初代王者になれど慣れぬ
あったかい湯餃子は胃に合う。鼻に合う。私に会う。
初めて湯餃子を口にした昨日。あのおいしさは初代王者になった。
初代王者になった奴らはどんだけデカい顔をできるんだろうな。
あの時優勝したとて、たくさんその称号をもらって、おんなじ色のメダルを持った人間たちはいるんだろうな。
15連覇したとて、初代王者の過激すぎる呼び名に勝るものはないんだもの。
でも初代王者にも彼らなりの悩みもあるわけで。
私はあなたの初代王者だと思っていたのだけれど、その称号をむしりとったわけだけれど、結局ただの友達に降格して、私の記録を更新する強者が出てきたわけで。
そんな称号いらなかったよ。そんなのもらうくらいならチャレンジャーで戦い続けたかったよ。
記憶は上書き保存でしかないから、一番新しい記憶があなたの中に残るから。
せっかく名前をつけて保存したのにどんどんどんどん違う私になっていってるんだもん。こんな風に思うなら初代王者になんてなりたくなかったよ。
新しいものは怖いけれど慣れられる方がもっと怖い。最初の盛り上がりを忘れるように日常に溶け込んでしまうほどの慣れはリセットボタンみたいだ。
初めて餃子とビールを一緒に食べた美味しいの感情
初めて引っ越しの荷造りをした時の虚無に似てるあの感情
初めて仕事をサボった時の罪悪感にまだらに混じる幸福感を匂わせる感情
初めて見た初日の出は曇り空から顔を覗かせていてこの気持ちをどう言葉にすればいいかわからなかったもどかしい感情
初めて経験した感情の初代王者達を、美味しい、寂しい、葛藤、残念、でまとめてしまっているこの慣れに鳥肌を覚えるよ。
歳をとるにつれて私の中の初代王者達はファイリングされて捲り捲られることも無くなってしまっている。
はるか昔に誕生した初代王者達は今私の中でどんな気持ちでフツフツとそのもどかしさを沸き立てているのだろう。
それでもあなたに代えられるものはいないから安心して。
あの時の気持ちを忘れないために今日もセブンのカニカマを夜ご飯代わりに食べる。