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あのから揚げが食べたい!

おふくろの味の記憶がない。母が作った料理で唯一残っている記憶は、おにぎりの形が三角ではなく丸だったこと。

母はたぶん料理がそんなには得意じゃなかったし、お店(文房具屋さん)を営んでいて、毎日20時過ぎまでお店をあけていたので、夕飯は姉と私が小学校一年生の頃から毎日交代で作っていた。外食や出前、買ってきて済ますことも多かった。

当時うちでは「タイヘイファミリーセット」という、あらかじめ決まったメニューの中から注文して、人数分の食材を配達してもらうというサービスを利用していて、食事当番のときはそのレシピを見ながら作っていた。ただ、小さい子が一人で揚げ物をするのは危ないという理由で、揚げ物のメニューは注文していなかった。

そんなわけで、普通のお宅だと当たり前に食卓に登場するであろう「から揚げ」は、スーパーやお肉屋さんなどで売っている出来合いのものか、ほか弁のから揚げ弁当ということに、うちではなっていた。

そんな今でいう「中食」のから揚げの中で飛びぬけておいしかったのが、地元の「ほっかほっか大将」というお弁当屋さんのから揚げだ。うちから自転車で10分くらいの場所で、なぜか私はよく買いに行っていた(行かされていた?)。

兵頭ゆきさんを少しふっくらとさせたような、いつも笑顔のおばちゃんが、いつ行っても、はきはきてきぱきとお客さんをさばいていた。お昼時はすごい行列ができるんだけど、それでも笑顔でしゅぱっしゅぱっとお弁当を袋に入れ、レジをして、同時にあたらしく来た人の注文も受けて・・・。

いつも子どもながらに、おばちゃんすごいなーと思って見ていた。効率よく仕事をこなす大人をみた原体験でもある。それ以来、効率よく働いている人を見るのが好きになった。立ち食いそば屋さんとか。

話がそれたけど、そこのから揚げ弁当が、私にとっての「おふくろの味」のひとつだ。


から揚げ弁当には、大きなから揚げが5つ入っていた。1つひとつが大きいからフタがちゃんとしまってなくて盛り上がっている。それを「ほっかほっか大将」と印刷された紙で包み、輪ゴムで押さえている。

から揚げは、醤油としょうがが効いていて、もも肉ではなく、むね肉だった。なのにパサパサしていなくて、肉がすごくやわらかい。

当時は今ほどコンビニがたくさんなくて、逆にほか弁やさんは今よりもたくさんあったけど、そのから揚げ以上においしいと思ったから揚げには(弁当屋さん以外のお店も含め)、これまで出会っていない。

私は高校を卒業してから12年くらいは都内に住んでいて、その間は食べてないけど、12年後にまた地元に帰ってきたときにもまだそのお弁当屋さんは営業していて、おばちゃんもまだ現役で働いていて、子どもの頃から通っていた私を覚えていてくれた。なので、それからも何度も買いに行っていた。
以前書いた、かめさん食堂とならぶ、私の原風景だ。


引っ越してきたばかりの、うちのだんなさんも子供たちも、同じようにそのから揚げを気に入って、「あそこのから揚げは美味しいね」と言っていた。

そんなお弁当屋さんも、いつ頃だったろうか、おばちゃんが病気をしてしまい、どんどん痩せていって、ついに閉店してしまった。「私も病気しちゃってねえ、もう続けられないのよねえ・・・」と最後に言葉を交わしたときのせつなそうな表情を今でも覚えている。


そんなから揚げを再現しようと、これまでいろんなレシピをみながら、作ってみたけれど、なかなか同じ味にはならなかった。
それが、数年前、やっと近いものができた!

・・・んだけど、メモをしてない。なんのレシピを参考にしたかも覚えていない。いつも「これくらいかな?」と適当、目分量だから。
そこで昨日、なんとなく思い出しながらまた作ってみた。


用意するのは4人分で1kgのむね肉。むね肉の1かたまりが300g前後のことが多いので、3~4かたまりくらい。

まず、むね肉のかたまりを、フォークでぶすぶす刺しまくる。
それから1個50gぐらいの大きさに切る。1つのかたまりを6個くらいに切り分ける感じ。普通に切ると四角いから揚げになっちゃうので、そぎ切りほどではないけれど、うまく繊維を切るように斜めに包丁を入れていく。

ジップロックやボールなどに肉を入れたあと、料理酒を、ひたひたではなく、びたびたになるくらい入れ、しょうがも多めに入れる。1kgにチューブ半分くらい(チューブですが何か?)。その状態で、できれば丸1日くらい冷蔵庫でつけておく。そうすると肉がかなり柔らかくなる。生の生姜の方が酵素によってより柔らかくなるらしいけど、めんどくさいのでチューブで。ほら、外出自粛期間だし。

衣をつける前に、いったん余分な酒を全部捨てる。そこに、ほんだし小さじ2杯くらい、塩こしょう適当、しょうゆふた回しくらい(適当)、卵を1つ入れてよく揉みこむ。塩分が多い調味料はお肉の水分が抜けちゃうので直前に。ここでも汁気が多かったら最後に捨てる。そうすると醤油を入れ過ぎても味が濃くなり過ぎない。

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それから衣をまぶすんだけど、昨日は片栗粉をまぶそうと思ったら、ほんのちょっとしか残ってなかったので、そのちょっと&小麦粉を。袋から直接バサッといれて軽く混ぜる。米粉もあったんだけど、米粉のから揚げってどうなるのかわかんなかったので、そこは冒険せず。

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小麦粉ってなんかべちゃっとするので、普段は片栗粉メインで、小麦粉を少し足すくらい。


いよいよ揚げ。最初は油を160 ℃にする。
うちで揚げ物に使っている鍋のサイズだと一度に揚げるのは5個。

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3分くらいで1回取り出す(アルミホイルをかぶせて予熱で火を通すこともあるけど昨日はやってない)。

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今度は油を180℃に熱して、1分半くらい揚げる。二度上げで外側をからっとさせ、水分を閉じ込める。

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さあ、どうだろう?揚げたてを食べてみる。
味と食感はわりと記憶のから揚げと近い。
肉はちゃんとやわらかく、ジューシーになっていて、しょうがとしょうゆの香りと味も口の中に広がる。
色が少し濃いのは、しょうゆの入れ過ぎか?揚げ時間か?


使う素材は全部普通のもの。
肉はスーパーの特売で買った100g 59円のむね肉。
だしは顆粒のほんだし。
しょうがはチューブ。
しょうゆもお酒もふつうのもの。

だけど、ちゃんとおいしい。
おそらく、お酒としょうがの量を大さじ〇杯とかじゃなくて、どっさり入れるのがポイント。やわらなくなるだけでなく、パサパサしがちなむね肉が相当ジューシーになる。

ただ、今回は衣が違った。やっぱサクサクするには片栗粉だ。
今度は肉のボールに粉を入れるんじゃなくて、1つひとつ粉につけてあげてみよう。

写真を撮りながらから揚げをつくったので、他のおかずをつくっていなくて、このまますぐ食べたいので、付け合わせはきゅうりだけ。
添えた味噌は、茅乃舎の生七味とみりんを少しまぜたもの。

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一緒に食べた次男に「味どう?ねえどう?」ときいたら、「え、ふつう」と詮無い反応・・・

そのとき、いつも自分でアスリート食を作って食べている長男が2階に上がってきて「お、ひとつ味見してみるか」と言って食べた瞬間に、

「なにこれ、あのなんとかっていう弁当屋のから揚げみたいじゃね?昔しょっちゅう食ってたやつ」

と!

「おお、大正解!」

やっぱ味はだいぶ近いということだ。
やはり衣を変えて、再チャレンジしよう。

味の記憶だけをたよりに作るってなかなか難しい。
しかもメモしてないから、再現性がかなり低い。
今回はこうして(ざっくりだけど)記録したから次は大丈夫だろう。

あともうひとつ、のぞみが残っている。
「ほっかほっか大将」という弁当屋さんは関東圏のフランチャイズなので、Googleで調べると何店舗かはある。とはいえ、わざわざ買いにいくのもめんどくさいしそもそもそっちの方に出かけることがない。もし何かの機会に車で通ることがあるとしたら、そのときは買おうと思っている。

でも、あのおばちゃんのから揚げとは、味が違っていそうだ。味をつくるものは、素材とレシピだけじゃないものね。



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大前みどり
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