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森と人のつながり(4) ~Uターンで林業、薪づくり~

はじめましての記事で書いたように、いろいろな人に森とのつながりのお話を聴いています。

四人目は、愛媛にUターンして、林業を始めたKさん。Kさんとはエール(前回記事参照)のサポーター同士として知り合いました。

Kさんのお話

Kさんの軸

僕が軸としているのは「森林の循環の回復」です。その中で考えているのは「都市部と里山の人がふれあう森」「アナログ(感性)とデジタルが調和する森」「つくる喜びつかう喜びを感じる森」を実現したいと思っています。その結果として、自分の周りにいる人たちが「この山には価値がある」が言うようになるとうれしいなと思ってます。こっちに帰ってきて三年ぐらいの間にいろんな人に、「林業やろうと思ってる」っていうと、ほぼ100人に100人がやめとけと山には価値がないぞと言う。もう一回都会帰って金稼いだ方がいいぞって。でも、そういいながら、とても悔しそうなんですよ。

いま、本当にたまたま薪を作る仕事についてるんですけど。最初はただ単にもう人がいなくなるから手伝ってで始まったんです。手伝ってるうちに、本当の林業やってたおじさんとかが木を持って来るんですよ。だから今まで以上に林業の人、木を伐る人たちとつながりができてきて、それで今そこの社長になってます。

ビジネスプランコンテスト

最近のホットトピックで言うと、薪をテーマに、愛媛県のスタートアップビジネスプランコンテストにチャレンジして、一応ファイナリストになったんです。今度発表するんですけど。薪は現代の経済合理性から考えると、全然合理的じゃなくてめんどくさくて、時代遅れに見えるけど、「違うものさし」で見ると、すごい財産だと思って、本当は価値があるって言えるって思っています。実は価値があるってなるとみんなの認識も変わるというか。少なくともこの間ピッチのあとみんなと話す中ではすごい賛同もしてもらって。みんなも一緒になってやっていけたらいいなと思ってます。
あと、いまいまのビジネスとしては、薪の「違うものさし」での価値のところでキャッシュもいただきましょうっていう話をしてます。

もう一つのビジネスプラン~カーボンクレジット

ビジネスについては、もう一個考えてます。カーボンクレジット市場(*1)っていうのを今自分たちの地域の山主さんと僕らの今の活動と一緒になってやろうと思ってます。ある山の区画を、僕らは伐って、柱にして売ったり、薪にして売るのもやります。それで、植林して、カーボンクレジットを発行しようと思ってるんですね。山の木って二酸化炭素の吸収量って植えてから20年後がピークなんですよ。放置された林って50年後、60年後ってそのピークの5分の一なんです。てことは理屈で考えると山を切って植えれば20年後には5倍の吸収量にはなって、価値としては上がってる可能性があるよってことなんです。もちろん、その時のもろもろの世界情勢によってはわかんないけど、20年後には5倍になっているものに対してお金を出してくれるっていうことになれば僕のおじいちゃんが50年後のために木を植えたみたいなのと同じことが起こると思っていて、それは山の中にいる人以外でもそれができると僕は思ってるんです。だから都会の人でも、明日の利益のために株に投資するんじゃなくて、20年後の山で二酸化炭素吸収量が5倍になるこの山を一緒にやりませんか?みたいなのを募りたいなと思ってるっていう提案しています。

20年後に向けてクレジットを持って退職金の代わりにみんなが、育っていくみたいな。良くないですか?自分が作った山のクレジットは最初のうちに配当というかもらえててちゃんとそれを20年間で何十年でもいいですけど勤め上げたらその頃には5倍の価値になってる。
基本的にはちゃんと循環すればずっとピークになるんですけどね。
そうです。だったら20年間はもうボーナス期で絶対上がるから。

次世代のためにやるっていう人たちだけがやる市場を作りたい。人が集まるのかちょっと話は別なんですけど。いないかもしれない。ただ問題意識がきっとあるし昔の山でも問題意識はありますよね。守ってきた人たちって、それをやり続けたわけじゃないですか?だって、植えてから木は50年後しか商品にならないんだから。そのそれぐらいのスパンの投資ができる環境を作りたいなっていうのが僕があるんです。

ただここまで来る間で言うと、さっきの「森の循環」っていう軸のもとにすごい苦労しながらいろいろな人と話をしていろんなことをしながらしていって会社を起こすとなって。会社を起こすまでは、実は経済的なものなんて言わなけりゃいいのにって思ってたんだけど、やっぱりでもそこは両輪でいるんだなと思うようになってやっぱりないと持続性っていうのでは。

軸ができるまで

僕は最初は本当はある意味 FIRE (Financial Independence, Retire Early 経済的自立と早期リタイアの両立) だったんですよ。

僕は会社辞めた原因も会社辞めてから思ってることとも一緒なんですけど、会社って三年後の利益とか、なんなら一ヶ月の PDCA みたいなチェックされちゃって。経済成長は人類にとっては必要だけど、今ってその成長を一年、二年で見なきゃいけないのがとてもしんどいというか、持続性がないような気がしていって。それに対して山って結局木を植えても育つのが50年60年なんですよ。経済成長を50年後ぐらいまで見れるような仕組みができたらなとも思っています。

40年くらい前に、じいちゃんと一緒に植林したんです。コロナで帰ってきて40年経った山見たときに思い出すんですよ。じいちゃんがね、その時に「お前この木は40年か50年経ったら使えるようになるからな」って。ちょうどその頃僕は前の会社で中期計画とか立ててて。三年後どうする?みたいな。利益を出すのどうすんだ?みたいな。それを思い出しした時にあーやめよう、百年先に向けて仕事するぞって決めた感じです。

帰ってきて最初は、田舎でチームビルディングとかの教育関係をしようかなと思って動いてたんですけど、ずっとコロナが終わらなくて、暇を持て余して農業し出したんですね。それでおっちゃんたちと会って話したりすると山なんかやめとけっていう人ばっかりなんですよ。お金というもので言うと価値がどんどんなくなっていくっていうのを彼らはずっと見てきたわけですから、そういうふうな発言になるんだろうなって気はするんですけど。

都会の人が来てうわぁ大自然って喜ぶのも価値なんだけど、それとは全く違う。彼らが思ってる価値もあるじゃないですか。そこら辺をなんかこの何年間かいろいろ見てきたんかなみたいな感じですかね、

山やりたいなぁと思ったけど、具体的なアイデアもないまま帰ってきたんです。それがね、こんなあのビジネスコンテストでファイナリストになるところまでつながってきたの、なかなかですよね(笑)。

これまでの経験といまの薪の話

日頃は薪作ってます。僕本当に作ってるんですよ。それやったからこそ、さっきのビジネスプランのアイデアが出るんだと思います。デザイン思考とか、現場に行けとか習いましたけど現場で一年ぐらい働かんとわからんな。

逆に、最初からここで働いてたら普通の風景じゃないですか。そうすると、簡単にするためにどうしようって行くのが多分普通なんだろうと思うんですけど。

メーカーで働いてたことが役に立ってるんですよ。僕のエンジニアな血が。当時はなんでこれをやってるんだろうって悩んでたようなことがいっぱい点がつながって今あるって感じ。例えば、製造工程をすごい簡略化して、いかに効率良くするかっていうのを結構やってるんですけど、実は以前、中国のメーカーに工程をいかに良くするかの支援に1か月くらい行って。中国語も通訳はいたけど、通じてるのか通じてないのかわかんねえみたいなのをずっとやって苦労したんです。あの当時、何か学んだのかなと思いながら過ごしたんだけど、今めちゃめちゃ生きるみたいな。かじったぐらいのくせに今この薪の現場に来たら誰も何も知らないからものすごい生きる。

あと、前にチーム作りで失敗した経験が、たった5人の組織なんですけど、今生きてる。予算も、あのときは、なんでこんなことするのかと思ってたけど、あーなるほど予算っているね。管理会計ってこういうことか。前はめんどくさいと思ってたけど、いまは楽しくやってますよ。

やっぱり。なんかね、一回よそ者になって帰ったっていうのが大きいのかなって感じますね。そこにずっといたらこういうものだよね、みたいなのはありますもんね。それで、完全なよそ者じゃないから、こどもの頃の愛着みたいのはあるんですもんね。両方持ってると。

都会と田舎

『日本列島回復論』というのを読んだのを思い出したんですよ。僕も最近は都会は何でもあるっていうけど、何もないなと思っていて。万が一、何かが起こったら多分ご飯もない、電気もない、水もない。実は本当は何もなくて、物流とかそのいろんな人がすごい勢いで支えていてそれで成り立ってるところが都会。実は田舎っていうのは、水もあって食べ物もあって、薪がありゃ火も焚ける。

いや、だからといって都会がダメだなんていうつもりは全くないんですけど、なんかそれってなんかある意味強く僕らがプライドとして持ってもいいものかもしれないなと思っています。田舎何もないってみんな言っちゃうから。

実は山の価値もそれに近いかもしれないです。湧き水を出すのも山だったし、薪を出すのも山だし土壌を育むのも山ですっていう価値はあるかななんて思ったりはします。でも、それを意識せずやれていることが幸せなのかもしれなくて。

感性も大事

それとやっぱり感性って大事だよね。森林浴ファシリテーター(*2)にもなって、森林浴もやってます。楽しいですよ。僕はとっても自然の中にいて感性が磨かれるってことの価値っていうのはすごく大事に思っています。

東京では満員電車で通っていて、最初は苦しいし暑いしって思うけど、何も感じなくなるじゃないですか。体は絶対感じているけど、脳が感じるなって指令出してて感じてない。体と頭の乖離が生まれている。なのに会社についたらクリエイティブな仕事をしろというわけです。クリエイティブにありたいのであればあるほど、ちゃんと自然の中に行って体の感覚を味わうことが大事だと思ってます。

それは聴くこととも関係しますよね。僕ら聴くトレーニングをやったじゃないですか(注:エールのサポーター向けトレーニング)。まず自分の体と頭がつながってはじめて、相手がどう話してるか、言葉そのものじゃなくて、相手が怒ってるのか嫌なのか何なのかっていうのって言葉じゃないものがちゃんと感じられるかってところがあると思うんですよね。

都会から来た人が単純に自然の中で大自然で喜んで終わるのはもったいないと思って。森林浴ファシリテーターってそれを大事にしているんです。五感を開くとかっていう言葉だけで終わるんじゃなくて。太陽に手を当てたりするんですけど、光があったかーいって感じるんですけど、それだけじゃなくてなんか嬉しいみたいな気持ちになったりだとか、なんかほっとするとか、もう一個深いとこですよね。

そんなんも含めて。だから僕は今、経済合理性的なこともやりつつ、そんなことも。感性もやるっていう感じなんですね。だから結構僕はこういう生き方が好きかもしれないですね。どっちかによらないみたいな。

スローリーダーシップへの共感

スローリーダーシップは共感しますよ。まるで周りに影響与えるよりかは周りから影響与えられてますもんね。双方向なんだろうなっていう感じですね。なんかこうね。周りを変えてやろうっていうよりも受け取ろうとしてる感じ。それによってまた周りも変わるっていう感じでしますね。

田舎に都会からIターンで来た人は周りを変えようとするんですよ。まぁわかるしすごい仲良しなんですけど、なかなかそれだと周りも変わんないかもしれないですよね。やっぱ成果を求めちゃうんですよね。すごい良さを、もっとみんなにわからさなきゃいけないいやなんか義務感みたいなのもあって。今のままだと(田舎が終わってしまうから)どうせ終わっちゃうから。早急なというかせっかくだというか。

いまの会社

いまの会社は正社員2人とバイトさんが3人で。バイトさんは全員、なんか自分がやりたい仕事を持っていて、でもそれじゃ食っていけないからって来てくれてるんですよ。一人は俳句、一人は桃農家であり書道家なんです。もう一人は前職は大工さんでいまは農業をやってるおじいちゃん。

おもしろいんですよ。なんかそういうなんか自分がやりたいことがある人たちがなぜか山の価値を上げるぞって言ってる人に集まってきてくれて一生懸命働いて。最初はお金稼ぎだけに来たと思いますけど、なんかわかんないけど一生懸命やってたら、みんなも一生懸命やってるみたいな感じですね。いや、本当にもう一心不乱に薪を作って、なんか新記録を狙うみたいな、いかに効率を上げるかみたいなので、みんなすごい熱くなってるみたいな。

林業のエキスパートたちじゃないんですよ。本当にド素人集団なんですけど、生産性はそのプロたちがいたときよりも全然上なんです。みんな自分が思ったアイデアは出してやってくれてたりするんですよ。標準化とかじゃなくて、それで結果としてプロの時よりも生産値上がってるんだったらね。自由演技ですよ。いつの間にか本当だいぶ実は生産性が上がって、今まで補助金がないとダメだったのが、四半期がわずかながらの黒になってびっくりしました。

実は、僕は日本の森のために頑張りますとか、地域のためにとかはないです。
ゼロに近いです。結果としてそこにつながればいいと思っていて山の価値を高めることが僕がやりたいことであって、結果としてそうなればいい。地域のためと言えば、節税とか意味ないと思っていて、税金で地域にお金落とせればいいと思ってるんですよね。なので、うちは早くそこに補助金をまずなくせるぐらいまで稼いで、税金ガンガン落としていこうと思って。

今めちゃくちゃ楽しいですね。今週は簿記三級の勉強。経理とかやったことがなくて勉強してます。でもデジタル化大好きなんで、今マネーフォワードとかで全部管理をしようと思ですけど残念ながら簿記の知識がないんで仕分けっていうやつがわからなくて。勉強を始めていて、でも日本一固定費が安い会社にしようと思ってて。給与計算とかももう自動で勤務時間と連動させるようにしたり。

Kさんの話を聴いて

最初は FIRE で地元に帰って、そのうちなんとなく山をやりたい、というところからビジネスコンテストファイナリストまでなっているお話に驚きました。現場で、農業や林業に実際に手を動かして、周りの人と関わっているからこそ、それができているのだとお話を聴いて実感しました。また、その背景として、Kさんのこれまでのいろいろな経験があり、新しい目でいまの仕事を見たときに、出てきたアイデアで、Kさんならではものものがでてきたことがわかりました。

「森の循環の回復」という軸から「この山は価値がある」というアウトカムを目指して、概念的なものだけでなく、これまでとは「違うものさし」を提案して、その価値をほかの人にも説得力をもって伝えられて、本当に投資が集められるような形にしてるアイデアと実現力がすごい。

また、感性を大切にして、森林浴ファシリテータをしたり、自分とつながることを大切にしたりしつつ、経済性も考えて、効率を高めることや、お金が回るアイデアも出しながら、やりたいことをやっているというところがすばらしいと思いました。

補足

(*1) カーボンクレジット

カーボン・オフセットは、政府、個人、企業などの団体が、他の場所での排出量を削減、回避、除去するプロジェクトを支援することによって温室効果ガスの排出量を補填(つまり「相殺」)できるようにする取引メカニズム。言い換えれば、カーボン・オフセットは、排出量削減プロジェクトへの投資を通じて排出量を相殺することに重点を置いている。企業がカーボン・オフセット・プログラムに投資すると、炭素クレジット、つまりある企業から別の企業への正味の気候利益を説明するために使用される「トークン」を受け取る。カーボン クレジットは、政府または独立した認証機関による認証後に売買できる。
https://en.wikipedia.org/wiki/Carbon_offsets_and_credits  から粗訳

(*2) 森林浴ファシリテータ

森林浴とは、 森へ浸り、緑を浴び、安らぎや爽快感を得ること。森林浴で人を元気にしたいと思った人が、森林浴を取り入れたサービスを提供するために、“森を使う”ための知識、スキルを森林浴ファシリテータ養成講座で学び、実践する。森林浴ファシリテータは、サービスを提供することだけではなく、森を守る地域が健康であるために、森に入る私たちが健康であるために、森を未来へつなぐことも含めて学んでいる。
https://www.fwithf.org/service/shinrin-yoku-facilitator/


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