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レジのマツダさん

毎日長い文章をアップすると、読んでくれている人への嫌がらせだと思われるかもしれないし、誰も読んでくれなくなるかもしれないので、今日はライトに行こうと思う(笑)

文章の筋トレでやっているように、時間を決めて書きたいことを書く。途中でトイレに行ったり、お菓子を食べたりもする時間も入れて、今日は60分。よーいスタート。

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マツダさんについて書こう。
マツダさんは、前に住んでいた家のすぐ近くのスーパーで働いている女性だ。40歳くらいに見える。顔はタサン志麻さんに似ている。伝説の家政婦の志麻さんのように、面長の顔をしている。

マツダさんのユニフォームは、白いシャツに緑のエプロン、黒いパンツ、黒い靴。シャツの袖を2回折り返し、細い手首がのぞいている。頭には、緑色のベレー帽。ちょこんと頭の上にのせるのではなく、古い映画に出てくる少年のように深くかぶっている。

身長は私より少し低い。155cmくらい。エプロンの胸元にオレンジの四角い名札をつけている。スーパーのマークの横に「マツダ」と書かれている(実際は漢字で書かれているけど、なんとなくここではカタカナで)。

当時は毎日のようにそのスーパーに行っていた。うちの大きな冷蔵庫と考えていた。夜、翌日の子どもたちのお弁当のことを考えて「あれがない!」となっても、ささっと買いに行けた。

何度も行っていると、そのうちの何度かはレジでマツダさんにあたる。最初は、声が小さいなあ、動きがゆっくりだなあ、目線が独特だなあ、と思いながらマツダさんを見ていた。日々観察しているうちに、だんだんハマっていってしまった。

右手で商品をカゴからサッと取り出し、スッとバーコードを読み取らせる。それを左手でカゴに入れるときは、カゴに当たるか当たらないかくらいのソフトタッチでシュタッと置く。たまにそういう、優雅に丁寧に商品を扱ってくれる人がスーパーやコンビニにいるが、マツダさんもその一人だ。

そして、その動作をしながら、レジに表示された商品の金額を読み上げる。298え~ん。458え~ん。小さい声だけれど、耳に染み込んでくる。リンと鈴がなるように、高いところから聞こえてくる。金剛鈴の音のようだ。

サッ、スッ、シュタッ、リン。
サッ、スッ、シュタッ、リリン。

一定のリズムで繰り返されるそれは、催眠の誘導のようで、ついついじ~っと見入ってしまうのだ。

「買い物袋、お付けしてよろしいですか」
「割引クーポンは、お持ちですか」
「Tカードは、お持ちですか」

そういう、すべてのお客さんに呪文のように繰り返し確認している言葉も、澄んだ声で、詩を読み上げるようだ。

その一連の動作と発声を、マツダさんは常に菩薩のように「半眼で」行っている。

お年寄りや子どもなど、相手によって態度を変えたりもしない。
一連の落ち着いた所作のままだ。

マツダさんはきっと、一連の所作を、レジ係としての美学というか、プライドを持ってやっているのではないか。もしくは、すべての仕事を、動く瞑想として、自分の心を見つめながら行っているのではないだろうかと思えてくる。

するとだんだん、マツダさんがどんな人か、興味と妄想が湧いてくる。
バックヤードでは他のパートさんとおしゃべりをするのか。どんなおしゃべりをするのか。どんなところに住んでいるのか。家族はいるのか。どうしてここで働こうと思ったのか。家にいるときも美しく動くのか。だら~んとしたりもするのか。どんな音楽を聞いて、どんなテレビを見るのか。志麻さんのように料理は上手いのか。どんなことに笑うのか。どんなことを日々の楽しみに思っているのか。

ストーカー並だ。


2年半前に引っ越しをしてからも、たまに必要があって、そのスーパーに行く。月に1度程度だ。

レジは全部で20か所近くある。休日の混んでいるときなどにマツダさんを見つけるのは難しい。そのうちマツダさんがいるかどうか、マツダさんに当たるかどうか、をあまり考えなくなっていた。

先日もそうだった。私は何も考えずにレジに並んでいた。
すると、一つ隣のレジ係がマツダさんだった。

(マツダさんっ!)

心は久しぶりの友人との再会くらい、盛り上がっていた。
が、顔は平静を装い、ちらちらと、メガネの隅からマツダさんを観察した。

マツダさんは、ビニールシートの向こうで、面長の顔を大きなマスクで覆い、サッ、スッ、シュタッと、商品をカゴに入れていた。

「すべての行為が、生きることそのものなのです」

そう言っているようだった。
マツダさんの心持ちを勝手に想像しながら、私は隣のレジでクレジットカードで支払いをし、商品を袋に移す台にカートを移動した。そして、持参したエコバッグに、スッスッと、音を立てずに商品を入れようとした。

サッ、ゴンッ。
「チッ」。
まだまだ先は長いのだ、と悟った。

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大前みどり
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