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短編小説 『銀河売り』 #シロクマ文芸部【B面】
『銀河売り』という、中吊り広告が窓から入り込む風に乗ってペラリと翻る。
「お父さん、あれなんて書いてあるの?」
「ぎんがうりだよ」
「ぎんがうりってなあに?」
父親の隣に座っていた男の子が訊ねると
「そうだな……今年なら連れて行ってやれるか。その方がわかりやすいしな」
少し思案してから一人納得した様子で呟く。
「一番開催時期が早くて近いのは、っと」
と、スマホの画面をタップする。
「どこに行くの?」
「宿川の河川敷だな」
「ふーん」
男の子は車窓を流れゆく景色に視線を移す。
銀河とは一体どんなものなんのだろう?
ある日の夕暮れ、珍しく夕ごはんを作る気配のない母親に
「今日はおうちでごはん食べないの?」
と問いかけると
「そろそろ出かける準備しないとね」
と答えた。
「もうそんな時間か」
ソファで呑気にごろ寝していた父親が言う。
「一応、甚平もあるけど、どうする?」
「どっちでもいいよ」
「せっかくだから着せてやれば? 遊星にとって初めての銀河だから」
男の子は少しワクワクしていた。
甚平を着たのは去年の幼稚園の夕涼み会以来だ。きっと楽しい何かが待っているに違いない、と大きな期待を抱いて。
甚平に着替えた男の子は両親と手を繋ぎ、河川敷まで向かう。
「早めに来たつもりだけど、やっぱり混んでるな」
ぼやく父親の傍らで母親は河川敷にレジャーシートを広げる。
「お父さんと食べたいもの買っておいで」
「うん!」
「はぐれないように気をつけてね」
と言われても、目の前にあるたくさんの出店に気が逸る。
まだ明るさを残しつつも少しずつ日が暮れかけた頃、いきなり夜空にキラキラと輝く花が咲く。その後、ドン! というお腹に響くような音にびっくりもしたけれど。
「うわあ~! すごい!」
「そうだろ? 銀河っていうのはな、夜空に咲く花火のことなんだ」
「見てごらん。今のは菊っていうのよ」
「次のは牡丹だな」
「あれは万華鏡ね」
両脇から花火の種類を説明してくれるけれどその声も聞こえないほど夢中になって夜空を見上げる。
「ねえ、あれはなんていうの?」
男の子は、一際カラフルで光が自由に飛び交う花火を指差した。
「それは、飛遊星よ」
「おまえの名前の由来だな」
朗らかに笑いながら伝えると
「じゃあこの子は、花火の花ちゃん?」
と母親のお腹を優しくさすり、両親は目を丸くした。
前回、同じお題で書いた作品と
花火玉の形が似ているな~と思ったので、それを基にしながら書いて見ました。(決してネタ切れで、使い回したワケジャナイヨ! たぶん……)打ち上げ花火にもいろんな名称があって勉強になったくらいです(笑)そしてちょこっとだけラストを変えてみました。
どちらが上・下などを決めたくないため、A面B面としております。CDの両A面シングルのように受け取って頂けると幸いです。
よーし! 他の方の作品も見に行くぞー✊
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