電話対応が苦手です(知的障害・発達障害のある社員のためのお仕事ハック)障害者雇用ノウハウ
はじめに(チームより)
フローレンスは、親子を取り巻く社会課題の解決を目指しているNPOで、現在、約700名が所属しています。多様なメンバーの「働く」を支えているのがバックオフィス業務を主に担っている働き方革命事業部、通称「ハタカク」です。
ハタカクは人事、経理、法務、総務、といった業務で構成されていて、障害者雇用チームも含まれています。フローレンスの事業を裏で支えるハタカクメンバーの業務や仕事への思いをnoteに投稿しています。
認定NPO法人フローレンスの総務関連チームで障害者雇用のスタッフのサポートを担当しているジョブコーチ*1の和田です。自己紹介はこちら>>
知的障害・発達障害のある社員が持つ悩みに対して、本人やサポーターが今日から取り入れられる「ちょっとした、お仕事ハック」をご紹介しています。記事執筆の背景>>
▼本日のお悩み
「発達障害があり、障害者雇用で働いているのですが、緊張するので、電話対応・電話応対が苦手です」
お仕事ハック①電話対応マニュアル兼メモ帳を作る
まずは、必要最低限の電話対応マナーや・電話応対マニュアルにする
社会人経験が相当に長い私でも、一番緊張する業務は「電話対応」です。「電話が鳴るだけでビクっとしてしまう」障害のある社員は多いでしょう。
「障害者雇用の社員にも電話対応をしてもらうおう!」と考えて作ったマニュアル兼メモ帳(例文)が上記の図です。作る時のポイントをいくつかあげます。
1、必要最小限の言葉(例文)にする
電話対応は丁寧なマナーにすればいくらでも丁寧な言葉遣いにできますが、難易度も高くなります。まずは「電話に出て、必要な人に電話をつなぐ」ことを目標に最低限の言葉数で作りました。
例文がないと、「もしもし」などとっさに会社にはそぐわない言葉が出てしまったり、「敬称や敬語はどう使うんだっけ?」など迷って言葉が出ない場合もあるため、例文はあるといいでしょう。
2、選択肢を少なくする
取り次ぐ相手がいない場合には、出社して会議で席を外していても、会社を休んでいても「ただいま席を外しております」で統一しました。電話対応に慣れてくれば保留を押してから「休み?会議?外出しているのか」スケジュールを確認する余裕も出てきますが、最初は難しいので、一律の対応としています。
3、例文だけでなく、動作までマニュアルにする
「電話が鳴ると慌ててしまい、次に何をすればいいのかわからなくなる」ので「電話が鳴ったら、このマニュアルを手元に置き、ペンを持つ…」のような動作もマニュアルにしました。マニュアル通りに動くことで、緊張していても行動出来るようにします。
4、同時に何かをしない
「電話を持ちながら、社名を聞き取り、メモする」というのは、電話対応の一番の難関です。そこで、電話が鳴ったら、電話を持たなくても相手と会話が出来るように、スピーカーフォンにすることにしました。メモを取ることに集中出来ますし、他の社員にも電話相手の声が聞こえるので、フォローすることが可能です。
うちのチームの電話は総務直通の番号となっており、電話相手はパートナーなどに限られるので、最低限の受け答えで問題ないですが、お客様から電話がかかってくる営業部などでは難しい場合もあるでしょう。そのような場合は、社内の内線から始めてみるなどでステップアップしていくと良いです。
お仕事ハック②まずは社内で沢山練習をする
「困った時には電話対応が出来る社員に電話を変わってもらえる」という安心感
マニュアルを作った後は、まずは1時間、電話対応のレクチャーをします。この時に大切なのは、まずは「ゆっくり、はっきりしゃべる」ことです。
これは電話を掛けるレクチャー側も、電話対応をする側も大切なことです。「電話は怖くない」ことがわかれば、電話に出るハードルは下がります。
そして「ゆっくり、はっきり」の電話対応に慣れてきたら、だんだん難易度を上げましょう。
・聞き取れない社名を言ってみる
・存在しない社員名を言ってみる、などです。
ここで練習したいのは「困った時に電話対応が出来る社員に、電話を変わってもらう」練習です。
その後は、本番の電話で挑戦します。「今から10分の間に私が外部の人間として電話をかける練習をするので、電話をとってね」という本番に近い練習を何度もします。
お仕事ハック③本人の気持ちを尊重する
障害特性などで電話対応が出来ない社員がいることを忘れずに
大切なのは「障害特性などで電話対応が出来ない社員はいる」ということです。無理強いをしてはいけません。電話対応の業務をお願いする前に、本人に意志を確認しましょう。
うちのチームでは、全員にレクチャーをしました。レクチャーをする前は電話対応をしたい社員は5人中2人でしたが、レクチャーをした後は残り2人も「電話対応をする自信が少し出ました。やってみます…」と対応してくれることになりました
(1人はまだ様子を見たいということで電話対応はしていませんが、もちろん無理強いはしません)。
誰でも未知のものには緊張してしまうものですが、同僚が行っている姿をみたり、練習をしてみると「やれるかも!」と思えるものです。
最後に
障害者雇用社員向けに電話対応マニュアルを作ってみて感じたことがあります。「日本のオフィスの電話対応は丁寧すぎるのではないか」ということです。「間違ってはいけない」「丁寧でなくてはいけいない」というハードルが高すぎるのではないでしょうか。
不在時に「ご用件をお伺いします」「折り返しいたしますのでお電話番号を・・・」と対応するのは丁寧で良いですが、用件を聞いてしまうことで、正確に伝言メモをして伝えなければいけないという責任が発生します。現代は着信で電話番号が残りますし、メールなどで連絡をとることもできます。チーム全体で「誰でも挑戦しやすい電話対応」に見直してみてはいかがでしょうか。
*1「ジョブコーチ」 企業に在籍し、同じ企業に雇用されている障害のある労働者が職場適応できるよう様々な支援を行う人を、企業在籍型ジョブコーチといいます。
執筆の背景
障害者雇用関連の情報は、採用・育成の事例やノウハウばかりで、採用した障害者雇用の社員に「どのような業務を、どうやってもらうのか」のノウハウが足りていません。
そこで、実務ノウハウや、障害者雇用チームの立ち上げ経緯などを公開することで、障害のある社員自身や総務担当者が、はじめの一歩を踏み出せるシリーズを立ち上げました
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