オーケストラ部⑩ 引退、そして2022年
卒業式の後、国立後期までの大学入試が完全に終わったら、卒業コンサート、通称「卒コン」が行われる。
これはコンサートと名付けてあるが、お客さんを迎え入れることはしない。駒フィルの1・2年生と、卒業式を終えた3年生だけで行う、“駒フィル流送別会”である。
駒フィル流ということで、1・2年生から3年生へ向けて演奏を送り、2・3年生も1年前の定期演奏会で披露した懐かしの1曲を演奏する。
楽器を触るのすら1年ぶりの3年生は、たった数日のリハーサルで「運命」の第4楽章を仕上げなければならない。卒コンとは、現役バリバリの1・2年の前で3年が無理難題に挑む、伝統的なドM行為なのである。1年ぶりの合奏が終わるやいなや、全員が「うわヤバー!」と悲鳴を上げ、必死で1年前の感覚を取り戻しに行く。
卒コンが終わって数日後には4月になり、私は大学生になった。
ピアノ8年、フルート4年、ホルン2年の楽器人生に区切りをつけ、私は以前から憧れていた演劇と大好きな英語が合わさった、英語劇サークルに入った。
当時流行っていたFacebookで駒フィル部員や同級生と繋がり、知っている名前を見ては懐かしんだ。
大学では専攻の化学をサボって語学ばかりやり、就活に翻弄され、社会人になり、大人の汚さに心が荒んだりし、結婚もした。
そして2022年3月、28歳のこと。
英語劇サークルで演じた「ウエストサイドストーリー」の、スピルバーグ監督版の映画を2回観た私は、「レナード・バーンスタインの曲かっこいいなー」としみじみと思っていた。そして、「そういえばキャンディードもバーンスタインの曲か」とふと思い出した。駒フィルが演奏したクラシック音楽の中でも作られたのが1950年代とかなり新しく、現代的でかっこよかった印象がある。
Amazonミュージックで探した「キャンディード」序曲の音源を聴いた私は、思わず「は?」と大きな声を出した。
弦が速すぎるやら拍子が意味わかんないやらで、次々と訪れる難関にもはや爆笑してしまった。笑うしかない難易度に、「自分ら、マジでこれやったの?」とにわかには信じがたい思いだった。
思わずFacebookに「駒フィルヤバ過ぎ」の投稿をしたら、世界的バイオリニストの同級生から連絡が来て、会って音楽の話をすることになった。
その準備として、定期演奏会のDVDを見返すことにした。
弦楽器がもの凄く揃ってて、初心者にしては上手すぎる。自分のホルンも注目してみたが、失敗した箇所が全部分かって気が散るので、それは早々にやめた。
そして終盤の「運命」第4楽章。よっちゃんの妖精のように輝くフルートソロに度肝を抜かれ、①の冒頭の状況となる。「私、この人押しのけてフルートやろうとしてたんだぁ……」と、私は乾いた笑いを漏らした。Aが指揮者ではなくフルートで参加している代のDVDも見たが、この2人のフルートのうちどちらかが私に置き換わってしまったら、それは駒フィルにとって多大なる損失となるだろう。というかまず、私が2人のファンだから何より私が困る。
合奏中のホルンの位置はフルートに近く、フルートが指名されて自分はただ聴いている時間は、もう一度言うが至福だった。あんな特等席、お金を払わなきゃ割に合わない。
先日「舐め腐っていた志望校選び」(駒場高校が第一志望になった経緯)を書いた際に駒フィルでのエピソードを入れることを検討したが、多そうなので別できちんと書くことにした。
そして「全肯定連想ツリー」の記事を読んで、「駒フィル」を中心に連想ツリーを書いてみたら止まらなくなった。この全10話の記事を書く過程で連想ツリーの紙はどんどん増え、結果A4用紙11枚分のメモが出来上がった。ネタと思い出の宝庫すぎる。
こんなにも私の人生に彩りを与えてくれた駒フィルのことを、いつの間にか思い出さなくなっていたことに驚いた。そしてこの機会に詳細に思い出し、文章にまとめることができて、とても良かったと思っている。
最後に駒フィルと仲間たちへの感謝を込めて、駒フィル部員ならご存じのフレーズで締めくくろうと思う。
駒フィルが、いっちば~ん!!