『失恋墓地』 #毎週ショートショートnote【昇華編】
たった一枚のチケットを握り締めて、私はバスの窓から移ろい行く街並みをぼんやりと眺める。太陽が反射してキラキラと光る海辺の景色が、今の私には目にも心にも眩しく感じられた。
バスの行き先は【失恋墓地】
他の乗客も皆どこか寂しげな表情を浮べていた。きっとそれぞれに抱えた複雑な心境に思いを馳せているのだろう。
運転手さんに手伝ってもらいながら降りた場所は海の堤防だった。
ガラス瓶を手渡された乗客は大事に持っていた紙を瓶に入れる。
それは結婚式の招待状や映画の試写会券など何かしらの理由で急遽キャンセルせざるを得なくなったが捨てることも出来ず、かといって手元に置いておくのも切なくなるような“切符”
私も泣く泣く行くのを諦めたライブチケットを瓶に入れ、運転手さんに手渡した。
そして私以外の乗客は砂浜へ降り、そっとガラス瓶を海に放った。
本当は行きたかったんだけどな…
と車椅子に座る私は砂浜で行われる儀式を見守りながら一粒の涙をこぼした。
このお題を見た時に、ちょうど感じていた思いをそのまま物語として込めました。コロナなどで、いろんなイベントごとの参加を見送った方も多いかと思います。そういった無念を少しでも晴らせたらいいな、と思って書きました。とはいえ、あまり海に物を流すのはよくないので、あくまでも使えなかったチケットたちの灯籠流しのように捉えていただけたらうれしいです。
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