『天国から見てますか?』
2017年1月初旬、カーテンで目隠しされたガラスドアを開けるとそこには10畳ほどの部屋が広がっていた。
机や椅子、コピー機など事務所のような佇まいではあるが、従業員の姿はなく、いらっしゃるのは綺麗に身なりをまとめた高齢の女性がお一人、
およそ事務所の雰囲気とは合わない、切り出した一枚板の大きなテーブルの真ん中あたりに陣取り佇んでいらっしゃる。
『あの〜藤原です。』
『あ〜、いらっしゃい、初めまして。こちらにお座りになって』
テーブルを挟んで置かれた椅子を勧められる。
『今日はどうしたの?』
『あの〜、これからのことを聞きたくて』
『あ〜、そうなのね、わかりました。下のお名前と生年月日、教えてくださる?』
僕は昔から占いが好きだ。
最初に占ってもらったのがいつで、誰に占ってもらったか?そんなことは覚えていないし、何を言われたかなんて微塵も記憶していない。
そこそこたくさんの占い師さんに仕事も含めお会いすることがあるのだが、好きな割に僕は忘れやすい。
もちろん全てを忘れることはないのだが、後から妻や周りから、あの占い当たってるじゃん!と言われ『あー本当だ』と答え合わせするのがほとんど。
そんな調子なのになぜ占いが好きなのか?
考えてみると、占ってもらって当たるか?当たらないか?よりも、その現場で何を言われるんだろう?とドキドキする時間を楽しんでいるように思う。
この日もそのつもりで、名前と生年月日を答えた。
だが、このおばあちゃん占い師さんは今までお会いした方々とは次元が違っていた。
『あー、奥さんのお腹に赤ちゃんいるのね』
『え、、、。』
この時点で身内以外に妻が妊娠していることは伝えていない。
おばあちゃんはそう言いながら僕の生年月日を書いた横に【5月、女の子】とメモした。
出産予定日は5月18日、性別はつい先日女の子と判明。
『うん、元気な子が生まれるわよ』
呆気にとられ『ありがとうございます』以外の言葉が出てこなかった。
『仕事のことが聞きたいの?』
『あ、そうです』
『テレビで見たことあるわよ、お昼に出てるわよね?』
この当時はヒルナンデスにレギュラー出演させてもらっていた。おそらくそれを見ていただいたことがあるのだろう。
『仕事のどんなことが聞きたいの?』
『あの、3年ほど前から小説を書いてまして、それがいつ出版になるのかなぁと思ってまして』
『ちょっと待ってね』
そういうと、おばあちゃんは短く小さく息を吸い目を瞑った。そして頭の中で何かを映像でも見ているかのように首を前後左右に動かしている。その首の動きはVRゴーグルをつけて映像を見ている人に似ていた。
数十秒後、目を開き話始める。
『あのね、節分が開けて1週間以内に電話があるわよ、それでね、ん〜9月ぐらいにね、発売になるわ』
『え、ほんとですか!?』
『うん、多分そんな感じになるわね』
『他には何かあるの?』
『いや、3年もかけて書いて来てなかなか出版できずにいたので、今日はそれが聞けたらもうなんか満足です』
『あら、そうなの?』そう言いながらにっこり笑ってくださった。
2月。節分が終わって4日ほど経った頃、小説を自力で持ち込んでいたKADOKAWAの担当者から電話が鳴った。
『もしもし』
『藤原さん、小説の出版が決まりました!』
『え!ありがとうございます!!、、、、、あの、いつ出版ですか?』
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