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卒業

 退職の事を卒業という表現をするのがあまり好きではない。いつからかアイドルを中心に使われ始めた卒業。脱退って言えよ!と思ってしまう単語であり、何かこうオブラートに包もうとしている所が嫌らしく思えて気に入らなかった。何故堂々と脱退って言えないのか?堂々と言えばいいじゃないかと。だが、自分がこうして使ってみると別にそれが卑怯な事でもないし、そもそも特別オブラートに包んでやろうとかいう気持ちが芽生えた訳でもなく、シンプルに使いやすかっただけの事だと気づく。というより、心境という意味で考えてみると、卒業という言葉はむしろしっくり来るようになる。

 私が接客の仕事をやり始めた時点で音楽の仕事をフリーランスとして受けており、掛け持ちの作家として接客業を行っていた。仕事の割合の話になるとまあ御察しの状況ではあったものの、一応収益という意味では仕事を頂く事が出来ていた。しかし、接客の仕事を長く続けていると、なかなか本来自分がやりたかった仕事、なりたかった自分からは遠ざかっていたように思う。

 接客時代の話は個人用のnoteにて書いてきたので今更つらつら書くのはやめておこうと思う。

 そんな接客の仕事も昨日遂に卒業してきた。入社したその時から退職時期を決めていたはずなのに、何かと理由があって気が付けばこの年まで働いてしまった。予定の倍以上働いてしまった。

 はっきり言うと組織としてはだいぶ腐っているし、スタッフの評価方法、仕事のやり方等もかなり人として問題のある会社だったと思っている。そして、所属する店舗によっては人間関係も終わっていたなと。この7年ちょっとの間に私は一体何人の人と揉めただろうか?そして何人の人を憎み、何人の人に憎まれるようになっただろうか。嫌いになった人はいちいち数えていない。中には記憶から忘れてしまう事が多いから。だが、本当に嫌いな人というのはきっとじいさんになるその時まで覚えていると思う。私の性格的に子供の頃から人を嫌う才能は早くに開花しており、憎しみに関しては継続力が異常な程に強いから。

 それでも、心の底から尊敬出来る人や、退職後も付き合いを続けたいと思った人も居て、楽しい時期もあった。

 しかし、そうは言ってもお互いがずっと同じ職場で働く訳ではなく、今回の私のように卒業をしていくスタッフが多く、この7年で沢山の人との別れを経験してきた。だからこそ、職場で仲良くなる事のメリットもある一方、退職後に途切れてしまった瞬間のあっけなさは言語化するには辛すぎる。

 温度差と言うのだろうか?それが結果的に職場での人付き合いは深く持たない方が良い事を学ばせてもらった。こちらが相手の事を気に入っていたとしても、相手にとってはそうとは限らないから。そもそも好き嫌い以前に職場での人間関係はプライベートには絶対持ち込まないという鋼の意思を持つタイプの人もおり、そしてそういう人に限って割とフレンドリーに接するタイプだったりするものだから。寧ろ分かりやすく距離を取るような人というのは、大体3か月ぐらいで姿を消している。

 それでも何だかんだ七年の歳月を過ごしてきただけあり、嫌いになった職場でも飛ぶような辞め方や揉めるような辞め方だけはしたくないと思っていた。何せ店長やマネージャーをやらせてもらった分、仕事の評価をしてもらった事に関しては接客の仕事が初めてだったように思うし、それが結果としてアルバイトで掛け持ちをしていたにも関わらず、履歴書に書いても恥ずかしくない仕事を行う事が出来たから。

 だからこそ、結果論としては会社の体質、やり方に嫌悪感を抱いて立ち去る事を選んだのだが、感謝をしている部分も大きかった。他に両親の事や今後の人生の事、何よりあくまでフリーランスとしてやっていきたいという願望は接客の仕事に就く前から思っていた事であり、というよりそもそも接客の仕事よりも先に音楽の仕事は始めていた為、遅かれ早かれ今のようなスタイルじゃなかったとしても、フリーランスを続けるか、正社員に戻るかの選択をしていたのではないかと思う。

 こうして色々理由はあるものの、七年も続ける事が出来たからこそ、去り際は揉めたり飛んだりせず、正しくちゃんと退職をしたいと思った。

 今までは正直揉めて辞める事が多かったし、社会保険を打ち切られるようなエグい状況も経験した事がある。だからこそ、基本的に今までの退職に関しては後腐れも何もなく、清々しい気持ちで次の仕事を始める事が出来ていた。

 しかし、今回はやはり七年という長い期間を過ごしてきた事、そしてちゃんと退職のプロセスを踏んで辞めたからこそ、色々思い返すこともあるし、何だかんだ名残惜しさがこみ上げた。多分半年ぐらいはあれだけ嫌いだった接客の現場も、思い返す日々が続くのでしょう。

 退職の形なんてどうせ辞めるなら関係ないと思うかもしれない。だが、可能であれば退職は揉めたり飛んだりする道を選ぶのではなく、ちゃんと退職日を決めて去る事を勧めたい。少なくとも私はそれでだいぶ心が救われたから。

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