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素敵なリップと寄生虫

先日、久々に調査に行きました。春になると、魚の種類も多くなり、寄生虫もたくさんついています。今回は、その調査中に大きさと寄生虫と鱗が原因で、解剖に時間がかかってしまった。コショウダイの話をします。

和名:コショウダイ
学名:Plectorhinchus cinctus
分類:スズキ目イサキ科コショウダイ属
生息:海水魚。磯や沿岸近くに生息。千葉県外房、東京湾、相模湾〜九州南岸の太平洋沿岸。

なかなか個性的な唇じゃないでしょうか?

味はタイ

名前に“タイ”とついていますが、マダイの仲間ではありません。上記のようにイサキの方が近いです。生きた個体だと体表の色の濃い部分と薄い部分の濃淡がはっきりしており、黒い斑点が綺麗に見えます。あと、個人的には唇の印象が強いです。
背中の黒い斑点が、和名の“コショウ”の由来という説があります。また、名前にタイがつくだけあって、味はタイでした。一言で言うと、とても美味しいのですが、あまり流通していないようです。流通していない原因かどうかはわかりませんが、この魚についてネットで調べてみると、多くのサイトで「味は良いが寄生虫がいる」と書かれていました。

イサキです。5匹で600円だったので、とても安かったです。

ディディモゾイド

今回の調査では、大阪大学の学生のアパートの一室を借りて行いました。その家主が、検査を終えたコショウダイをさばいていた時に、なんともいえない叫び声をあげました。何があったのかと様子を見てみると、身の中から黄褐色の塊がでてきたためでした。この塊は、多くのサイトで注意喚起されており、魚屋さんもクレームの原因として困らされているディデイモゾイドと呼ばれる吸虫です。この吸虫については、過去に晩御飯のカツオのたたきから出てきた時に記事にしたことがあるので、よろしければご覧ください。

この記事を書いた時に、ディデイモゾイドがカツオやマダイに寄生している記録があることを確認したのですが、コショウダイにも寄生していることまでは調べていませんでした。そこで、改めて調べたところコショウダイと近縁なコロダイトビウオサバなどにも寄生していることがわかりました。
この吸虫を研究する時の問題点として、“発見された時すでに半分に切られてしまっている”ことがあるようです。寄生虫の種類を見分ける方法として主流なのは体の特徴を比較することなので、体が欠損していると種類を調べるのは難しいようです。そこで、さまざまな魚から出てきたディディモゾイド吸虫のある遺伝子を調べたところ、宿主魚類によって異なる配列が見られたようです。つまり、どれも黄褐色の塊ですが、種類が異なるということです。ただし、コショウダイとコロダイの吸虫の塩基配列はほとんど同じだったそうです。やはり、宿主が近縁であれば、寄生虫も同じになるのでしょうか?

ヒトには害を与えませんし、コショウダイの肉質が悪くなるわけではありません。もし見つけても、クレームを入れるのではなく、のけて食べてください。

エラの虫

ディディモゾイドはとても目立つので話題になりますが、コショウダイにはもう1つ有名(寄生虫研究界隈のみ)な単生類がいます。ビチョウスキコティリダエ(Bychowskicotylidae)科に属する単生類なのですが、コショウダイからこのグループに属する単生類は日本から見つかったという記録がありません。今回採集した単生類が、このまだ日本で見つかっていない単生類なのかは検査してみないとわかりません。理由は、写真を見て貰えばわかるように、採集したての単生類は半透明で体の特徴が観察しにくいためです。しかも、このあと腐らないようにエタノールで固定するのですが、そうすると標本は真っ白になって体の特徴が観察できなくなります。そのため、この標本は専用の染色液で染色してから観察します。実は、すでにある程度詳しく検査はしたのですが、日本初記録であることが濃厚なのでこれ以上詳細はかけません。まずは、論文にしないといけません
ちなみに、コショウダイが属するイサキ科にはイサキという魚がいますが、このイサキにもビチョウスキコティリダエ科に属する単生類が寄生していることが報告されています。先ほどの、ディディモゾイド吸虫と同じく、宿主が近縁な魚類であれば、同じもしくはよく似た種類の寄生虫が寄生しているようです。これは、宿主魚類が進化して種類が分かれていくのに合わせて、寄生虫も進化しているのかもしれません。いわゆる共進化と呼ばれるものです。

コショウダイのエラからでてきた単生類です。2mmくらいの大きさでした。

お味はいかが?

このように寄生虫だらけのコショウダイでしたが、とても美味しかったです。産卵時期が6月前後なので、産卵のために体に養分をためはじめていることもあったのも理由だと思います。協力してくれた学生の中には、ディディモゾイド吸虫の塊をみて食べるのをやめてしまった者もいましたが、寄生されている場所を除ければ問題なく食べることができます。

コショウダイの刺身(ディディモゾイド除く)と小麦粉をまぶして、バターと塩昆布でソテーしたものです。調理は任せましたが、少し濃いめの味付けの方がよいようです。
うろこがとにかく厄介でした。桜が散ったみたいだねとかいい加減なこと言ってごめんね。

【参考文献】

Abe, N., Okamoto, M., & Maehara, T. (2014). Molecular characterization of muscle-parasitizing didymozoids in marine fishes. Acta Parasitologica, 59(2), 354-358.
Abe, N., & Okamoto, M. (2015). Molecular characterization of muscle-parasitizing didymozoid from a chub mackerel, Scomber japonicus. Acta Parasitologica, 60(3), 557-562.
Lebedev, B. I. (1969). [Bychowskicotylinae subfam. n. and some notes on the system of monogeneans of the family Gastrocotylidae Price, 1943.] Parazitologicheskii Sbornik, 24, 156–165. (In Russian)



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