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「なぜ?」を問わないメタファシリテーション

あるとき、Amazonで本を探していて偶然こちらの本に出合いました。
本といっても、118頁の薄い小冊子のようなものです。

仕事がら、対話やファシリテーションの本はかなり目を通してきましたが、こちらの本は初めて手に取りました。

この本で紹介されている対話型ファシリテーション=「メタファシリテーション」とは、二十数年に渡る国際協力の現場の活動から生み出された、課題発見・解決のための対話法です。

アジアやアフリカなどにおける村人の自立を支援する活動の中で、援助する相手から出てくるのは「あれが欲しい」「これが足りない」という依存的な要求ばかり。

その状態から、相手に気づきをもたらしたり、村人たち自らが課題を分析することができるような対話法を体系化したのが「メタファシリテーション」だそうです。

この手法の大きな特徴は

「なぜ?どうして?」と訊きたくなったら、それを一度飲み込んで、「いつ?」「どこで?」「何を?」に置き換えて質問する

というものです。

本を読んでみたものの「言っていることはわかるけど、でもよくわからない」という状況だったので、研修にも参加してきました。そこで体験的に学んだおかげで、なるほど、そういうことかという理解が深まりました。

どうして、「なぜ?どうして?」と訊くことを避けるべきなのかというと、私たちは「なぜ?」と聞かれるとつい「言い訳」をするようにできているからです。

例えば、いつも遅刻をしている社員がいるとします。その社員に対して「なぜ遅刻したの?」と聞いても、本人は「責められている」と感じ、言い訳を考えて、それを話すだけです。これでは、「遅刻をする」という改めたい行動が勝手に治ることはありません。

そんなときは(本人が考える)「理由」を聞くのではなく、「いつ?」「何?」などの「事実」を聞いていきます。

「昨日は何時に寝たのですか?」
「○時です」
「〇時に寝る前は何をしていたのですか?」
「ゲームをしていました」
「ゲームを始める前は何をしていたのですか?」
「ごはんを食べながらテレビを見ていました」
「テレビは何時ごろから見始めたのですか?」

などと具体的な事実を確認していくうちに、本人が

「何も考えずぼーっとテレビを見たり、ゲームをしていましたが、そんなに長い時間ゲームをしていて寝る時間が遅くなったら、寝坊してしまいますよね。テレビやゲームの時間を意識して短くしてみます」

と自分で気づいて、次の行動を考えることができるようになっていく、というのがこの手法の特徴です。

現実はこんなにうまくいくものでもないですし、本人が尋問されているように感じないように工夫をする必要がありますが、このようにメタファシリテーションは、簡単な事実質問によるやりとりを通して、相手に気付きを促し、その結果として、問題を解決するために必要な行動変化を当事者自らが起こすように働きかけることができるのです。

大事なことは、「本人が気付くこと」で、その気付きが「行動変化」のための大きなエネルギーになります。

その点について、この本ではこんな風に述べられています。

現場のファシリテーションにおいても、相手が自分で答えを見つけるまで、粘り強く働きかける必要があります。自分で発見することの意義は「忘れない」ということに留まりません。人は自分で答えを見つけた時、気付きの喜びに満たされます。その喜びをエネルギーに、行動変化のための第一歩を踏み出すことができます。同じ答えであっても、自分で見つけるのと他人から教えられるのとでは、心理的な効果という点では、天地の差があるということです。

私自身が、人から教えられたり指示をされたりすることがとても苦手で、自分で見つけることに喜びを見出すタイプなので、これは本当にその通りだなあと思います。

逆に自分がファシリテーターのときは、具体的な指示を出さないようにするにはかなりの覚悟が必要です。ついつい「なぜ?」と訊きたくなったり、「こうしたら」と具体的なアドバイスや指示を言ってしまいそうになりますから。

ただし、実際の場面では、「働きかけ」たからと言ってすぐに気づくわけではなく、「気付いた」ら即座に行動に移るというわけにもいきません。つまり、ものごとが動き出すためには時間が必要だということです。ファシリテーターは、どっしり構えて、焦ることなく働きかけていくことが求められます。
ファシリテーターにとって、「待つ」という姿勢がとても重要になります。言い換えれば、最後の一言(気付きの言葉)を相手が自分で言うまで、待つ必要があるわけです。
「変化は内側から起こる。外部者は信じて待つのみ」というのがファシリテーションの真髄です。

「待つ」ことには覚悟が伴いますし、相手を信じる勇気も必要になってきます。それでも、その人の変化成長を望むのであれば、この対話法はとても有効に働くのではないかと思います。

特に有効だと思ったのは、子育てや部下育成。子供や部下の成長を望まないはずはないでしょうから、これは使わない手はないと思います。

加えて、自分で内省をするときにもかなり使えますが、これについては稿を改めて書きます。


その他にも、「メタファシリテーション」には現場での思考錯誤から生まれた様々な知恵が活かされています。薄い冊子ですが、目からウロコな内容がたくさん詰まっています。ご興味のある方はぜひ本を手に取ってみてください。


さらに知りたい方、研修を受けたい方はこちらへ。


※本日の記事は、以前、自分の会社のメールマガジンに書いたものを改変して掲載しています。

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