写真用紙(和紙)の覚書
写真用紙(和紙)の覚書
【和紙の素晴らしい耐久性】
日本には、すばらしい和紙が各地に残っている。
習字に使う半紙やお札や、もちろん画材用の厚手の和紙まで、様々のものがある。
和紙の素晴らしい事は、丈夫さと時間的な耐久性だ。
耐久性は、日本のお札に使っていることで、みなさんご存知だろう。
時間的耐久性とは、基本的に、手製の和紙は、中性の紙であり、長期多岐な変化が少ない。
というか、一般の(最近の)紙(和紙に対して洋紙)は、工業製品であり、気からパルプを作りどろどろにして紙を作る。
その過程で、たぶん、溶かすために、酸を使うことになり、これが残留して、酸性紙となる。
これがなぜいけないかは、時間がたつと、数年、10年、10数年たつと、紙の中の酸が、紙を侵食し、変色し、変質し、いずれは、ボロボロになる。
これは、古い本(せいぜい30〜50年)を見ると、紙が痛み、変色し、さらに古くて紙質が良くないものは、ボロボロになっている。
ところが、和紙は、日本画や和綴じの和本を見て、わかるように、平気で100年を超える耐久性がある。
古今和歌集や掛け軸なんて、300年、500年、千年なんてものもある。
これは、1つには、和紙の耐久性と中性紙であることが要因である。
また、墨や日本画の顔料(岩絵の具等)の耐久性も、貢献している。
こうした和紙を写真プリントに使えないかの試みが、いろいろされている。
写真は、昨今は、デジカメやスマホの普及で、SNSやインスタ、FB等で、大量に見ることができるが、印刷した画像と液晶などの蛍光管などのデスプレイは、全く別物だと考えるのが正しいと思う。
紙に印刷した、プリントした、銀塩の場合は焼き付けした、紙としての、写真は、デスプレイとは、まったく別の美しい表情を見せる。
紙の使用が減っている昨今ではあるが、この事を、デジカメやスマホで、写真を写している、多くは若い世代に、もっと知ってもらいたいと思う。
【伊勢和紙の紹介】
さて、優れた写真用紙は、多いが、それは、またの機会に譲ることとして、今回は、日本古来の和紙を使ったプリントを、少し、ひも解いてみようと思う。
一般的なプリンター用の写真用紙や銀塩写真の印画紙とは、違い、和紙は、本当に幅が広い。
写真用などの美術に、焦点を合わせた高級厚手の和紙もあれば、お習字用の半紙もある。
また、特殊なガンピ紙や半透明なような手すき和紙などもある。
かなり幅広く多岐にわたり、また印刷特性も、多様なので、できる範囲で、試している。
今回は、何かの時に見かけた通販の「ヨドバシ・カメラ」の伊勢和紙(アート用)を見かけたので、それを、購入して試しつつある。
その中で気づいた事、留意する事を、途中の覚書として書いてみる。
伊勢和紙の紹介【リンク】
https://isewashi.co.jp/products/
伊勢和紙の購入(FB)
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=pfbid02kirq8vQmeb5swkxGiNBvhXytZ9Mng6w1KR6F1Ccw6Z4GHeycUxNkSMNADn1anD6ql&id=100008283221767
先日、まず、写真用として、インクジェット用の4種類のうち、写真印刷に合わせて、標準的な雪色と、特徴などから平織目を買った。
厚みは、300μあるので、しっかりしている。
(一般的な写真専用紙とほぼ同じ:銀塩印画紙の厚手の感じ)
紙の感じは、銀塩写真の高級アート紙(ミュージアム系列)をほうふつとさせる雰囲気である。まあ、お値段もそれなりですから。
【和紙に適した写真作品とは?】
さて、パッと、適当に、1枚印刷してみたが、やはり、和紙特有の特徴を持っている。
それは、インクの吸着性(浸透)が、一般的なコーテイングされた写真用紙と比べて、中に入り込む事である。
その結果、つやがない(あたりまえか・・・)、色が沈み込む、黒が締まりにくい、色の冴えが光沢紙と比べるとかなり悪い。
しかし、これは、表面をコーテイングしていない紙の特徴で、けして、印刷用和紙の欠点ではない。
これは、【個性】【特徴】である。
しかし、まずは、これをわきまえることが、第1歩となる。
これは、【個性】であるから、この個性に適した作品作りを行うことになる。
別に言えば、この個性に適した写真が、この紙を使うメリットである。
そういった事を考えると、一般的なプリンター用紙の選定とは違った基準が必要になる。
それは、どんな作品を、どんな写真をこの紙に使うか、になってくる。
作品を選ぶともいえる。
これは、文章で書いたら、わかりにくいが、実際の印刷結果を見ると一目瞭然である。
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【比較テストの用紙】
さて、この比較、テストを行う中で、これまでの写真の印刷での経験から、大まかな、和紙の個性を知る比較として、次の紙を、用意した。
①伊勢和紙(今回、購入)・・・(雪色) (平織目)
②写真専用紙(光沢)・・・・(エプソン写真用紙、フジ写真用紙等)
③写真専用紙(マット)・・・・(エプソン・キャノン 写真マット紙)
④てすき和紙・・・・・・・・・・(京都の和紙専用店で、購入したもの)
産地不明、日本全国のてすき和紙が集められていて、とても面白いお店
掘り出し物もたくさんあります。ネット店舗もできています。
素晴らしいお店です。
実際に手に取ってみることが、楽しいし、お勧めですが、ネット購入も楽しいです。
ネット店舗
https://www.rakushikan-store.com/
⑤その他の一般的和紙・・・・(日常使いの和紙・・・薄い)
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【和紙プリント用の作品選定】
さて、本番の写真プリントに、とりかかってみるが、試しに、カラーとモノクロの写真を印刷してみて、わかった事がある
これまで、一般的な和紙に、印刷してきた経験からすると、厚手の印刷用の伊勢和紙は、紙質も厚くて、しっかりしているが、インクの吸湿性もかなりあるので、その結果、和紙特有の黒っぽい写真は、黒が締まらないし、黒の中の黒は出ない。
これは当たり前であるが、銀塩写真の経験者である私からすると、写真用の高級光沢プリント用紙(クリスピア、ピクトリコ)などでも、同じように感じるほど、昔の銀塩写真は、光沢も半光沢も、黒や黒っぽいトーンの再現性を持っていた。
それと比べると、写真用紙でも物足りない感じがするが、和紙は、もうほとんど、つぶれる感じであり、ダークなローキ・トーンの写真は苦手である。
ローキ―な場合は、黒のしまりを、薄めにして、ローキ―なトーンを、明るい方にシフトして、全体に、フラットな感じにする必要がある。
(そうでないと、習字用の半紙に、墨で塗ったような感じで、つぶれる)
であると、モノクロの黒のしまりやローキ―トーンは苦手で、ローキ―でも、トーンカーブを、白よりにして、フラットにして、グレーっぽい色で表現する作品であれば、ある程度の表現が可能である。
この場合、黒と同じように、白のハイライトも輝度はないので、中間調のフラットな写真であれば、表現は可能である。
モノクロ写真で、この特性からすると、ハイキーの画像が淡い作品、映像は、紙の表面のテクスチャーのでこぼことも相まって、曖昧な表現を可能とするので、独特の感じを持つことが可能となる。
したがって、モノクロ(白黒)写真の場合は、ローキ―の場合は、あまり黒を潰さず、黒い部分のトーンを、少し明るい方にシフトして、ダーク系の沈んだ映像を作り出すことが必要であり、可能である。
対して、ハイキーっぽい画像は、比較的、和紙の曖昧な画像の特性に、適している場合があり、面白い表現が可能である。
濃度は、濃い場合、淡い場合も、それぞれの特徴を持つことになる。
以上がモノクロ(白黒)写真の和紙への概要である。
次にカラー写真。
この場合は、あまり色調がない、単色に近い暗い画像は、モノクロを同じような感じになるので、そこで書いたとおりである。
さて、色が明確にある作品の場合はどうなるか?
これは、和紙のベースの色との干渉と和紙に滲みによる輪郭の曖昧さと、輝度は低下する事が、前提となる。
色も微妙に輪郭が曖昧で、写真専用氏ほどのシャープさ、明確さはない。
すこし、にじむ様な、やさしいような、柔らかいような表現となる。
また、モノクロと同じように、暗い(ローキ―)作品より、明るい色の作品、ハイキーな作品の方が、特徴が出やすいように思える。
こうした特質を生かす作品が、まずは、第一弾での和紙を活かした、作品選定となる。
以上を考えると、淡い色彩やカラフルな色彩を活かした、明るめや派手目のポートレート等は、非常に適した素材となる。
顔料を使って印刷した場合は、紙の耐久性と顔料の耐久性で、記念写真としては、優れた作品になると思われる。
ポートレートの場合は、作品の質によるが、シャープな作品、アートな作品を除き、人間性の感じられる暖かさや温もりなどは、よく表現できると思われる。一般的な、少し冷たい写真光沢紙より、あたたかい作品になるように思う。
次に、風景などは、フラットな特性や淡い特性、明度の高い作品が、まずは、和紙に向いている。
こうした場合、和紙の表面のテクスチャーが、より面白い効果を産み出し、複雑な単純でない効果を産み出すことも期待できる。
これは、紙の写真、物体としての写真に、とても重要な要素である、物質性の点でも効果的である。
さて、次に、和紙としては、表現力をあまり持っていない、黒っぽい写真(ローキ―)な写真についてである。
これについて、否定的な書き方をしたが、これは、和紙の表現する範囲(ダイナミックレンジ)について、書いた事であり、そうした作品を和紙で製作した場合の【表現力】についての記載ではない。
和紙の黒っぽい写真の狭いダイナミック・レンジは、かえって、雑多な夾雑物を写真家ら落として、独特の、本当に大切な写真の魂ともいえる表現を可能にする可能性がある。
まさに、こうした、可能性を使い、特殊な写真の印刷であるコロタイプや薄い紙へのプリントなど、様々な可能性が試されており、いずれも、すばらしい、従来の写真用紙では表現しなかった、表現できなかった世界、対象、概念を表現する事が行われている。
じつは、ここにこそ、本当の意味の和紙の表現力の可能性が、秘められているように思える。