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【離婚後共同親権】女性と子どもの安全を最優先に打ち出した欧州議会

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欧米で進む離婚後共同親権の見直し

離婚後の子の共同監護について議論をしている、法制審議会家族法制部会。
2021年7月27日。小川富之大阪経済法科大学教授によって、こんな報告がされました。

小川参考人提供資料/オーストラリアおよびイギリスの離婚後の子の養育
https://www.moj.go.jp/content/001354872.pdf

離婚後共同親権やフレンドリーペアレントルールに積極的だったオーストラリアやイギリスにおいて、どのような問題が生じ、見直しが進められているか、活発な議論が交わされました。

そして、10月。今度は欧州議会でこんな決議が採択されました。

European Parliament resolution of 6 October 2021 on the impact of intimate partner violence and custody rights on women and children(親密なパートナーからの暴力と親権が女性と子どもに与える影響に関する2021年10月6日の欧州議会決議)

これをいち早く翻訳したのが、離婚後共同親権問題に警鐘を鳴らし続けている弁護士・こざかな先生( @KSakanako )

決議に至った背景

COVID-19危機に際して、自宅からの外出抑制を余儀なくされた家庭の中で、近親者間の暴力の深刻化を憂慮したこの決議は、Procedure file(手順ファイル)ページによれば、2020年11月23日、欧州議会内の女性の権利とジェンダー平等委員会、および法務委員会の合同委員会において、REGIMENTI Luisa(イタリア選出)、Elena KOUNTOURA(ギリシャ)の両氏による報告が契機になっているようです。

本件決議のプレスリリースの中で、両氏はこのようにコメントしています。

REGIMENTI議員:
「親密なパートナーからの暴力は、体系的な身体的・心理的トラウマを引き起こす、深刻かつ隠蔽されがちな社会問題です。この問題は、被害者に深刻な影響を与え、家族全体の感情的、経済的、社会的な幸福に大きな影響を与えます。私たちは、あらゆる形態のドメスティック・バイオレンスや女性に対する暴力を断固として非難し、特に別居訴訟や親権訴訟において、女性にも子どもにも優しい司法を確保するよう当局に要請します」。
KOUNTOURA議員:
「欧州議会は、EUにおけるジェンダーに起因する暴力に対処するための大胆かつ断固とした措置を求める明確なメッセージを送っています。この進歩的な報告書は、親密なパートナーからの暴力の被害者である女性や子どもたちに、彼らの味方である保護的で公正なシステムを提供するための一歩を意味しています。今回初めて、虐待を受けた女性だけではなく、子どもたちへの暴力の影響にも焦点を当てています。

※決議を受けてKOUNTOURA議員のツイート

非常に多岐で詳細、そして周到に構築された論理による決議文は非常に長大なものなのですが、本記事ではこの分析に挑んでみたいと思います。

決議文の全体構成

<根拠法令>
冒頭、The European Parliament(欧州議会)を主語として、having regard to~(~を考慮して)という表現が34回繰り返されます。
これは、本決議を基礎づける根拠法令・関連法令を示したものです。
英文契約書では、regardはregarding~(~に関して)で頻繁に登場する単語ですね。

<Whereas>
続いて、A~AGに項目分けされた英文は、本決議案が決議されるに至った背景、本決議の必要性について論じられている部分です。
英文契約書でも、契約書の冒頭に書かれているものですね。

<決議文本体>
項目は1~51まであります。
これに次のような小見出しがついています。

1~8
General Remarks(一般的見解/総論)

9~14
Protection, safety and support for victims of gender-based violence – addressing intimate partner violence in custody rights and visitation decisions(ジェンダーに基づく暴力の被害者の保護、安全、支援 - 親権や面会交流の決定における親密なパートナーの暴力への対応)

15~21
Protection and support: access to legal protection, emergency accommodation and to victim funds(保護と支援:法的保護、緊急宿泊施設、被害者基金へのアクセス)

22~28
Protection and support for children(子どもたちへの保護と支援)

29~40
Prevention: training of professionals(予防:専門家の育成)

41~46
Prevention: addressing gender stereotypes and biases – education and awareness raising(予防:ジェンダーの固定観念や偏見への対処 - 教育と意識向上)

47~52
Cooperation between the Member States, including in cross-border cases(渉外案件を含む、加盟国間の協力関係)

<決議の取り扱い>
1~51に述べられた決議文について、52で「この決議を欧州理事会と欧州委員会に転送するよう、議長に指示する。」とされています。

背景はCOVID-19危機だけではなかった

では、決議文の内容について、日本の離婚後共同親権に関連する論点にポイントを絞ってみていきましょう。

まず、WhereasのDに、こんな一節が出てきます。

D. この10年、EUを含む世界中で、ジェンダー平等や女性の権利に対する、あからさまで組織的な攻撃を目撃しています。

注目すべきは、「この10年」と言っていること。
つまり、背景にあったのは、COVID-19危機だけではなかった、ということです。

報告者たちには、この10年の「離婚後共同親権の理念」とやらを隠れ蓑にした、バックラッシュ(揺り戻し)への危機感があったことがわかります。

DVと子の養育の問題は別ではない

続いてNではこんな説明がなされます。

N. 子どもたちはまた、家庭や家族の中で「目撃された暴力(21)」と呼ばれるものに苦しむことがあります。これは、基準となる人物やその他の感情的に重要な人物に対する、身体的、言語的、心理的、性的、経済的な暴力行為等、あらゆる形態の不当な扱われ方を目撃した経験によるものです。このような暴力は、子どもの心理的・情緒的な発達に非常に深刻な影響を与えるものであり、したがって、特に別居の場合の親権や面会権を決定する際、子どもの最善の利益を第一に考慮するため、取り決めにおいては、この種の暴力に十分な注意を払うことが不可欠です。一方、目撃された暴力は必ずしも容易に認識できるものではなく、ドメスティック・バイオレンスの被害者である女性は、緊張と感情的な困難の中で生活しています。ドメスティックバイオレンスと子どもの保護の両方の問題が絡むケースでは、裁判所は、すべての状況を適切に考慮せずに母親に不利な判断をすることのないよう、知識とツールを持った専門家を参照する必要があります。

日本では、DV問題と子の監護の問題は別、といった主張が推進派からされることがありますが、本決議案では、DVは子の健康な発達に深刻な悪影響を与えることが指摘されています。

硬直的なルール運用が最悪の結果を招く

続いてはQです。

Q. 一部の加盟国では、女性に対する親密なパートナーからの暴力が軽視されることが多く、子どもの親権、アクセス、接触、面会の取り決めや決定において、共同親権や親権という既定のルールが優先されているようです。このような暴力を無視することは、女性と子供に悲惨な結果をもたらし、女性殺しや嬰児殺しにエスカレートする可能性があります。
(抜粋)

日本でも、硬直的な面会交流の運用が殺人、性暴力を招いていることが報告されていますが、女性や子どもの保護に、日本とは比較にならないほどの多額の予算を投じる欧州諸国ですら、この問題は解決できていないのです。

これに関連して、Wではこんな指摘もなされています。

W. ドメスティック・バイオレンスの訴えに起因する刑事訴訟は、別居や監護権の手続きとは完全に切り離されて取り扱われることが多いですが、このことは、子どもの共同監護権が命じられたり、被害者と子どもの権利と安全を危険にさらすような面会権が課されたりする可能性があることを意味します。(抜粋)

従来の法的解釈を再構成する必要性

続く、S、Tの指摘は重要です。

S. 家族間の紛争を含む子どもに関するすべての決定において、子どもの最善の利益が常に第一に考慮されるべきであり、欧州人権条約第8条および国連子どもの権利条約第9条に含まれる、すべての子どもが両方の親との接触を維持する権利は、子どもの最善の利益のために必要であれば制限されるべきです。
T. 国連児童の権利に関する条約第12条ならびにEU指令2016/800第4条および第16条によれば、子どもは、司法および行政手続を含む、子どもに影響を与えるすべての事項において、子どもに優しい方法で自分の意見を表明する権利を有しており、これらの意見は、子どもの年齢および成熟度に応じて常に一次的に考慮されなければなりません。

ここでは、これまで共同監護(親権)を基礎づけてきた法的スキームについて、子どもの最善の利益という最上位の概念を根拠に、解釈の再構成を求めています。

これについて、Yでは裁判所の解釈原則をこのように指摘します。

Y. 家族法のケースでは、被害者の安全と保護が第一に考慮されるようにすることが必要であり、また、被害者へのさらなる被害を避けるために、女性と子どもに対する暴力が存在するケースでは、司法手続きの前または途中で、調停などの代替的な紛争解決メカニズムを使用すべきではありません。

また、Zでは、イスタンブール条約第31条を根拠に、このように指摘します。

Z. イスタンブール条約は、締約国に対し、子どもに関する親権や面会権を決定する際に家庭内暴力の事例が考慮され、面会権や親権の行使が被害者やその子どもの権利や安全を脅かさないことを確保するために、立法上またはその他の必要な措置を講じることを求めています。一方で、発効から8年が経過したにもかかわらず、イスタンブール条約はEU加盟国6カ国またはEUによってまだ批准されていません。イスタンブール条約は、ジェンダーに由来する暴力を防止し闘うための、現行で最も重要な国際的枠組みです。

片親疎外の科学的否定

続いてUです。

U. 世界保健機関(WHO)と米国心理学会(American Psychological Association)という、精神衛生に関する最も権威のある2つの機関は、いわゆる親疎外症候群や同様の概念や用語の使用を拒否しています。なぜなら、これらの概念や用語は、暴力の被害者に対して、親としての能力を疑問視し、彼らの言葉を否定し、子どもがさらされている暴力を無視するよう、暴力被害者に対する戦略として利用される可能性があるからです。EDVAWプラットフォームの勧告によれば、虐待する父親が母親に対して行う親疎外の告発は、子どもの監護権を決定する者を含む国家機関や関係者による、権力や支配の継続とみなされなければなりません(22)。

この(22)というのは脚注です。
決議文のHPによると、Statement by the EDVAW Platform of 31 May 2019 entitled ‘Intimate partner violence against women is an essential factor in the determination of child custody’.を引用したものです。
このEDVAWとは、 Independent Expert Mechanisms on the Elimination of Discrimination and Violence against Womenの略称。
国連の「女性に対する差別と暴力の撤廃に関する独立した専門家メカニズム」という活動グループです。

参考なまでに、このプラットフォームの公式ページをリンクします。
※2019年5月31日の声明文(Statement)はこちら。
https://www.ohchr.org/Documents/Issues/Women/SR/StatementVAW_Custody.pdf

DVに悪用される離婚後共同親権

AAでは、次のように述べられます。

AA. 親密なパートナーからの暴力を受けている状況での共同親権は、女性は加害者の近くに地理的に居住させられ、さらなる身体的・心理的な暴力としてももちろん、感情的な虐待の対象とされることで、女性を本来は予防可能な絶え間ない暴力にさらすことになり、それが子どもに直接または間接的な影響を与える可能性があります。親密なパートナーからの暴力の場合、女性と子どもが保護され、身体的・心理的な暴力のない生活を送る権利は、共同親権の優先順位よりも優先されるべきです。親密なパートナーからの暴力の加害者による子どもの虐待は、母親に対して権力を行使し、暴力行為を行うために利用される可能性がありますが、これは間接的なジェンダーに基づく暴力の一種であり、一部の加盟国では「代償の暴力」として知られているものです。

続いてAC。

AC. 親密なパートナーからの暴力は、子どもに対する暴力や子どもへの虐待と本質的に関連していますが、子どもをドメスティックバイオレンスにさらすことは、子どもに対する暴力とみなされます。ドメスティック・バイオレンスにさらされた子どもたちは、精神的および/または身体的な健康上の悪影響を受け、それは急性および慢性的なものとなる可能性があります。一方、女性に対する暴力の状況における子どもの被害は、親権や養育をめぐる親同士の争いの中で継続し、拡大していく可能性があります。また、COVID-19への取り組みのために実施された封じ込め策により、子どもたちの精神的な健康と幸福が悪化しました。これに対し、子どものための精神保健サービスの数は加盟国間で大きく異なり、多くの国では十分ではありません。

決議のポイント①:"あらゆる形態"の暴力を非難

ここからは決議文のポイントです。まず、冒頭。

1. あらゆる形態のジェンダーに基づく暴力、家庭内暴力、女性に対する暴力を最も強い言葉で非難し、多様な家族構成員のうち、特に女性と子どもが、親密なパートナーからの暴力にさらされ続けているという事実を遺憾に思います。この暴力は、女性の人権と尊厳の重大な侵害を構成するとともに、女性の経済的自立にも影響を与え、この現象はCOVID-19危機の間に悪化しました。

決議のポイント②:DV加害者によるリーガルハラスメントへの警鐘

3では濫訴や共同親権の要求による、リーガルハラスメントへの対応を各国に求めています。
ただ、直接的な対策ではなく、リーガルハラスメントは一般的な法原則からすると違法であることを指摘していないところが弱いですね。

3. 加害者は、権力と支配を拡大し、被害者を脅し、恐怖心を煽り続けるために、しばしば訴訟を利用することを強調します。この点において、別居後も母親に連絡を取り続けるために、子どもと共同親権の要求が暴力的な親によって操作されることが多いことを強調します。加害者は、パートナーや元パートナーに危害を加えるために、しばしば子どもを虐待したり、子どもに危害を加えると脅したり、子どもを連れ去ると脅したりして、子どもの調和のとれた成長に深刻な影響を与えることを強調します。このような行為はジェンダーに基づく暴力の一形態でもあることを想起し、加害者が維持費を差し控えることは、被害者に対する脅しや虐待の一形態として利用される可能性があることを指摘し、このような行為は被害者に大きな心理的ダメージを与え、経済的な困難を生み出したり、悪化させたりする可能性があることを強調し、加盟国に対し、経済的な虐待や被害者にさらなる損害を与えるリスクを回避するために、維持費が被害者基金から被害者に支払われるような措置をとることを求めます。

決議のポイント③:イスタンブール条約第31条の効果的な実施を求める

これは5から抜粋します。

5. (前略)イスタンブール条約の信用を失墜させようとするすべての試みを強く非難し、一部の加盟国で起きている、家庭内暴力を含むジェンダーに基づく暴力との闘いにおける進展を後退させようとする試みを非難します。また、同条約の効果的な実施がEU全域でまだ断片的であることに大きな懸念を抱きます。条約を批准している加盟国に対し、イスタンブール条約第31条に特別な注意を払いつつ、条約の完全かつ効果的で実用的な実施を確保すること、また、子供の親権および面会権が決定される際に親密なパートナーからの暴力事件が考慮され、面会権または親権の行使が被害者または子供の権利および安全を脅かさないことを確保するために必要なあらゆる措置を講じることを呼びかけます。
※参考:イスタンブール条約第31条
第31条-監護権、面会権および安全
1.締約国は、子どもの監護権および面会権に関する決定に際し、この条約の適用範囲にある暴力の発生が考慮されることを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。
2.締約国は、いかなる面会権または監護権の行使も被害者または子どもの権利および安全を危うくしないことを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。
(訳:平野裕二氏)

決議のポイント④:離婚後共同親権の有用性は認めているけれど。。。

次は、この決議の本質的評価にかかわる9です。
なかなか難問です。
まず、このように「おことわり」があります。

9. 子どもに関するすべての行動において、子どもの最善の利益が第一の関心事でなければならないことを想起し、片方または両方の親と別居している子どもが、子どもの最善の利益に反する場合を除き、定期的に両方の親と個人的な関係や直接的な接触を維持する権利があることを想起し、子どもの最善の利益に反する場合を除き、両親が平等な権利と責任を享受するために、原則として共同監護権と監視なしの面会が望ましいことを指摘し、法律が自動的に片方または両方の親に親としての責任を与えることは、これらの利益に反することを強調します。

原則として、共同監護権も監視なし面会も「望ましい」と指摘しています。
しかしこう続きます。

決議のポイント⑤:女性と子どもが暴力から守られることは他の基準よりも最優先されるべき

(続き)
国連児童の権利に関する条約によれば、子どもの最善の利益を評価することは、それぞれの子どもの具体的な状況を考慮しながら、個々のケースで行われるべき固有の活動であることを想起し、親密なパートナーからの暴力は、別居後の暴力のリスクや、女性殺しや嬰児殺しの極端な行為など、女性と子どもに深刻な結果をもたらすため、子どもの最善の利益および共同の親権と養育とは明らかに相容れないことを強調します。親権の配分、アクセス権、面会権に関する取り決めを行う際には、女性と子どもを暴力から守り、子どもの最善の利益を図ることが最優先されるべきであり、他の基準よりも優先されるべきであることを強調します。

そのため、解釈の原則はこのように提示されます。

したがって、財産、プライバシー、子どもの親権、アクセス、接触、面会に関するものを含む、司法手続き中およびその後の加害者または加害者とされる者の権利または主張は、生命および身体的、性的、心理的な完全性に対する女性と子どもの人権に照らして、子どもの最善の利益の原則に導かれて決定されるべきであることを強調します。

決議のポイント⑥:離婚後"単独親権"の有用性を指摘

そして、9の結論はこのようになります。

従って、暴力を振るったパートナーの親権と面会権を撤回し、母親が暴力の被害者である場合には、母親に独占的な親権を与えることが、さらなる暴力や被害者の二次的な被害を防ぐ唯一の方法となり得ることを強調し、一方の親にすべての親としての責任を与える場合には、社会的給付や集団的・個別的なケアの手配への優先的なアクセスなど、関連する補償メカニズムを伴わなければならないことを強調します。

つまり、原則が離婚後共同親権だからといってこだわらなくていい。望ましいのが監視なし面会だからってやらなくてはならないわけではない。
これらは撤回可能なのです。

決議のポイント⑦:対策の不作為は人権侵害

10ではこのように各国の対策を憂慮しています。

10. 監護権や面会交流の決定において親密なパートナーの暴力に対処しないことは、生命、暴力のない生活、女性と子どもの健全な発達を無視することによる人権侵害であることを強調し、親や親しい人に対する暴力の目撃を含むいかなる形態の暴力も、法律上および実際上、人権侵害および子どもの最善の利益に反する行為として考慮されることを強く求め、女性に対する暴力の最も極端な形態であるヨーロッパにおける驚くべき数のフェミサイド(女性であることを理由にした殺人)に深い懸念を抱いています。
(抜粋)

この項は非常に長いのですが、最後にこう結ばれています。

加害者が現行犯で逮捕された場合、被害者は安全な場所に連れて行かれ、加害者からの子どもの保護が強制されるべきであることを強調し、また、逮捕の法的条件が満たされない場合でも、さらなる暴力のリスクを防ぐために、加害者とされる人物は直ちに被害者の家から追い出され、被害者の職場に近づかないようにすべきであることを強調します。

ここで注目したいのは、逮捕の法的要件が満たされない場合における対策も求め、冒頭で述べているように、この対策の不作為も人権侵害にあたる、と捉えている点です。

日本では、一部の弁護士によって、DV防止法の支援措置の違憲性を争う訴訟が提起されていますが、それはDV対策のスタンダードからは外れた暴挙であり、人権侵害を助長しているものであるともいえます。

決議のポイント⑧:DVケースにおける面会交流対策

次の11も賛否分かれるところでしょう。

11. 加盟国に対し、暴力を振るった元パートナーとの子どもの面会を第三者や団体が処理できるシステムを開発し、元パートナーが面会権、宿泊施設、共同親権を保持している場合に、ドメスティック・バイオレンスの被害者である母親がさらされる機会を減らすことを要請します。

ただ、これは前述したとおり、決議項目9において、面会交流の撤回の余地を認めたうえでなお、面会交流を実施する場合には、、、という趣旨だと捉えることもできます。

決議のポイント⑨:面前DV対策

これは22で詳細に述べられています。

22. 親密なパートナーからの暴力、目撃された暴力、身代わりの暴力が多くの法制度で認められていないことから、ジェンダーに基づく暴力との闘い、およびジェンダーに基づく暴力の被害者の子どもの保護のために、EUレベルで共通の法的定義と最低基準を確立することの重要性を強調し、家庭環境で暴力を目撃した子どもがジェンダーに基づく暴力の被害者として認められていないことが、警察・司法分野でのデータ収集や国境を越えた協力に直接的な影響を与えていることを指摘します。親密なパートナーからの暴力を目撃したり、身代わりの暴力を受けたりした子どもたちが、より良い法的保護と適切な支援を受けられるよう、刑事手続きや捜査手続きにおいて、ジェンダーに基づく暴力の被害者としての地位を与える必要性を強調し、DVの被害者や目撃者である子どもたちの生活上のトラブルに対応し、大人になってもそのような暴力を繰り返さないようにするために、心理的なモニタリングを含む体系的なモニタリングの手順を確立することを推奨し、また、加盟国に対して、特定の加重状況に関する規定を含む、いわゆる目撃された暴力に関する特別な措置を導入することを求めます。

決議のポイント⑩:子どもの意見表明/虐待された子どものケアとサポート

これは24ですね。

24. 子供の年齢と成熟度に応じて、親権や里親を検討する際に何が子供の最善の利益になるかを立証するために不可欠な、聴聞の機会が特に子供に提供されなければならないことを強調します。あらゆる場合において、特に親密なパートナーからの暴力が疑われる場合には、他者への信頼が子どもの調和のとれた成長に与える影響を分析し、子どものトラウマや被害を深めることを避けるために、医師や心理士などの訓練を受けた専門家(児童神経精神医学の資格を有する専門家を含む)によって、子どもに優しい環境でこのような聴聞会が行われなければならないことを指摘します。虐待を受けた後の回復過程において、被害者とその子供たちに適切な長期的レベルの心理的・精神的ケアと社会的カウンセリングを提供することの重要性を強調します。

28でも関連したサポートの重要性が強調されています。

28. 子どもに対する暴力は、母親に対する暴力の目撃者であったり、母親に対する権力や心理的暴力を行使するために間接的に利用されることで、子ども自身が虐待の被害者となるなど、ジェンダーに基づく暴力と関連している可能性があることを強調し、家庭内暴力にさらされている子どもを支援するプログラムは、長期的な被害を最小限に抑えるために極めて重要であることを指摘します。加盟国に対し、これらの子どもたちのニーズに対応するため、革新的なプログラムを継続的に実施することを求めます。例えば、子どもたちと協力して早期警告の兆候を察知し、適切な対応と支援を提供する事業者を育成したり、子どもたちが関与する刑事・民事訴訟手続きの間、子どもたちに効果的な心理的支援を提供したりすることができるものなど。

そして、これを支援する専門家には、32において、専門家の訓練項目として「子供と女性が適切に耳を傾け、保護が優先される」べきことが指摘され、33では、「家庭裁判所が親権や面会権を決定する際に、女性に対するジェンダーに基づく暴力に関するすべての問題を考慮できるようにすることを求める。」とあります。

決議のポイント⑪:科学的根拠による対応/片親疎外の援用禁止

そして、41では再び片親疎外を含めた、非科学的な偏見・固定観念を批判します。

41. ジェンダーの固定観念や偏見が、女性に対するジェンダーに基づく暴力への不十分な対応や、特に児童虐待や家庭内暴力の推定される虚偽の申し立てに関する女性への信頼の欠如につながっていることへの懸念を表明し、裁判官、検察官、法律の専門家に対する具体的な研修が行われていないことにも懸念を表明します。教育や啓発キャンペーンを通じて、ジェンダーの固定観念や家父長的な偏見と闘うことを目的とした措置の重要性を強調し、加盟国に対し、女性の声を否定する文化を監視し、闘うことを求めます。児童虐待やジェンダーに基づく暴力の事例を報告しようとする母親を、監護権を得られないようにしたり、監護権を制限することで罰するような、非科学的な理論や概念を監護権の事例で使用、主張、受け入れていることを非難します。いわゆる親疎外症候群や類似の概念や用語は、一般的にジェンダーのステレオタイプに基づいており、子どもが父親から「疎外」されていることを母親のせいにしたり、被害者の親としての能力を疑ったり、子どもの証言や子どもがさらされている暴力のリスクを無視したり、母親と子どもの権利と安全を危険にさらしたりすることで、親密なパートナーからの暴力の被害者である女性に不利益をもたらす可能性があることを強調します。加盟国に対し、親疎外症候群を司法の場や法律で認めず、特に暴力の有無を確認するための調査の際に、法廷での使用を阻止、あるいは禁止するよう求めます。

山口亮子先生、聞こえてますかー!!

決議のポイントはこんなところです。

決議の評価:暴かれた"公正さを装った女性への偏見"

この決議の最大の評価ポイントを一言で述べるならば、こうなるのではないでしょうか。

離婚しても子育ては2人でやった方が良いだとか、離婚してもパパはパパだのという、情緒的で直観的に分かりやすく、一見公正さを装った主張の陰で、これだけ陰惨な暴力が蔓延っている。

しかも、欧州各国は拱手傍観していたわけではなく、日本よりはるかに積極的な対策を打っているにも関わらず、これだけ非難されているのです。

これを読むと、ヒト・モノ・カネの話をしないで、実効性のない法のシステム談義に堕している、法制審議会・家族法制部会の議論の、何と空疎なことか。

危機感がなさすぎると思います。

決議の課題:それでも崩れない「大きな枠組み」

そして、課題点ですが、決議の9、11の論理に如実に示されています。
原則的な在り方論、大きな枠組みとしては、離婚後は共同養育、面会交流は望ましいとされている点です。

その点の先入観は、これほど的確に辛辣な批判が盛り込まれるにもかかわらず、ついに覆ることはありませんでした。

このことは、現在、日本で導入論議が進められている、離婚後の共同養育システムを否定することが、いかに困難であるかを物語っているようにも思います。

(了)

【おことわり】
本記事に掲載された決議の日本語訳は、次のAI翻訳ツールを用いて、foresight1974が後からチェックを入れる、という方法をとりました。
文章の最終的な文責は、foresight1974にあります。

【ニュースレター配信しています】




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