があると思った次第です。
数年単位の短期的な視点ではなく、思いっきって100年後という長期的な視点で考えてみると、見えてこなかったものが見えてくる。そこから逆算して考えてみると、新たな気づきがある。そんな貴重な機会に恵まれた収録となりました。
皆さんも、ご自身が身を置く業界の100年後について思いを馳せてみると、何か新たな気づきやヒントが見つかるかもしれませんよ。
▼今回の記事内容に関連したVoicy配信音声はこちら(2本あります)
◎2021年1月5日配信回
◎2021年1月6日配信回