三河みりんは、お米のおいしさを丸ごと表に出したもの【三河・醸造文化の旅 #2】
おはこんばんちは。フードスコーレ校長の平井です。
段々と暑さが増してきた5月の末。スコーレメイトのみなさんと運営スタッフと一緒に、「愛知三河・醸造の旅」に行ってきました。はじめての「修学旅行」です。愛知県碧南市にある日本料理「一灯」の料理長である長田勇久さんと一緒にこの旅の計画を立て、5月28日(土)〜5月29日(日)の2日間、三河の中でも碧南〜岡崎の醸造文化の地をめぐる旅。醤油蔵、みりん蔵、味噌蔵を訪問し、蔵の方が「案内人」としてガイドしてくださいました。
旅のレポート2回目をお届けします。前回のレポートはこちらをご覧ください。
お米のおいしさを麹のちからだけで引き出す
(角谷文治郎商店 角谷利夫さん)
「日東醸造」代表の蜷川洋一さんとお別れし、僕たちは歩いて10分ほどのところにある「活魚料理よし川」へ。ここでお昼ごはんを食べます。そういえばお腹空いた!
こちらは、この旅をコーディネートする日本料理「一灯」の長田勇久さんお薦めのお店。さすが、長田さんがお薦めするだけあります。おひつに入ったごはんも、豆味噌をつかった味噌汁も、お刺身も漬物も、ぜーんぶがおいしい!
「ごちそうさまでした!」
お腹いっぱいになって英気を養ったフードスコーレ一行は、名鉄三河線の碧南駅から20分ほど歩き(けっこう歩いたけど、風が気持ちよかった!)、次の目的地である「角谷文治郎商店」へ。
「三州三河みりん」や「有機三州味醂」の醸造元である「角谷文治郎商店」は、1910年に創業し「米一升、みりん一升」の伝統的な製法のみりんをつくりつづけています。
今回は蔵を見学させていただきながら、三州三河みりん醸造元三代目 角谷利夫さんと角谷治子さんに、みりんのつくり方や特長、みりんへの想いまで、たくさんのお話を伺わせていただきました。その一部を書きたいと思います。
みりんの原料はもち米、米麹、そして焼酎。これらを仕込んで糖化・熟成。米麹の働きで、もち米のデンプンとタンパク質が分解されて、みりんの特長である甘味と旨味が生み出されます。そのとき腐敗しないようにするために、焼酎がつかわれます。
米は玄米のまま産地から取り寄せ、自社で精米した後、数トンものお米を1日で蒸すそうです。
蒸したもち米に米麹と焼酎をあわせて、タンクの中で3か月間熟成。その後、もろみを酒袋に入れて搾っていきます。ここで搾られたみりんは、四季の気候にまかせてさらに1年以上熟成させます。この熟成期間の間に、液体は琥珀色になり、みりん特有のまろやかな風味になっていきます。
角谷さんたちの言う「米一升、みりん一升」とは、「三州三河みりん」一升が、おなじ量の米一升から造られていることを指します。僕はこれを聴いたとき、添加物をつかうことなく、お米のおいしさを麹のちからだけで引き出しているという、つくり手からのメッセージだと受け取りました。
貴重な搾った後の「みりん粕」、そして「三州三河みりん」と「有機三州味醂」を試飲試食させていただきました。みりん粕はやさしい甘さで、くどさも感じません。見た目が梅の花のように見えるので、「こぼれ梅」として販売されているようです。みりんは、濃厚な甘さでもすっきりとした味わい。さすが「もち米のリキュール」と呼ばれるだけあってとても飲みやすく感じました。
みりんをこのまま飲めるとは驚きです。これは病みつきになりそう。「みなさんがいま口にされたみりんは、お米まるごとのおいしさです」という角谷利夫さんの言葉がしっくりきました。
お米のおいしさについても教えていただき、「お米は噛めば噛むほど甘くなりおいしくなります。そのとき感じる甘さは唾液の酵素によって、デンプンの一部が糖に変わっているためです。でもほとんどはデンプンのままお腹に入っていってしまいます。お腹に入って2、3時間後、腸に達するころになってデンプンは糖化されて、ブドウ糖の状態でエネルギーとして吸収されます。お米に含まれているタンパク質も、そのままだと甘くもおいしくもありません。アミノ酸まで細かく刻まれてはじめて旨味となるんです」
こうした状況を角谷さんが、「お米のおいしさを存分に引き出せていないからもったいない」と捉えているところに、なるほどと感心しました。「旨味が腸に入っているのだから、本来なら腸はおいしさに溢れて大満足しているはず」だと。おもしろい表現をされるなぁ。
当たり前だけど腸には味覚がありません。だから腸に入ったおいしさを脳に伝える手段もありません。そうしたお米の中に閉じこもったままでいるおいしさを、麹のちからを借りて四季の移ろいの中で時間をかけて、お米の中からまるごと表に引き出したのが、このみりんのおいしさなんだと、角谷さんは話してくれました。
ここまでお話を伺い、角谷利夫さんや治子さんたちが、みりんづくりに強い気持ちを持たれていることがわかりました。さいごに角谷さんが話してくれた言葉が、いまでも印象に残っています。
「わたしたちは、良いみりんをつくるというよりは、お米のおいしさをどこまで引き出せるか、そんな意識でいます。みりんをとおしてお米のおいしさをどれだけ世間に伝えていけるか。お米のすばらしさをみりんという形でお客さまへお届けしたい」
食材と伝統調味料を味わう
(鈴盛農園 鈴木啓之さん/日本料理一灯 長田勇久さん)
僕たちは2台のタクシーに分かれて乗り込み、長田さんの営む日本料理のお店「一灯」へ。長田さんにはこれまでフードスコーレの授業などでたくさんご一緒してきましたが、お店に伺うのははじめてのメンバーも多く(僕もそう)、「一灯」で長田さんのつくる料理を食べたい! と事あるごとに話していました。ついに念願かないます!
これは前菜の盛り付けでしょうか。「一灯」に着くと、長田さんはすでに料理の準備を始めてくれていました。
「長田さん、こんにちは!」
長田さんと談笑したあと、料理の準備のため長田さんは厨房へ。
料理が出てくるまでの間、この旅の案内人のおひとりである「鈴盛農園」の鈴木啓之さんに、お話を伺いました。
鈴木さんは碧南で生まれ、自動車関連企業にお勤めのあと、28歳のときに「鈴盛農園」を立ち上げました。「日本の農業をカッコよく!」をテーマに掲げ、農業をやりながらラジオパーソナリティにも挑戦するなど幅広く活躍されています。
「鈴盛農園」では、にんじんを中心にサツマイモやキクイモなどを栽培。中でも7色のにんじん「しあわせのカラフルにんじん」は、赤、オレンジ、ベージュ、白、黄、紫、黒、それぞれ風味の特徴があり、塩をつかって糖度や食味をあげる「塩農法」の取組では、愛知県知事賞を受賞されています。
今回の訪問時は旬の時期ではなかったため、にんじんを目にすることはできませんでしたが、鈴盛農園でつくっているじゃがいも、にんじんジュースをおみやげにいただきました。じゃがいもは、このあとの長田さんの料理で食材としてつかわれていました。
余談ですが。ラジオパーソナリティをやられている鈴木さん。僕は歴史の他にラジオも好きなもので、なにか鈴木さんに同じ匂いを感じて思いきって尋ねてみると(ラジオ好きは、じぶんがラジオ好きなことを他人に隠したがる)、「よく聴いてますよ」と。やっぱりそうだった! よく聴く番組も同じで話が盛り上がり、今度互いのポッドキャストに出演することを約束したのでした。
食事会には鈴木さんのほかに、さきほどまでお邪魔していた角谷文治郎商店の角谷利夫さん、そして明日訪問する八丁味噌「カクキュー」の野村健治さんにも参加いただきました。
この日の献立はこちら。んーー! 見ているだけでお腹が空いてきました!
食前酒は、角谷さんからいただいた三河みりんに青梅を漬け込んだ梅酒です。こちらで乾杯。砂糖無添加で二段仕込みの梅酒。口にした瞬間、みりんらしいまろやかな甘さが口に広がり、でも後味はすっきりしていて飲みやすい梅酒でした。食前酒にぴったり!
食前酒を飲んで、いよいよお食事スタート!
一品運ばれる度に、どのような食材や調味料をつかったのか、長田さんが丁寧に紹介してくれました。長田さんの話を終えて料理を口に運ぶと、長田さんの生産者さんに対する敬意が滲み出ていて、「おいしい」だけじゃない感情が僕の腹の底から溢れ出てきました。もうなんだろう、この幸福感は。日中には蜷川さんや角谷さんのお話を聴いていたので、「しろたまり」や「三河みりん」の話もすんなりと入ってきて、料理を味わうことができました。
愛知三河の醸造の歴史とともに歩んできた、みりん、白醤油、八丁味噌などの伝統調味料。それらのつくり手のみなさんといっしょに最高の料理を食べる。本当に幸せな時間になりました。長田さんでないと、あの夜は生まれなかったと思います。長田さん、ありがとうございました。そしてごちそうさまでした。
フードフィールド「三河・醸造文化の旅」の1日目は、こうして無事に終えたのでした。2日目は岡崎市八帖町へ向かいます。
<つづきます>
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