この理不尽を説明してくれる『言葉』を探して_「さよなら、俺たち」清田隆之①
1、このモヤモヤを解消するには、新しい「言葉」が必要だ
先日、ある男性に理不尽な怒りを豪速球でぶつけられ、ダメージを受けた。どう考えても相手がおかしい。だから不運な交通事故として忘れてしまえばいい。
と思ったのだが、なかなかスッと忘れられない。それは、男性から受けた怒りの理不尽さについて、私自身がうまく言語化できずいるからだった。
「あの人は●●で、●●ってなって私にキレた。だからおかしい!」
と明確に断言することができない。モヤモヤする。
交通事故だって、なぜ相手が信号を無視したのか、歩道に突っ込んできたのか、簡単に曲がれるところで曲がりきれなかったのか。その理由がウヤムヤにされたままでは、怪我をした側としては納得がいかないはずだ。
それで、この状況を説明する言葉を探すために一冊の本を手に取った。
『さよなら、俺たち』清田隆之(桃山商事) スタンド・ブックス
桃山商事(恋バナユニット)の恋愛相談はいくつか読んでいたけれど、代表である清田さんについては名前を知っている程度だった。けど、最近フェミニズムっぽい本を出したらしいという情報を見て「え?」となった。
清田さんって、男性ですよね?
男性がフェミニズムについての本を出した? どういうこと?
この反応でお分かりいただけると思うが、私はフェミニズムに明るい人間じゃない。昭和・平成・令和の38年間を女として生きてきたなりの、不満、怒り、喜びを感じてはいるけれど、積極的に#Metooに参加してもいないし、上野千鶴子さんの本も読んだことがない。
だからといってフェミニズムを嫌悪したり、怖がっていたわけでなく、どちらかというと好感さえ持っていた。ただなんとなく、ショーケースに入った素敵な靴をぼんやりと眺めているような気分だったという感じがある。
男性から受けた理不尽な怒りについて、この本を読む前は一連の出来事の輪郭さえはっきりしなかったけれど、それでもフェミニズムと深い関連があるものだろう、という確信めいたものがあった。
だから、今までショーケースの外から眺めていただけのフェミニズムに手を伸ばしてみようという気になったのだった。そして、そのときケースの中にあったのが、たまたま『さよなら、俺たち』だったというわけである。
2、フェミニズム・ジェンダー論の入門書として
「フェミニズム」と書かれた看板のある大きな門には、インターフォンもなければ、入館料を払う窓口もない。門をくぐりたくても、どうやったらくぐれるか分からないうえに、門の前には怪しげな勧誘人や、大きな声で怒ったように喚き散らしている人がたくさんいる。
ネット上、会話のふとした場面で、「フェミニズム」を揶揄する言葉が囁かれ、「フェミニスト」はまるで蔑称のように使われる。でも知った顔で罵る人々に聞いてみても、彼らは門の先に行ったことはないのだという。
門の先には、本当は何があるのだろう。
そう思う、私のような人には、門の先にどんな世界があるのかを垣間見せてくれる、とても素晴らしい案内本になっている。
2ー1、信頼する人が話す話としての楽しみ
男性として生きてきた清田氏自身の実体験や、桃山商事で見てきただめんず(なんて今時いわないか)などの話を交えながらのコラムという形をとっているので、とても入りやすい。
過去の恋人たちとの淡すぎて、軽い悲鳴をあげなければ読んでいられない手紙や交換日記の文面、友人に初めて連れて行ってもらったおっパブの話、自分を頼ってきた女友達にしてしまったセカンドレイプの贖罪。
笑ったり、それは酷いなと思いながら読む。そしてそうやって読み進めるうちに、過去の過ちや自己の矛盾も含めて全てをフラットな事象として今、ここに並べて誠実に向あおうとする著者への信頼が増してくる。
そうして信頼できる友人が話す話を聞くように、楽しく読み進めることができるようになっている。
2ー2、「ちょっとかじった感、感じたい欲」の充足
けれどそれだけじゃない。
分かりやすい実体験や体験談の合間に、たくさんの参考文献と引用があって、もう少し深くジェンダーやフェミニズムについて勉強したいと思った人たちへの道筋を示す役割も果たしている。(私も早速何冊かポチった)
さらにジェンダー論やフェミニズムで使われる簡単で基礎的な考え方の紹介や、清田氏自身の論考もある。具体的には、
○褒められないと機嫌を損ねる「優越思考」
○問題に向き合ってくれず、意味や意図を分かってくれない「話の通じなさ」
○やたらと説明や解説をしたがる「マンスプレイニング」
女性なら「それ、マジであるある!!」と言わずにいられないことが事例とともに紹介されている。
これらによって、読者の浅はかな「ちょっとかじった感感じたい欲」も満たされるようになっているのである。
サービス精神が旺盛すぎる文章に、試行錯誤しながら書き続けてきた人なんだなあ、と、ここでも著者の仕事ぶりに信頼を寄せることになったのでした。
2ー3、『勃起するフェミニスト』の人徳感
そして、あえてこの言い方をするけど、
男性なのにフェミニズムについてこんなに考えてるの、すごい
ということである。みんな思ってることは一緒らしく、清田氏の学生時代のあだ名は『勃起するフェミニスト』だったらしい。
いや、でも本当に、女性でさえ躊躇する人が多い中、わざわざ男性がフェミニズムに踏み込むのってどういうこと? だって自分にはなんの得もない。むしろフェミニズムが浸透すれば、男性は今まで持っていた特権を失うことになる。得なんか何もない、損しかないのになぜそんなに私たちのこと考えてくれるの?
うぜえおっさんに日々苦しめられている女性たちからしたら、清田氏はユダヤ人を亡命させ続けた杉原千畝や、アフガニスタンに命を捧げた中村医師のような人である。
何の得もないのになぜ? 現世では徳を積んで来世で何か企んでるとか?
この疑問について、本書を読み進めて感じたことがあるけど、熱が入りすぎて長くなってしまったので、記事を分けました。
後半の方がむしろ本題なので、是非、読んでほしいです。
話が通じない男に、絶望した時に読む本_「さよなら、俺たち」清田隆之②
この記事で紹介しているのはこの本です↓
『さよなら、俺たち』清田隆之(桃山商事) スタンド・ブックス
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