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やっぱりあんたん家がいいのよ


死にたがりの親友の家に逃げ込む32度灼熱のトウキョウ ミッドナイト。

彼女の仕事が終わるのを待つ北千住。
買うはずもないオレンジ色のワンピースは夏の装いに十分すぎる爽やかさ。ジブリに出てきそうな少女感を1万5000円で買った24歳女。ついでに夏の主役ヘルスニットのtシャツを一枚。色はピンクにしておこう。いつも黄色や緑で元気な私を演じてしまう。ピンクで女の子であることを自分にも、周りにも認識させるんだ。

私も女である以上は可愛くありたいし、可愛いと言われたい。


北千住はなんだかガヤガヤしていた。商店街のような。ルミネの8階にある本屋はそれはそれは品揃えが天才級であった。仮にも旅行中で、荷物は出来るだけ減らしたい私。読みたいと思った本をひたすらにメモする。

夜はチーズケーキを食べよう。向日葵も買って帰ろう。死にたがりの彼女にはなんだか花をプレゼントしたくなる。花の儚さやアンニュイな生かされ方が彼女そのものだからかもしれない。


韓国のチキンを二人分買ってあんたの家に帰る道。それはそれはもう暑い夜でさ、彼女は言った。

どーやったら朝涼しく起きれるんかな?

クーラーやろ
寝る時付けんと?

寝る時は消すよ

健康志向なのか倹約家なのか、私は毎日冷蔵庫とも言える部屋で過ごしているので、そんな夜は耐えられない。

電気代払うからさ、クーラー付けて欲しい。
私暑がりなんだよね、

いいよ、その代わりスマホに音楽入れるの手伝って。

そんなもの対価にならないだろと私は思ったのだけど、まあクーラー付けてくれるのなら私はなんだっていい。

彼女は明日幕張メッセで音楽イベントに参加するらしい。テレビで放送されてるアレね。その待ち時間を埋めるために大好きな推しの曲をスマホに入れるのだと。

彼女の新居は相変わらず綺麗な部屋だった。広いとは言えないけれど、独り身には勿体無いくらい良い部屋だった。

大学時代から私は彼女の家に転がり込むのが大好きだった。自由な時間を過ごせて、私のことをほっておいてくれる。かまってほしいと言うと、それさえもスルーしてくる。それくらい雑に扱ってくれる友達は他にいない。

1言うと5くらいの返答をしてしまう私のことをいつもアホやな〜と見守ってくれているのが彼女なんだ。

死ぬの?てくらいの雰囲気を漂わせているくせに、たまに見せる笑顔は可愛らしいもので、ドキッとさせられる。

彼女は自分にそんな魅力があると知らないんだろうな。
一生知らないままでいい。それが彼女の魅力だから。


朝6時に家を出た彼女。
朝9時に目を覚ました私。

彼女のいない部屋で過ごすことなんて容易い。それを許してくれている事に有り難みもちゃんと感じてる。

置き手紙と千円札を一枚置いて私もこの家を出た。

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