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オーケストラ部⑧ その他エピソード集

 ここでは、最後の定期演奏会前までのこまごまとしたエピソードを載せる。

<1年生の時の合宿>

 ハイライトは「金管ズのマッピアルゴリズム行進で潮永が戦線離脱」「よっちゃんのいたずらからの土下座が14年後創作のネタにされる」だが、それ以外のとても些細なエピソードを書く。

「合宿へ行くバスでお菓子を分け合う」という行為のワクワク感ったらない。

 私は無難にトッポとプリッツサラダ味を持参したのだが、隣の子は“ドライトマト”を袋いっぱいに持って来ていた。

 私は初めて見る「ドライトマト」なる物体を「お菓子」に認定することに対して、非常に懐疑的であった。
 え、野菜?ドライフルーツは好きだけど、トマト?私を含めた周囲数人が明らかに怪訝な顔をしたのに対し、彼女は「甘くておいしいから!とりあえず食べてみてよ!」と、一粒ずつ勧めてきた。

 しなびた赤い物体を全く期待せずに食べた私は、その凝縮された甘酸っぱさとねっとり濃厚な感触に病みつきになった。手のひらを180度反して即行2粒目を要求した私を見て、彼女は満足そうだった。

 ちなみに調べたら、ドライトマトにはおやつ用の砂糖漬けのものと、そうでない料理用のものがあるらしく、私が食べたのは恐らく砂糖漬けだ。気になった方は是非食べてみてください。

 あと本当に些細なエピソードとしては、「とある2年の部屋で、ananのSEX特集を読んでいるらしい」という噂を聞き、私が「いいな……」と密かに思っていたことなどがある。

<リーダー業>

 1年の冬に次期役職者を決めると書いたが、各パート(楽器)のパートリーダーとセクションリーダーも決める。

 我々金管セクションは全員がリーダー業に対して大変消極的で、完全に押し付け合う形で私がホルンのパートリーダー兼金管セクションのリーダーをやることになった。
 “リーダー”の響きに完全に萎縮した私は、「リーダーやるけどみんな助けてください」という、頼りがいが無いにも程がある就任スピーチを披露した。

 次の年に入って来た1年金管には中学からの経験者が多く、自分よりも上手い彼らにリーダーとしてダメ出しをしなければならないという責務には、内心震え上がっていた。そんな頼りないリーダーに、金管は1年も2年も嫌な顔一つせずについてきてくれた。「ついてきてくれた」と言えるほど主導できた自覚はないのだが、とにかくみんな温かかった。本当に感謝している。

<顧問の無茶振り>

「元フルート希望の人に立って意見を言ってもらいましょう」の顧問から、もう一つ激烈な無茶振りを受けたエピソードがある。

 2年生だけが集められ、“顧問と一緒に「運命」への理解を深め、楽曲への解像度を上げよう”という、座学の時間が設けられたことがある。
 そこで顧問は「第2楽章はどんな曲ですか?」と、端の部員から順番に質問していった。私の番がそろそろ来るので自分なりに答えを用意していたのだが、私の番になると彼女は「第2楽章はどんな味ですか?」と、急カーブ過ぎる球をぶん投げてきたのである。

 当然そんな質問は一切想定していなかった私は「あ、味ですか!?……えー……」と口ごもった。数秒間沈黙が続き、「と、とりあえず、甘い感じはします……」とふんわりした解答を捻り出した私は、自分が瞬時に「第2楽章の解像度が低い奴」に降格したのを感じた。

 何度も演奏し、プロオケのCD音源も何度も聴いた「運命」の全楽章に、自分なりに愛情とこだわりを持っていた私は答えられなかったことが非常に悔しかった。もう一生聞かれないだろうが、私なりの答えはその日のうちに用意できている。

「運命」の第2楽章の味は、粉砂糖です!しっかり甘いのに気づくとすっと実体が消える、芯と儚さを併せ持った甘さです!ドヤァァァ!!おい聞いてるかK先生!?もう一回私に聞けぇえええ!!!


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