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12月24日(日):認知症の非薬物療法としての対話

先日に製薬大手エーザイの認知症薬「レカネマブ」が発売となったことを受けて、この数日はそれに付随したことに触れていますが、その続きをもう少しばかり。

レカネマブは保険適用になったものの、実質的な投与対象者は認知症患者全体の1割未満といわれており、かつ副作用のリスクや通院負担を考慮すると、社会課題となっている認知症に対しては薬物療法だけに頼るのではなく、非薬物療法でのアプローチも不可欠です。

そのなかで一昨日は非薬物療法としての運動について、昨日は同じくアートがもたらす認知や記憶についての効能に触れてきました。

本日もそれに付随した非薬物療法につながる対話のことを掘り下げます。

認知機能と対話の関連性が図らずもクローズアップされたのがコロナ禍だと思います。

周知の通りコロナ禍では一定期間にわたって外出や対面での接触を控えるように促し続けた結果、健康二次被害のひとつとして高齢者では認知症の進行が加速してしまった例などが報告されていました。

このように対面、対話を制限されたことで認知機能の低下が進んでしまう状況をみれば、対話が脳に与える影響が非常に大きいことはわかります。

イギリス医学誌ランセットの委員会では生涯にわたって影響を及ぼしうる「認知症のリスク要因」について2021年に出した報告書では、12項目に定義をし直し、かつ年代ごとに影響が大きいリスクを明示しました。

そこで整理された具体的な内容は以下の通りです。

●若齢期(45歳未満)
・教育不足

こちらは若い時に十分な教育を受けることが認知機能の維持に役立つ「認知的予備機能(コグニティブリザーブ)」の考え方に基づくものだと言います。

コグニティブリザーブを高めておけば脳の白質に病変があっても、その病変が症状として現れにくくなり、認知症の症状が現れるのを遅らせることができる点は報告されている点です。

●中年期(45歳~65歳)
・難聴
・頭部外傷
・高血圧
・過度の飲酒
・肥満

この時期でリスクが大きいのは難聴だといい、聴力低下は認知機能に悪影響を及ぼすものの、補聴器を使えば緩和できるとされています。

あとはスポーツや交通事故で頭部外傷を受けると認知症になる危険性が高まることも指摘されています。

●晩年期(65歳より上)
・喫煙
・うつ
・社会的孤立
・運動不足
・大気汚染
・糖尿病

これら12項目を見たときに、中年期に盛り込まれている聴力低下は対話を減らす要因になってしまうし、晩年期に入っている社会的孤立もまた対話のない状態に陥る状態です。

このようなリスク要因の側から捉えても対話の場を持っておくことが認知機能低下の緩和に寄与するのは確かでしょう。

また対話について補足をしておくと、昨今はオンラインでもそれができるようになりましたが、やはり望ましいのはリアルでの対面です。

例えば東北大学の川島教授の著書「オンライン脳」ではオンラインに伴う難しさや脳の観点から見た負担に言及しています。

具体的には距離、空間的な制約を超えるオンラインはこのうえなく便利ではあるものの、そのことと私たちの「脳がどう感じているか」は、まったくの別物だという指摘です。

例えば対面でのコミュニケーションだと実際に人と接することで脳がさまざまな刺激を受けることで活発に働きます。

これに対してオンラインでは画面のなかの情報に限定されるために刺激が少なく、脳の一部しか働かないといいます。

また、対面でお互い顔を見ながらよいコミュニケーションがとれた場合には、お互いの脳活動が「同期する」という現象が起きるそうです。

一方のオンラインでは脳が「同期しない」との実験結果が出ており、換言すれば脳活動が同期しないことは脳にとって「オンラインでは、コミュニケーションになっていない」とも表現されています。

つまり情報は伝達できるけれども、感情は「共感」していない、という状態です。

その他、書籍「ストレス脳」でも類似した点に言及していて、オンラインでの画面越しでは社交欲求が十分に満たされずに孤独感が深まっており、リアルでの肉体的な側面への重要性に触れています。

こうした諸々の点を考慮すると「リアルの場」で「対話できる相手」や「対話できる機会」を持っておく意義が見えてくると思います。

そしてリアルでの対話の場は楽しいものでもあるから、現状の認知症薬による薬物療法に伴う副作用のリスクや通院負担、費用負担と比べると、対話は手軽だし精神衛生上もはるかに好ましいですね。

この数日間は認知症の非薬物療法になりえる運動やアート、対話といったことに触れてきましたが、認知機能が低下をしてきたらすぐに薬という選択肢ではなく、まずは日常で出来る非薬物療法から始めていくのが望ましいと思っています。

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