午後休は最上の悦び

午前中、最後のドイツ語の授業をオンラインで受けて、それから私は徐ろにシャワーを浴び、外へ出かけた。私にしては珍しく、目的の定まった外出である。いや、私の現在の生活圏を鑑みればそれでさえ遠出と言って差し支えないかもしれない。半径500メートルを超したらもうそれは遠出なのだ。いや、しかし、来週の日曜日には忌むべき、2回生の夏に、大学でもっとも、恐らく自由なはずの2回生の夏に私が自由たり得ない、その元凶、集中講義が始まるのである。しかも対面で。オンラインであれば私は電車にでも揺られながら受けようと考えていた。しかし、朝早く、9時前には教室にいなければならないと考えると、人間不思議なもので、この約2ヶ月間ずっとオンラインで授業を受けていたせいで、登校するという行為が極めて億劫になっているのだ。しかも、この京都のジメジメとした鬱陶しい、まとわりつく様な陰湿な夏に、だ。憂鬱で仕方がない。

少々話が逸れたようである。元に戻さねばならない。さて、下宿から半径500メートルを超える遠出を始めた私は、地下鉄東西線、と言っても、東京メトロ東西線では無い。中野なんぞに行くべくもない、京都市営地下鉄東西線だ。その、東山駅で降りた。私は、期間延長されて開催されている、京都国立近代美術館の……特別展の名称は忘れた。チェコの芸術だとかそういったところだ。それを見に行ったのだ。当日に、何となく大学の同級生と共に。
そこで何をしていたか。全くもって阿呆であると思う。チェコスロヴァキアだとか、ソヴィエト連邦だとか、ビロード革命だとか、そんな言葉に一々反応してはどうのこうのと言い合うのである。いや、無論、美術館だから静かな声で、だが。歴史と結びつけ、それとともに芸術、美術がどのように推移したのか、なんていうものを見るのは楽しいのだ。例え知識がなくとも、それは変わらないだろう。人間というものは得てして芸術に惹かれるものだ。少なくとも、私はそう思う。それは絵画だとか彫刻だとかにとどまらない。
そういえば、チェコ展と仮称するが、そこにあった陶器と、日本の芸術家のそれとでは、質感の愕然たる違いが、ある。西洋人が日本だとか東洋系のそういった陶器を作ることもあるだろう。その逆もまた然り。しかし、少なくとも、私がイメージする西洋の陶器と、日本の陶器とではその質感にれっきとした差があるのだ。どちらがいい、どちらが悪いという話ではない。いや、私はどちらもいいと思う。私は何を語っているのだろうか。芸術論?そんなものを語るためにこれを書いている訳では無い。いや、そもそも何かを語るために書いているかと言われると甚だ怪しいのであるが。

閑話休題。京都国立近代美術館を出て、しばらく感慨に耽った後、私は友人と別れ、彼のドライブの安全を願いつつ、三条河原町に歩を進めた。一度、行ってみたい喫茶店があったのだ。それが、今私が座っているところにほかならないのだが。
昭和25年、戦後比較的直ぐに始まったとかいうこの喫茶店。味があるのだ。いや、一回来ただけでわかったような口を聞くのは憚られるのだけれども。喫煙席と禁煙席を分けず、というか禁煙席がない、昔ながらの喫茶店、と言った感じか。その雰囲気が堪らなく好きなのだ。健康に悪いだとか、そんなものは聞いていない。好きなものを我慢する方が圧倒的に精神衛生上良くないだろう。煙草が好きな訳では無い。いや、好きかもしれない。しかし、吸える訳でもない。偉そうに語っておいてなんだが、喫煙席と禁煙席が分かれていないとか言うことを知ったのは店に入った後だ。入る前には知りもしない。だけれども、それを知って益々何か好きになった。
喫茶店巡りは楽しいものがある。また、幾つも回って、恐らくここと、このすぐ近くの、少し前に入って、入ってからその値段に驚いて一人ドギマギしていたあの喫茶店には是非また行きたい。来たいと言った方が適切か。片方は現に今いる訳だから。
渋いおじさんが煙草を吸っている図というのはいやに映える。いやに、とは言うが何も貶している訳では無い。私なりの最大級の、なんて言えばいいだろう。褒め言葉などと言うと上から目線だ。賛辞もおかしい。

さて、いつものごとく、締まらない終わり方をするのだ。というのも、何を隠そう、スマートフォンのバッテリーが切れそうなのである。致し方ないからここで終わらせよう。なんて思った次第である。

次はいつ、どの喫茶店に行こうか。家の近くの喫茶店に未だ足を踏み入れていないから、そこに行くのもいいかもしれない。京都は、喫茶店が豊富でそれ好きな私としては、と言うよりも、喫茶店に入って本を読んだり、コーヒーを飲んだり、それが好きなのだが、いや、それは喫茶店好きと言ってもいいのかも知れないが、それの私としては大変に嬉しい土地なのだ。無論、歴史好きとしても、であるが。

忘れていたが、煙草の吸える喫茶店が好きとか言いつつ、私は肺が弱いのだ。知らねぇよ、そんなこと。たった数千歩歩いただけで既に足が痛いのだけれど。参った。マッサージでもしてもらいに行こうか。どうせ、10万円がじきに来るのだ。それくらいアテにしてみたって良かろう。いつ来るかはどうもわかりゃせんけれども。さて、そろそろ店を出よう。

またいつか、気が向いたらその時にまたなにかこういった類のくだらないことをここに書きに来るはずだ。今書いている物語を完成させないといけないのだけれど。

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