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遠野の不思議を旅する

Flâneurの取材で岩手県遠野を旅したのは2019年のこと。本当なら昨年また違う媒体で遠野を取材する機会があったのですが、憎きコロナの影響で断念。今年こそは取材抜きでも再訪したい。そんな思いを込めて遠野の旅を振り返りたいと思います。

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◆遠野を旅した理由

私が作っているリトルプレスFlâneurには“遊歩者の旅”というコーナーがあります。ただ気ままに旅する紀行文もあればテーマを絞ったガイドブック的な内容の時もあり、号によってその旅の形は変わります。

「次の旅のテーマはどうしようか。今まで行った旅の振り返り、それとも新たにどこか旅しようか」そんな風に考えていた時にふと東北地方で信仰されている“オシラサマ”のことが頭をよぎりました。だいぶ前に読んだ柳田國男の『遠野物語』に書かれていたオシラサマのことが気になり、ちょうどこの頃はオシラサマ関連の本を読みあさっていたのです。調べれば調べるほどオシラサマの不思議にめり込んでいた私は「オシラサマに河童に座敷わらし……数々の土着の信仰……遠野に行きたいかもしれない」と遠野について下調べを始めました。調べれば調べるほど遠野で見たい、行きたい場所が増えて行きます。

一緒にFlâneur を作っている相方のBに下調べの資料を見せ、相談すると「大学の恩師からBはいつか遠野に行くべきだ、と言われてたんだよ」との返答。そんな不思議かつ予言的アドバイスがあったなら行かねばならぬ、と取材先を遠野に決めたのでした。

◆オシラサマとは 遠野市立博物館

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オシラサマは家の神、養蚕の神、目の神などとされ東北地方に広く分布しています。二体一対である場合が多く、頭の部分は男女や馬と人の顔を彫刻したものや墨書きしたものがあります。頭が出ている“貫頭型”と布に頭を覆われた“包頭型”があり、オシラサマに着せる布はキモノ、オセンダク、オソブツ、イショウ、コロモ、ツギ、キレなどと呼ばれ、着せ方も様々です。普段オシラサマは箱などに入れてしまわれており、祭日にだけ出して祀ります。祀ることを“アソバセル”呼びます。主にイタコなどの女性宗教者がオシラ祭文を唱え、信者の娘たちがオシラサマに新しい布を着せ、室内で遊ばせてまわり、両手で挟み一年の吉凶を占います。他の地域では主にイタコに託宣しますが、遠野ではイタコの風習がなく祀っている家の誰かに託宣していたそうです。現在では託宣で吉凶を行うことは行われていないそうです。

オシラサマを持て余した村人がオシラサマを川に流したところ、川を遡って家の前まで戻ってきた、空を飛びながらキィキィ鳴いている姿を見た……などという話や、オシラサマを粗末にしたり、四足の肉を食べたりすることはならず、それを守らないと“口が曲がる”“目が悪くなる”と言われ、オシラサマは人々に信仰されながらも恐れられています。

しかし口が曲がってからオシラサマに詫びると口が元に戻った、という例や病気で身体が弱っている人が体力をつけるために肉を口にする許しを請うと許してくれる、という例もあり、「オシラサマは本当に怖いのだろうか?」という疑問がわいてきました。そのことを遠野市立博物館・学芸員の前川さんに質問したところ、青森県では今も託宣の際に「○月○日に○○○○が起きる。車の色は○色で……」と具体的に災難を告げることもあるそうです。それを告げられた人や家族はその日を無事に終えないことにはずっと怯えて暮らすことになります。粗末に扱ったり、禁忌を侵したりすると祟られる以外にも、恐れられる理由はその現実的な託宣の内容も大きいようです。しかし、オシラサマは恐ろしいばかりではなく子ども好きであり、家の繁栄を祈る神でもあります。オシラサマを譲り受け祀ったところ家が裕福になったという話もあるそうです。 

オシラサマは地方(更にその中の集落)によって呼名も祭日のアソバセル際の祀り方も役割も変化します。ある一定の共通点を持ちながらこれだけ多様な変化を持つ神様は他に例がないのではないでしょうか。

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◆伝承園

実際に各家庭で信仰されているオシラサマとは異なりますが、遠野の野外博物館の伝承園ではオシラサマにオセンダクを着せて願掛けができます。部屋の中に数えきれないほど祀られたオシラサマは圧巻。一見の価値ありです。

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Flâneur Vol.5 ”遠野の不思議を旅する”より抜粋、加筆しました。)

取材先(開館日時などは直接ご確認ください)
遠野市立博物館
〒028-0515                                                          岩手県遠野市東舘町3番9号          Tel: 0198-62-2340
🏠 http://tonoculture.com/tono-museum/

伝承園
〒028-0555                                                         岩手県遠野市土淵町土淵6地割5番地1     Tel: 0198-62-8655 
🏠http://www.densyoen.jp/ 

Flâneur vol.5

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