青春ミステリー 『初夏を聴く』 #シロクマ文芸部
『初夏を聴く』というフレーズに、僕は頭を悩ませる。
ここは市立図書館。
ヤングアダルトの書架には、一冊のノートが本と一緒に配列されている。
ある時はノートの表紙が見えるように、またある時には誰も手をつけなさそうな堅苦しい本の間にノートが差し込まれている。
それは読書家同士の、いたずらな交換日記のようなもので、読んだ本についての感想やそこからイメージした絵といったものから、日常の悩み事まで、気の赴くまま好きなことを書いている。
先に書き込まれた内容に返信する者もいれば、淡々と自分の思いだけを綴る者もいて、特にルールがあるわけでもないのだけど……
そんな中にひっそりと書かれた
『初夏を聴く』
とは、一体なんだろう?
四人席の自習スペースで、ノートを見つめて僕は唸る。
たとえば『初夏』というタイトルの本の感想だろうか? と考え、スマホを取り出し検索してみる。
実際に『初夏』というタイトルの本や、そのワードを含んだ本は存在した。一応、図書館の蔵書検索もしてみたが、季語にまつわる本以外は今、閉架書庫にあるようだ。
書庫の本を司書に頼んで借りる人も中にはいるだろう。しかし、本の感想を“聴く”と表現するだろうか……
どうにもしっくりこないまま、ノートから顔を上げると、向かいに座る女子学生がワイヤレスイヤホンを耳に入れるところだった。
あ、もしかして……
僕は普段は立ち寄らないコーナーへ向かう。一抹の不安を抱きながら。
そこはAVコーナーで僕はクラシック音楽のCDを探す。
ショパンのCDに『雨だれ』という曲が収録されていることに気づいた、ちょうどその時、背後に気配を感じた。
「ったく、おまえかよ」
振り返ると、駄洒落研究会の部長に舌打ちされた。
「それはこっちの台詞だ」
こんな中途半端な駄洒落を考えるやつを、僕はこいつしか知らない。
『初夏を聴く、5月20日、雨だれになっても君を待つ』
という文章から抱いた淡い期待はもろくも崩れ去った。
初夏という単語から、いくつか駄洒落を盛り込みながら書いた作品。働いたことはないけれど司書の資格を持っている身としては、読書感想交換日記が本当にあったらいいのにな~と前々から思っていたのですが、まさかこんなオチに着地するとは……
「初夏」って「はつか」とも読めなくないですよね。20日を狙って考えられたお題なのか、ちょっぴり気になった私なのでした。
よかったら、こちらの初夏も聴いてみてね~