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テクノロジーで人が動かなくなる時代に、人が動き続ける目的や意味を新たにつくり出したい


代表 廣橋

株式会社フリックフィットは、センシングモジュールardiの企画・開発を手掛けている企業です。スマートウオッチで心拍数等のバイタルデータを計測するように、靴をスマート化して足から得られる情報を計測・分析し、目的や目標に沿って健康をサポートすることを目指しています。今回は代表の廣橋に事業の歴史や将来のビジョンについてインタビューを行いました。

フリックフィット社の開始に至る経緯を教えていただけますか?

初期メンバー
懇親会は社外の方も気軽に参加してくれます


フリックフィットの前に立体版キンコーズの様な事業を営む3Dプリントの工場経営に参画していました。200坪くらいの3Dプリント工場でそこではいろいろな3Dプリンターだけではなく、データをつくるスキャンデバイスや簡単なソフトウェアを開発して、数多くのビジネスモデルを試しました。中でも身体をスキャンして3Dプリントで出力することに熱心でした。折れた腕をスキャンして3Dプリントでギブスにする等、カスタマイズ、パーソナライズ等の入り口になるなと。実際のところ3Dプリントだけで当時はそこまで大きな市場になりませんでした。その経験を経て「身体計測データ×〇〇」の様なデータを起点としたビジネスに可能性を感じ、当初は自分の全身を3D化してアバターと世の中の服を3D化させて、仮想試着するアイデアを思いつきました。

しかし顧客の身体をどこでどうやって計測するかと言った顧客体験の設計にハードルを感じたのと、海外でも大手プラットフォームがこうした構想を研究したり検討していたので全身ではなく足と靴だけに絞った考えを再考し始めました。お客さんが足を3D計測して店員が接客し靴を購入するフローは一部の靴屋さんでも見たことがあり、こうした体験はメジャーではないものの以前からあるものなので、服よりはスジが良さそうだと思いました。ここからフリックフィットのコンセプトが始まりました。

そこで靴領域にフォーカスしたのですね?
はい、そうです。もう少し話すと、革新的なポイントとして、靴の内部を計測していくという発想を手法を思いつきました。足のデータではなく靴の内側のデータがキーになると気がつきました。靴には元になる木型があります。この木型さえあれば、足のデータと靴のデータ、場合によって靴のデータ同士を重ね合わせることで仮想上で形状のマッチングができるのではないかと考えました。靴の内部計測の案をいくつか試しはじめました。2015年頃のことです。

靴計測手法の研究開発
当初は発砲技術を活用して靴の中に注入させていた。計測時間の短縮と精度の工場を目指し、独自計測手法を発案。数パターンの靴計測デバイスを開発した

それがフリックフィットのスタートにつながったのですか?
はい、そのアイデアから3Dプリンタは離れて、フリックフィットを始めました。足と靴の3次元データが集まるプラットフォームという構想です。大規模なプラットフォームのインフラに取り込まれる独自プラットフォームのイメージを持っていました。この仕組みがあると小売店でもECにアクセスしたり、返品が多く、返品を前提とした靴分野のECサイト等は、仮装試着というデータでの試着体験は購買する上でユーザーが助かり返品も減るのではと思いました

足を「素早く」「正確に」「安価に」「楽しく」計測する手法の研究開発
足の計測技術は当初は他社製品を使っていたが、自社開発を始めた
スマホによるスキャナも開発していたが、計測体験が楽しめず、精度が端末カメラに依存していたため、あまり深追いしない判断をした
千葉大学と二つのデータ(足と靴、靴と靴)をマッチングさせるアルゴリズムを共同研究した
スタイリッシュなデザインでローンチ

2015年から地道な研究開発をはじめていたところ、2年程度で形ができあがってきて、そこから小売店や百貨店で使われはじめました。その頃、中国の最大手プラットフォームの新規事業R&Dチームから声がかかり、中国でそのプラットフォーマーと靴の大手チェーン店とで大規模なPoCに望んでいました。2018-2019年頃です。願ってもないチャンスでした。一方、中国のスピード感、規模をの大きさ、進め方の思考プロセスに驚くことが多く学びになりました。中国への往復も多かったので中国に移り住んで事業を大規模に成長させようと準備していた矢先にコロナが発生して、そのプロジェクトすべてがストップしてしまいました。その時のハードウェア、ソフトウェア、ビジネスモデル設計、マネタイズ等を中国のチームメンバーと一緒に悩んでいた経験が今となってはardiに役立っています。


顧客体験を研究するための仮装店舗をつくり試した



ardiとはどのようなものですか?ardiで何を実現したいですか?

センシングモジュールardiは足元のウェアラブルデバイスで、足から身体の動作データを収集・分析することが可能です。このデータを健康管理や怪我・病気の発見に活用するアプリを構想しています。 
消費者には自分でも気がついていないような隠れた本音があるものです。例えば、肩が凝っていて整体に行くと、施術者に肩を治してほしいといいますが、実は肩懲りを治すことでほかの価値を得たい場合があります。実は歩きやすくするための手段かもしれないし、同じ人でもその時によって変わるかもしれません。 
そのような考え方を基にすると、ardiで実現したいことは、単に足が速くなるというだけでは面白くないだろうと思っています。何かardiを使って「こういう目的を達成できた」と人が語りたくなるようなストーリーがあったら話題になるのではないかと。そしてそれを語りたくて使ってみるということもあるのではないかと思います。

開発を進める上で大変だったことはどんなことですか?

社内の計測イベント

ハードを作る時点で手こずったのは、データが壊れてしまったり通信がうまくつながらなかったり、そのような不具合が非常に多かったことです。IoTは変数がとても多く、何回も失敗してやり直したので、時間とお金をたくさん使いました。もっといい進め方があっただろうと思います。
IoTの開発で大変なのは、ユーザーの体験やフィードバックを基にしていろいろブラッシュアップしてプロトタイピングして作っていくのが難しいことです。ハードを作らないとそのイメージはなかなか湧いてきません。 
あとは資金調達が大変です。まだプロダクトが世に出ていない状態なので、ベンチャー投資だとするとシード投資になりますが、お金と時間が非常に多くかかるので投資効率がよくありません。 

ardiをリリースして流行ったとしても、誰かがすぐに同じものを作ろうとするのではありませんか?

社内外の研究開発発表会

そうかもしれませんが、かなり時間がかかるんじゃないかな。アルゴリズムやデータサイエンス、UXやUI、ビジネスモデルやフィットネスのトレーニングなど、専門分野がかなり多岐に渡っているので、開発チームを作るのは大変です。開発における座組がうまくできていることとビジネスモデルのところが僕らの優位性だと思っています。 ardiが一定の認知を得られる可能性は7割くらいあるかなと思います。あとの3割は、本当に構想しているようなメニューが実現できるか、チューニングがユーザーのかゆいところまで手が届くのか、という課題です。構想自体は正しいと思っているので、あとは市場投入のタイミングが非常に重要だと思います。 どのようなビジネスモデルを目指していますか?僕が目指しているビジネスモデルのイメージは任天堂なんです。ファミコンを作ってもファミコンの本体だけ持っていてもしょうがない。スーパーマリオがないと面白くないじゃないですか。

僕らは自分たちのデバイスを持ったうえで、今からスーパーマリオを作りはじめる感じです。そのデバイスがないと使えないので、もしうまくいったときは独占的なわけです。
通常の初期ならハードに載せるアプリケーションを開発すればいいだけの話ですが、僕はハードから始めているので任天堂みたいにできる可能性があります。

2050年、人の動きはどのようになっていると思いますか?

ランニングイベント

いろいろなことが便利になり、人が動かなくてもいい時代になるんじゃないかと思います。なので動くためのモチベーションを能動的に作っていかないといけないかもしれません。昔の人からすると、スポーツジムにお金を払うなんてバカげたことだと思えるでしょう。 
体を動かす目的を作ることが新しい価値になるのではないかと考えています。テクノロジーの進化によって体を動かさなくなる危機があるので、目的が失われる速度にあわせて目的をどんどん作っていかないといけない。健康になるためには能動的にお金を使わないといけない時代になっていきます。

例えば、信用スコアは人の信用度が数値化されたもので、年収や勤務先、購買行動などのデータに基づいています。将来は、ウェアラブル端末から得られたデータが分析され、健康であることが年収などと同等の価値を持つようになるのかもしれません。
心拍数などのバイタルデータが簡単に計測できるように、弊社はセンシングモジュールArdiの開発によって足から得られるデータを活用し、新たな価値を提供していきます。





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