短編小説 『銀河売り』 #シロクマ文芸部【A面】
『銀河売り』というスーパーの、のぼり旗が風に乗ってパタパタと翻る。
「お母さん、あれなんて書いてあるの?」
「ぎんがうりって書いてあるのよ」
「ぎんがうりってなあに?」
買い物カートを押す母親の側を歩く女の子が訊ねると
「そうね……少し早いけど、買って帰ろうかしら。その方がわかりやすいものね」
少し思案してから一人納得した様子で呟く。
大きな玉をいくつか軽く叩き
「これが一番良さそうね」
とカゴに入れる。
「なんで叩くの?」
「いい音がすると食べ頃なのよ」
「ふーん」
女の子はその不思議な柄をした玉をじっと見つめる。
銀河とは一体どんな味がするのだろう?
その夜、いつものように夕食を済ませると
「じゃあデザートにこれを食べましょう」
母親が昼間買って冷やしておいた大きな玉をまな板とともに、ダイニングテーブルに置いた。
「もうそんな時期か」
少し酔いの回った口調で父親が言う。
「琴玻が銀河を食べるのは初めてだからね。あなた、切ってあげて」
「へいよ」
父親は大きな玉に包丁を入れる。
女の子は少しドキドキしていた。
もしかしたら幼稚園で聞いた桃太郎が産まれてくるのではないか、と淡い期待を抱いて。
父親がスパッと半分に切り分けると、黄色い断面に黒い粒が星のように浮かぶ。
「わあ~! きれいだね!」
「ステキでしょう? 銀河っていうのはね、まるで夜空を閉じ込めたようなスイカの名称なのよ」
「見てみろ。ここに夏の大三角形がある」
「ここを繋ぐと、はくちょう座」
「こっちには、わし座もあるぞ」
父親と母親が半分に割ったスイカに散らばる種を一つずつ繋ぎ合わせて説明してくれる。
「ねえ、これはなんていうの?」
女の子は、一際大きな種を一つ指差した。
すると両親が一瞬驚いたように顔を見合わせ
「それは、こと座だ」
「あなたの名前の由来のね」
と、娘が産まれた日を思い返すかのように、優しく微笑んだ。
お題を見てパッとひらめいたのが「銀河売り」→「銀河瓜」+「スイカ割り」でした。
私は祖父母が農家で家庭菜園で育てた赤いスイカと黄色いスイカのどちらもよく食べていたのですが、なんとなく黄色い方が銀河っぽいかな、ということでこんな感じになりました。黄色いスイカも甘くて美味しいよ😋💕
ただ星座にくわしくないため、調べながら書いたけれど、突っ込みどころがないことを祈るばかりです🙏🙏
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