メキシコとギリシャの関係性
メキシコサッカーを見ていると、ギリシャとの関わりが多いことに気づく。
現在、海外移籍が噂されているクルス・アスルのMF アントゥーナの移籍先として挙がっているクラブは、AEKアテネ。プーマスのドリブラー、セサル・ウエルタの海外移籍先の候補の中にも、同じくAEKアテネが挙がっている。
過去にギリシャリーグでプレーしたメキシコ人は9人。現在は、ピネダとピサーロがギリシャでプレーするだけでなく、逆にギリシャ人選手も、メキシコでプレーするなど、年々、両国の関係性が深まっていることが見て取れる。
この関係性は、どのように形成されたのか。
調べていくと、いくつか興味深い記事があった。
今回は、それらの記事からメキシコとギリシャの関係性について紐解いていく。
キーマンとなるアルゼンチン人指揮官
「7つの肺を持つ男」の異名を持つほど、豊富な運動量を武器に活躍したアルゼンチン人マティアス・アルメイダ。
引退後は、監督として母国アルゼンチン、メキシコ、アメリカを渡り歩いた。
その彼は、現在ギリシャで指揮を執っている。率いているチームは、AEKアテネFC。言わずと知れたギリシャの名門クラブだ。
そんな名門クラブを率いているアルメイダが、メキシコサッカーとギリシャに深い関係を築いているキーパーソンだと言われている。
その理由について、
”Matías Almeyda, el DT que siempre ha confiado en los mexicanos, aunque no trabaje en México”
「メキシコを離れても、メキシコ人への信頼が厚いマティアス・アルメイダ監督」
という見出しで、アルメイダとメキシコの関係性が書かれた記事があったので、それを引用してみる。
この書き出しから始まった記事では、チーバス時代のとある動画を紹介している。動画は、2017年アペルトゥーラ決勝の前に、アルメイダからチーバスの選手たちに語りかけているもの。
チーバスは創設以来、メキシコ国籍の選手で構成されているという伝統を持ったクラブ。(現在の外国国籍選手は3人)
そのチームの特徴に触れながら、発した言葉は印象的なものだった。
記事では、このアルメイダの言葉に続けて、こう書かれている。
ピネダだけでなく、ロドルフォ・ピサロも、アルメイダの信頼によって、ギリシャでプレーすることとなった選手である。アントゥーナやウエルタの移籍候補先にAEKギリシャが挙がるのも、彼がメキシコ人選手を熱望しているからだと言われている。
記事は、”confía en los mexicanos más que muchos mexicanos.”
「アルメイダは、メキシコ人よりもメキシコ人を信頼している」という言葉で締めくくった。
メキシコの選手がギリシャで活躍する背景には、アルゼンチン人指揮官の存在があるのだ。
引用した記事 ↓
メキシコ人選手への評価の高さ
アルメイダの存在がカギとなっているメキシコとギリシャの関係性だが、その歴史は、アルメイダがAEKアテネに就任する前から始まっていた。
ギリシャでプレーした初めてのメキシコ人は、ネリー・カスティージョ。
メキシコで生まれ、ウルグアイで育ったカスティージョは、10代の頃からその能力の高さに注目が集まっていた。
16歳でマンチェスター・ユナイテッドでのプロデビューを試みるものの、ビザの関係で、契約が成立せず。その時に、オファーがあったのが、ギリシャの名門オリンピアコスFCだった。
オリンピアコスに加入したカスティージョは、3年目から頭角を現し、在籍した7年間で9つのタイトル獲得に貢献。
退団後は、ウクライナ、イングランド、アメリカ、メキシコ、スペインでプレーし、2014年に現役を引退した。
現在は、ギリシャで生活し、サッカー界からは離れているという。
また、カスティージョは、2006年に、ギリシャへの帰化の手続きも行っている。最終的に、登録上はメキシコ国籍選手としてプレーしていたのだが、法的にはメキシコ、ウルグアイ、ギリシャの三重国籍となった。これを受け、2012年にメキシコでプレーした際には、『メキシコ初のギリシャ国籍選手』となった。
『ギリシャリーグ初のメキシコ人選手』
『メキシコリーグ初のギリシャ人選手』
この功績が、ギリシャ国内でのメキシコ人選手に対する高評価に繋がっていることは間違いないだろう。
彼の活躍があったからこそ、メキシコとギリシャ間の歴史が始まったのだ。
両国の共通点
両国のサッカーには、共通点も多い。
代表チームでは、W杯の最高成績はどちらもベスト8。
ここ数年は、ギリシャが大きく順位を下げたが、数年前まではFIFAランキング10位台だった。
また、国内リーグのシステムも似ている。
どちらもプレーオフ制導入。中位のチームにも、優勝の可能性が十分にあるなど、最後まで優勝チームの行方から目が離せない制度が特徴的だ。
各クラブの市場価値も、似た傾向にある。
メキシコクラブは、クラブ・アメリカが、9,890万ユーロと頭一つ抜け出しているが、それに続く、モンテレイが7,710万ユーロ。6位のティグレスまでが6,000万ユーロ台となっている。
対して、ギリシャのクラブは、4つのビッグクラブが7,000万ユーロ台。
ちなみに、日本ではトップの浦和レッズが、1,855万ユーロ。これらを見ても、メキシコ、ギリシャの上位クラブの市場価値は、近い数字あり、それぞれのクラブ、リーグの規模も比較的近いと言える。
この共通点の多さが、移籍の一番の問題となる金銭面をクリアし、選手が活躍しやすい環境にあるのだと言えるだろう。
このように、両国の共通点が多いのも、非常に興味深い。
メキシコでプレーするギリシャ国籍
今シーズン、1人のギリシャ国籍の選手がメキシコでプレーしている。
それが、首位のクルス・アスルに所属する FW ギオルゴス・ギアクマキス。
ギアクマキスは、母国ギリシャの他にポーランド、オランダ、スコットランド、アメリカでプレー。彼にとってメキシコは、6か国目となる。
この経歴に、メキシコメディアでは、”trotamundos del futbol” 「世界を旅するサッカー選手」と表現している。
ギリシャ国籍として、メキシコでプレーするのは、3人目。しかし、カスティージョなど過去2人は、メキシコ生まれのギリシャ国籍であるため、ギアクマキスは、ギリシャ生まれの選手として初めてメキシコでプレーすることとなった。
これに関して、ギアクマキス本人は、
とコメント。
昨シーズン、MLSで22ゴールを挙げたストライカーにかかる期待は大きい。
その大きな期待を背に受けたギアクマキスは、第3節のティファナ戦で、さっそく得点をマーク。ホームのサポーターの前で、能力の高さを示した。
試合後のインタビューでは、スペイン語を話すシーンも。
現地では、"Está aprendiendo rápido." 「吸収が早い」と話題になった。
初のギリシャ人選手としても、すぐに結果を残せたのは、海外での豊富な経験があったからこそだろう。
開幕前、"Amo la presión." 「プレッシャーは大好きだ。」と語ったギアクマキス。頼もしいストライカーが、母国ギリシャサッカー界とリーガMXに、新たな歴史を創るかもしれない。
約四半世紀の年月をかけて、築かれたメキシコとギリシャの関係性。
現在、海外組の少なさが課題となっているメキシコにとって、ギリシャ移籍は、重要なポイントとなるだろう。
少なくとも、すでにギリシャで結果を残しているピネダやピサロ。それに加え、アントゥーナの移籍が実現し、活躍すれば、さらに多くのメキシコ人選手に注目が集まることは間違いない。
また、ギアクマキスのように前例になかった移籍が、新しい風を巻き起こすことにも期待できる。
メキシコとギリシャという “意外” とも言える関係性は、両国のサッカー界の発展のために、新たな可能性を秘めている。
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