君に似合いそうなパンを見つけたんだ
私にまっすぐな愛を向けてきた君のことをなんと呼ぶか迷っている。
私には眩しすぎる。
橙色をした君の瞳は太陽と遜色なかった。
「パン屋に行ったんだよ、今朝」
「うん、それで?」
「君に似合いそうなパンを見つけたんだよ」
「フランスパン?」
「ううん、クロワッサン、層を重ねすぎている。クロワッサン」
「理解に時間がかかる話は好きじゃないよ」
「感覚的な話だから」
「そう」
それから彼は私に似合う野菜や魚、果物。時には温度、時には感情を探してきた。物体ならまだしも概念を持ってきた時は目を背けるしかなかったのだ。
どんぐりを拾ってきた子供みたいに、私に似合う何かを見つければすぐにもってきた。
彼の話す言葉はヒラギノ角ゴシック体だ。
ゴシック体とは少し違うくて角に少し丸を付け足したような柔らかさ、消しゴムで軽く擦ってしまうと消えてしまう細さ。
クロワッサンは層を一枚一枚剥がして食べるのがいい。二等辺の頂点からゆっくり剥がしてちぎって食べるのがいい。
「何層にもなってるからね」
「それが私なの?」
「感覚的な話だから」
「深みがあるってこと?」
「ううん、軽くて甘くて、匂いが重なってるってこと」
「 」
「フランスパンだと思っていたわ、いつも鋭くて堅い、揺るがないものを持って生きているつもりだから」
「二面性だから、君は、それは表でしょう」
「 」
「クロワッサンは僕の特権ってことにしておいてよ」
「明日の朝ごはんね」
詳しく説明をしてくれない、その心地よさにずっと胡座をかいていたんだと思った。歪な二等辺三角形のクロワッサンを見るたびに自分を思い出してしまう、彼からの暴力だった。
明日の朝ごはんはクロワッサンにしよう。