定年延長で60歳以上になった消防士に待ち受ける現実
今年から公務員の定年年齢の延長が段階的に始まっています。
10年後には定年年齢は65歳にするために、これからの10年は2年に一度、公務員の退職者が0人になります。
現場で話していること
消防の現場では
「生活のために働くしかない。60超えたら出動の少ない部隊に配置してもらってやり過ごすか」
などという声を聞くことがあります。
今はまだ体力のある職員は、61歳からの仕事について軽い気持ちで考えているようですが、本当に61歳以上の高齢職員が消防隊としてやっていけるでしょうか。
61歳以降の職員の身分
公務員の定年延長では61歳以降は「役降り」をすることになります。
特別な職に就いている者を除いて、基本的には管理職ではなくなります。
定年延長を希望した職員の身分は時間外手当が支給される担当レベルの職員です。
退職時点の給料の7割が保証され、30~40代の職員と同じくらいの給与が支給されます。
再任用職員の制度は維持されるため再任用を選択することもできますが給料は減ります。お金が欲しければ定年延長です。
定年延長は再任用とは立場が違います。
一般職員と同等の身分になるため、周囲から求められる労働の成果は当然同等になります。
消防活動の現実
消防隊は真夏でも、スキーウェアのような防火衣を着て、15㎏の空気呼吸器を着装して、2~3時間の活動をしなければなりません。
若い職員でも熱中症で倒れることがあります。
もし、わたしの部隊に高齢の隊員がいたら、他の隊員以上に体調管理に気を配ります。高齢隊員を抱えることで、隊長の負担は増します。
地方の消防では炎上火災が1年に数回というところもあるでしょう。しかし「火災が少ないから大丈夫」という考えも甘いと思います。
平常時の消防訓練ではどうでしょうか?
高齢だからと消防訓練が免除されることなどありません。
40代の職員と同じ給料をもらっている職員に周囲は特別扱いをしてくれるでしょうか。
わたしが部隊の隊長であれば、暑い日も寒い日も、他の職員と同じメニューの訓練をさせます。特別扱いしていては他の職員のモチベーションに係るからです。
短時間の訓練で、疲れたからと休憩ばかりでは、これから組織を支える若い職員は仕事に希望を持てなくなります。
キャリアを考える
間もなく役職定年を迎える50代の職員は、ほとんどが管理職だと思います。
今は周囲の部下が気を使ってくれる立場にいます。
しかし、役降りしたら周囲の扱いは今と同じではなくなり、組織の中枢を担う30~40代の職員と同じ成果が求められます。
それに応えることはできるでしょうか。
いまと変わらない体力はあるでしょうか。
一度自身のキャリアを振り返ってみてください。
現場以外の仕事で組織に貢献できることがあるはずです。
これまで現場一筋だった人は、これからでも遅くありません。新たなキャリアを身に着けるために自己申告を考えてみてはいかがでしょうか。
最後に
体力が資本の消防の定年年齢の延長は、楽観視できるものではないと思います。
自分が組織に残ることで、若い職員のモチベーションが奪われ、組織の消防力を落とす原因になっていたら‥
そんな思いをしながら働くことを想像してみてください。おそらく、ほとんどの人が耐えられないはずです。
わたしも10年後には役職定年です。その時に将来の選択を迷うことがないよう、キャリアを着実に構築していく必要があると考えています。