新規就農で「養蜂家」に!苦難の末にたどり着いた養蜂の面白さとは―辻諒太さん―
今回は、オンラインサロン#FOODlabのメンバーでもある、福岡県嘉麻市の辻養蜂場 代表『辻諒太さん』に、養蜂家になるまでの道のりについて伺いました。家業でもなく、ツテもない養蜂の世界に飛び込んだご経験を元に、これから新規就農に取り組む方へのアドバイスも含めてご紹介します!
新規就農でなぜ養蜂家に?
―辻さんこんにちは!自己紹介をお願いします。
辻:養蜂家6年目の辻です。ミツバチを飼育して増やし、蜂が集めてきた蜜を採る『採蜜』をして販売をしています。主にレンゲのハチミツと、さまざまな花の蜜で作った百花蜜という商品を作っています。それから、同業者向けにミツバチ自体の販売もしています。
福岡県嘉麻市近辺のスーパーや道の駅で購入できるほか、ふるさと納税の返礼品としても提供している辻養蜂場の百花蜜。⇒ふるさと納税で受け取りたい方はコチラ
―農業の中でもかなりニッチな分野ですよね。なぜ養蜂を選んだのですか。
確かに、プロの養蜂家というのは全国的に見ても少なく、かなり特殊な仕事です。
私の場合、たまたま母方の実家が庭でミツバチを飼っていて、それを見て育ったのが一つのきっかけにはなったと思います。中学生のとき受験勉強が嫌になり、進路を決めないと…となって。生き物が好きで、地元で働きたいと考えた結果、母の勧めもあって養蜂家になろうと決心したのです。
―中学生の時にもうそこまで考えていたんですね!そこから新規就農までの流れを教えてください。
まず農業のことを何も知らない状態だったので、高校卒業後は農業大学校に行きました。
養蜂については、その学校の先生が藤井養蜂場(福岡県朝倉市)とのツテがあり、研修をお願いしてくださったんです。実は1回断られました。養蜂は場所がとても大切で、他の養蜂家が活動している地域で新たに開業することは難しいためです。藤井養蜂場の親方からは、技術は教えられても、食い扶持の責任がもてないから、と言われました。
しかし2、3か月後再度連絡がありました。私が住んでいる地域を調べてくださり、そこには他に養蜂家がいない、つまり場所が確保できるから大丈夫でしょうと。それで、弟子入りを許されたのです。
―場所の話は養蜂ならではですね。
はい。昔ながらの縄張り争いの世界と思ってください(笑)。他の方の所有地に蜂箱を置かせてもらい、周囲に咲いている花を利用して蜜を集めるため、他の養蜂家が既に活動している場所に参入することはできないのです。私のいる福岡県嘉麻市でも、プロの養蜂家は私一人。これは他の農作物なら考えられませんが、養蜂の世界ではある意味当たり前のことです。
その他、師弟関係やこの業界ならではの慣習もあって、結果的に他の農業以上に年齢層は高く、新規参入の厳しい世界です。藤井養蜂場で修業した私は23歳で開業しました。養蜂家として、当時は日本一若い開業だったと思います。
許可を得られた土地に巣箱を置かせてもらう
新規就農者として地域でどう受け入れてもらったのか
―嘉麻市では新規就農者としてどう受け入れてもらったのですか?
蜂の仕事は特殊で目立つこともあり、嘉麻市では地域の新しい特産物のように受け入れていただきました。嘉麻市役所の方にもとても親身に就農のサポートをしていただきました。農家さんの後継者不足などの問題もあり、行政としても新規就農者を増やしたいと考えていると思います。
―お客様の反応はどうでしょうか?
現在、自宅の一部を直売所に改装して営業しており、たくさんの方にお越しいただいています。直売をしてみて、ハチミツは人を惹きつける力がある商品だな、ということに驚いていますね。
人を惹きつける辻さんの百花蜜
―辻さんのハチミツの魅力も、やはりあるのではないでしょうか。
糖度にこだわったものが作りたいと思っています。蜂の巣の木枠からシャバシャバと蜜が流れ出てしまうような時は糖度が薄いので、蜂が翅で水分を飛ばして蜜が濃くなるのを2、3日待つなど、量よりも質を重視して採蜜しています。一般的なハチミツは、糖度75度程度の物もあるようですが、うちでは70度台後半、80度を目指して作っています。
巣箱を設置した場所に機械を運び、現地で採蜜の作業をする
―新規就農でこれだけ成功するのはすごいことだと思います。
私はどこかに出かけていって、人と会い、話をするのが好きなんです。藤井養蜂場で一から教えてくれた親方や、応援してくれた養蜂家の先輩たち、そして地元の行政の方々。たくさんの方との出会いがあってこそ、新規就農で成功できたのだと思います。#FOODlabを通して米戸君と知り合えたのも、出会いの一つですよね。
―米戸さんはどうして養蜂に興味をもったのですか?
米戸:小学生の頃から地元で蜂の巣箱が置いてあるのを見ていて、蜂ってかわいいなあと思い興味を持ちました。父と自宅で数箱のミツバチを飼育していましたが、プロの養蜂家さんがどのように蜂を育てているのか知りたく、今は週1回程度、現場で辻さんの手伝いをしたり、養蜂の作業マニュアルの作成をしたりしています。
―マニュアルの作成とは勉強になりそうです!辻さんにとってはどのような目的があるのでしょうか?
辻:養蜂の規模が大きくなるにつれ、雇用も考えるタイミングになってきました。他の農業を見ていると、マニュアルを作るのは選択肢として当たり前になってきています。養蜂業界も、そのように変わっていく必要があります。米戸君にも、一通りの仕事をしながら幅広く学んでもらえるのがよいと思ってやっています。
新規就農のための心構えとは?農作物はどう選べばいい?
―新規就農においては、辻さんのように勇気をもってその業界に飛び込まないといけないと思いますが、どんな心構えが必要でしょうか。
新規就農したい、または新規就農で迷っている人は、まず自分はどういう人間かを知る機会を増やした方がいいと思います。それによって、やるべきことはこれかな、とか、農作物はこれがいいかな、と正解が見えてきます。
うまくいっている農家というのは、個人のキャラクター、作っている農作物、そして経営のスタイルが全部一致しているんです。お笑い芸人がネタをやるときに、その人の元々のキャラクターと一致している人がブレイクしやすいのと同じ原理ですよね。
―個人の性格ごとに向いている農作物があるんですか!?
はい、すごくあります。例えば米麦大豆系は広い規模の農地を管理して大型機械で刈っていくスタイルで、新規就農というよりは代々土地を受け継いでいる方がほとんどですが、そうすると農地や水の管理など、周りから頼まれることがすごく多い。自然と人間力が高い、人格者が多くなります。
また水菜やほうれん草など葉物野菜系は、大規模に作ってなんぼの世界です。必然的にいけいけ系、おらおら系の農家が多い(笑)。
桃や梨の果樹系は、味にめちゃくちゃこだわるタイプが多い、などです。
―すごく面白い。というか、単に「新規就農したい」というのでは解像度が低い考えに思えてきました…。
逃げの気持ちで新規就農を選ぶと絶対失敗します。例えば自分はサラリーマンには向いていないからとか、自分ができるのは農業しかないんじゃないか、とかは失敗、停滞しやすいですね。
逆に、ベースにその作物が好き、その作業が好きという気持ちがあれば、大丈夫だと思います。私には養蜂があっていたと思います。巣箱を設置した現場で採蜜をするために、トラックに機材を積み込んで移動したり、全体を俯瞰で見て仕事をするのが好きなんです。ずっと同じ場所で、同じ単純作業だけだったら、多分嫌になっていたと思いますね。
現地での採蜜作業の様子
―ご自身の強みと弱みをどういう風に分析されているか、教えていただけますか。
私の場合、実家が養蜂場ではなく、新規就農者だということは、強みであり弱みでもあると思っています。老舗の養蜂場と同じマインドにはなれない代わりに、他の農作物の経営や考え方と比較したりなどフラットに物が見れて、老舗がやらないことに挑戦しようと思えるのは強みですね。
―最後に、養蜂家としてこれから挑戦したいことを教えてください。
結構やりたいことが多くて…(笑)。まず養蜂ではミツバチの群数、規模をどんどん大きくしていきたいと思います。
次に直売所をもう少し景色の良いところに移し、そこに巣箱も置いて、ミツバチを実際に見ていただけるようにできたらと思っています。ハチミツを買ったという体験の満足度を高めていく形ですね。さらに、農業大学校ではいちごを専攻していたので、ハチミツといちごをベースにした観光農園を開くのが目標です。
周りの方に恵まれ、注目や期待していただいている部分もありますので、それに応えられるよう年々成長をし、新しい特産物として地域に貢献できるよう、やっていきたいと思います。
―ありがとうございました。
お話を伺ったのは…
辻養蜂場 養蜂家
辻諒太さん / Ryota Tsuji
福岡県嘉麻市出身。福岡県農業大学校卒業。藤井養蜂場で養蜂の基礎を学び独立、嘉麻市で唯一の養蜂場を開業した新規就農者の1人。「この地で採れたハチミツの良さをより多くの方に伝えていくこと」を使命に活動中。無添加、非加熱の製法にこだわり、新鮮かつ純粋100%、豊富な酵素と本来の風味100%といった特徴の蜂蜜を生産、販売する。
辻養蜂場HP:http://tsuji-bee.com/
辻養蜂場インスタグラム:https://www.instagram.com/tsuji_apiary/
辻さんのfacebook:https://www.facebook.com/ryota.tsuji2
辻養蜂場 インターン生
米戸心之輔さん / Shinnosuke Yoneto
岡山県出身。九州大学農学部在籍。辻養蜂場のインターンを通して、養蜂やその販売サポートなど将来の進路を検討中。
インタビュー・編集
FOODBOX広報部O
~私たちFOODBOXについて~
下記サイト、SNSを日々更新中!ぜひご覧ください!
■ 食・農業系オンライン コミュニティ #FOODlab
Instagramでは、日々の活動や業務の様子を発信しています。
■ FOODBOX 公式 Instagram
次に読むなら、この記事!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?