「ブランド」を幻想や虚言で終わらせず、儲けに繋げるために。 ダイキン片山氏著『実務家ブランド論』を読んで
どうも、フクパンマンです。
2021年9月に出版された、ダイキン工業で長年広告宣伝を勤めてこられた片山氏がまとめた超実践的な本「実務家ブランド論」を拝読させていただいたので、私なりにレビューさせていただきます。
「教科書ブランド論の真似はするな」という熱意のもと、教科書と一線を画する終始わかりやすい口語体と説明で話されており、社内における「ブランド」というあいまいな言葉の定義、そして「ブランディングの目的は売上と徹底しよう」という、意志と実践方法が詰まった良書でした。
理論やフレームの勉強というより「社内の(自分も含めた)思考・目的・手順の整理を徹底する」という内容で、個人的には(片山さんの本の内容と真逆のことを言ってしまうのですが)ブランディングやマーケティングのことがしっかり書かれた本や講義を聞いて、ある程度体系を理解した後、もしくはご自身で経験したことがある方が見ると、より理解が進むかなあと思いました。
もちろん、この本から入り、勉強と実践を踏むというのもアリかと思います。
上記のような本を読んでおくといいかなと思います。(私の教科書)
あとは、事業主はこういうことを求めてるんだなーというのがよくわかると思うので代理店やベンダーの方にも読んでほしいなと。
さて、片山氏の本、私なりにポイントを整理してみます。(もちろん詳細は本をお読みください。あくまで私が気になった点のみです。)どうぞどうぞ。
「教科書ブランド論」は幻想を語る
「ブランドは差別化である」とか、「ブランドは約束である」といった言説を信じているのだとすれば、絶対にブランドはつくれません
といったパワフルな始まり方をする本書。
「教科書ブランド論」と評したいわゆるビジネスコンサルが語るようなブランディング指南書では、「高級ブランド」「スターバックス」をみんな目指そうと指南します。
しかし、我々がマーケティングを担当している企業の大半は【凡人企業】です。同じことをしても体力もセンスも実力もないので真似は不可能であるにも関わらず、『所謂かっこいいブランド』を作ることに終始してしまいます。
機能的価値の方が絶対に大事なのに、情緒的価値が重要視されてしまいがちだからこそ、この問題が起こっているのです。
片山氏の本では、理論ではなくどう実践するかに終始して書かれています。(実際には裏に教科書や実践により培われた理論が存在しているのは当然として)
勝手にカテゴライズしていますが、以下の7つについて書かれています。
<とにもかくにもブランドアイデンティティ>
1.ブランドづくりの目的を正しく認識する
2.ブランドとは何かをしっかり理解、みんなで共有する
<ターゲットの明確化>
3.ブランド階層図でブランドの階層を理解
4.自分たちがどんな企業・商品なのかをはっきり決める
<資源の効率的な配分とブラントの蓄積>
5.ブランド戦略を考えてやることとやらないことを決める
6.効率よくブランドを作る
7.トリプルメディアを活用
特に大事な部分、そして私がそうだよなーと共感しまくったのが1,2のところで、このnoteで深掘りします。
「ブランド」という言葉の定義が社員間であいまい。そしてブランドを作ること、がゴールになってしまう
当たり前のことを言いますが、ブランドの定義、ブランドの蓄積はとても大事です。
というかブランドの定義がない、もしくは埋もれてしまっている状態で企業が走り続けると、道しるべが無いのでどこに向かっているのかわからなくなってしまい、結果売り上げも落ちてしまうということになります。
しかし、それはわかりつつもブランドをみんなで再度整理しよう!となった時よくあるのが、「ブランドの定義、ブランディングは大事だ!」とマーケティング担当が言うと、
いや、うちは別にシャネルとかスタバは目指してないから
ブランディングして、売り上げあがるの?机上の空論だよね?
と脊髄反射で思う人が多いです。これは、まさに片山氏が提唱している【教科書ブランド論が世にはびこってしまっているせいであり、いつまでもブランドを「なんとなくすごいもの」と崇め奉りがちだから】です。
ブランドを考える際は以下の三つだと整理しやすいということはどのブランディングの本にも(たいてい)載っていますが、
(1)ブランドアイデンティティ(存在価値(の理想像))
(2)ブランドプロミス、エンゲージャー(約束すること)
(3)ブランドパーソナリティ(人格、個性)
とかく(2)(3)ばかり焦点があてられて、いわゆる崇め奉られるブランド虚像を作ろうとしたり、(1)を差別化やブルーオーシャン戦略で決めようとしてしまうのです。
しかし実際は「ブランドアイデンティティ」を徹底的に整理すること自体が大事で、企業として必要なことが忘れられてしまいがちです。
自分たちのサービスが大事にしていること、こだわっていること(To beも含め)をみんなで共通認識として持てれば自信にもなりますし、指針にもなります。
そもそも、ブランドを定義するというのはブランド資産(エクイティ)、付加価値を整理・定義するということにつながりますから、決めきれてないのは本末転倒な気もします。
あとは、価値次元という有名な考えがありますがそれの中でも
・基本価値(品質や機能)
・便宜価値(便利で不満を感じないか)
・感覚価値(心地よいか、楽しいか)
・観念価値(物語や共感)
と整理されていて、現在は本来の製品価値を示す基本価値と便宜価値が無視されてしまっているということです。例えば今のマーケティングで乱用されているSDGsは観念価値であって、そこだけやっても空論にしかなりません。
『ブランディングはあくまでお金儲けのため』と力強く片山氏が書く通り、全ては売り上げを上げるための整理です。
他の本に比べて、この部分が熱く語られていた点に特に共感しました。
ブランドプロミスを作るには、『消費者の生活にブランドを置いてくる』という考え方が必要
ちょっと話は逸れますが、私のバイブルの一つ、高広氏がまとめる次世代コミュニケーションプランニングの「コンテクストプランニング」においても、社会・業界のコンテクスト(背景情報)だけでなく、顧客・自社のコンテクストをしっかり理解しないと、そもそもコミュニケーションプランニングができないと話されています。
ブランドアイデンティティ(自社のコンテクスト)は大前提で必要であり、顧客のコンテクストに合わせてリフレーミングしていくことがブランドエンゲージャー(プロミス)の制定の重要なポイントになります。
ブランドプロミスとは、ブランドアイデンティティを消費者のコンテクストに合わせて言い換えること、と片山氏も書いています。
また、アイデンティティがなければブランドプロミスは嘘になったり、表面的になったり、人によって毎回約束することが変わってしまうことすらあります。
ブランドは『妄想』と定義してみる
ブランドを思い出すきっかけになるものに出会ったときに、その瞬間に頭の中に自然に浮かんだ勝手なイメージ。つまり、妄想。妄想は勝手に浮かぶもの。
個人的に独特で面白い言い回しだなと思ったのが、この部分です。また、
いつまでもブランドを、「なんとなくすごいもの」と崇め奉ったり、ありがたがったりすることはやめた方がいいです。~「知られている」ということはすでにすごい価値があるのです。(一部略)
という「ブランドという言葉への偏重」を排除しつつ、ブランドの段階を5つに定義しています。
①知らない(価値が無い)
②知っている(知っているだけ)
③嫌いではない(特に興味はないが選択肢には入る)
④なんとなく好き(なぜかはわからない)
⑤約束(指名購入)
②の時点ですでにブランドであると定義しています。一般的に言われているブランドはおそらく⑤でしょう。ブランドカテゴライゼーションと呼ばれる考え方でも非知名集合として①の段階でもブランドであるとはされていますが、より口語的に整理されていてとてもわかりやすかったです。
また、「イメージ」という言葉でなく、「妄想」と表現したというのが非常に印象的です。イメージの場合、企業主体の言葉と捉えられがちですが、妄想なら生活者主体の言葉ですからね。
ブランド論で有名なケラー流の考え方で言えば、そもそも製品とブランドは同一ではない(当てはめるとイメージ=製品、ブランド=妄想)という感じでしょうが、この妄想という言葉にしたのは的を射ていてすごいなぁと思いましたし、これからはこの妄想というのを拝借しようと思いました。
「ブランドは、生活者、つまりお客様が持っているものである」という絶対的本質。だから、企業や商品が本当に持っているものから作らないといけない。
生活者に『妄想』されるときに、そもそも妄想してもらえるのか、妄想の中でどれくらいのレベルで出てこれるのかが重要ということです。
妄想の中に”いい感じ”に出ようとするにはブランドの蓄積が必要です。その辺の具体的な手法も明記されています。
戦略とは資源の配分をすること
そして、『磨き抜かれたアイデンティティやプロミスを、一番効果があるターゲットと面に集中投下し、ブランドを貯金することが大事』と続けます。
本の中に「戦略とは目標達成のための資源利用の指針 by 音部氏」という一説がでてきますが、ブランド戦略もまさに資源利用の指針をどう決めるかがカギです。
★企業としてこだわっていることを
★知ってないと得する、損するという約束・宣言に落とし込みながら(顧客のコンテクストに合わせつつ)
★ターゲットが一番存在する面でロゴやアイコンを活用し集中投下する
この手順を社員全員で認識しながら進めて売り上げを上げていくことが売り上げアップにつながるのです。
やってはいけないことで一番印象に残った「実務家・経営者と生活者とのGAP」
実務家と経営者は、自分自身がブランドラブの階層が一番高い”わずか1%の存在”であるにもかかわらず、本来届けるべき「まだブランドを知らない、もしくはただ知っているくらいの99%の生活者」とのレベル差を認識しないで、しっかり伝えようとすることをさぼってしまうという話が文中にあります。
生活者のことを考えれば、まず知ってもらう、その後にサービスや商品をまず丁寧に説明して知ってもらう方が大事ですが、当事者になればなるほど盲目的なブランド信者になってしまうというのは、プロモーション担当として常に気にかけたいと思います。
また、伝えたつもりではだめで、伝わることが大事。そもそも生活者はあなたの企業や商品が全く興味がない。
率直に、ターゲットと伝える情報を絞って、かつそれを愚直に続けて蓄積させることが大事です。回りくどく伝えることや、もしくはわかっているという前提は無くしましょう。
ブランドについて語るのは勇気が要る
私自身、この記事をまとめてアップすることすら若干勇気が要ることでした。もっと早くアップする予定だったのですがあれこれ推敲しているうちに1週間経ってしまいました。
もちろん、私自身勉強しながら実践する身であるのでまだまだ間違っている部分もありますし、やりきれてないところもあります。
本書でも、ブランドの整理は非常に難解であることを前段に話しながら、よくもここまで見事に言い切り、わかりやすく落とし込んでいるなあと感服しました。
繰り返しになりますが、勉強と実践によるしっかりした知識があって行きいた結論なので尊敬と共感しかありません。この本に書いてあるができたら、どの企業でも一定のブランディングはできるんだろうなぁと。
社内でブランドの整理・説明するときも、存分に内容を拝借させていただこうと思います。私自身、勉強と実践あるのみです。40代前半でこの領域に到達したいなあ。
ちなみに、西口さんが出された本も大変参考になりましたので追ってレビューしたいと思います。
「実務家ブランド論」も私のバイブルになりました。
それでは、んちゃ。