食品安全委員会調査:「食品の安全性に関する意識等について」
食品安全委員会調査:「食品の安全性に関する意識等について」(本文4,455文字)
食品安全委員会は、令和6年10月9日に令和5年度の食品安全モニター課題報告「食品の安全性に関する意識等について」の結果を公表しました。本調査は令和6年1月に実施したもので、調査は平成24年度から毎年実施されています。ここでは令和5年度の結果の概要から、特に注目度の高い「食品の安全性に係る危害要因」を中心にまとめます。
<調査について>
この調査は、食品安全モニターを対象に、食品の安全性に関する意識や不安要因を明らかにすることを目的としています。具体的には、消費者が日常生活で感じる食品の安全性に関する不安や、特定の食品添加物(例:アスパルテーム)に対する意識を調査し、消費者の懸念や期待を理解するためのデータを収集しました。
調査対象は、全国の食品安全モニター470名で、食品の安全性に関する意識や経験を持つ消費者で構成されています。調査はインターネットを通じて行われ、有効回答数は435名(有効回答率92.6%)でした。調査期間は令和6年1月30日から2月13日までの約2週間で、幅広い年齢層や地域からの回答が集められました。
<調査項目と結果の概要>
1. 食品の安全性に係る危害要因等について
1-1. 日常生活を取り巻く分野別の不安の程度
調査結果によると、日常生活における不安要因として最も多く挙げられたのは「自然災害」で、93.8%の回答者が不安を感じていました。これは、日本が地震や台風などの自然災害に頻繁に見舞われる国であることから、特に高い関心を集めていることを示しています。次いで「環境問題」が80.4%、「戦争・テロ」が80.2%と高い割合を示しました。これらの結果は、地球温暖化や国際情勢の不安定さが消費者の意識に大きな影響を与えていることを反映しています。
「食品安全」に関しては60.7%の回答者が不安を感じており、他の要因に比べてやや低いものの、依然として多くの人々が懸念を抱いていることがわかります。特に、食品の安全性に関する具体的な不安要因としては、有害微生物やウイルスによる食中毒が挙げられ、82.5%の回答者がこれに不安を感じています。また、「かび毒」に対する不安は65.3%、「いわゆる健康食品」に対する不安は63.6%と、食品に関連するさまざまなリスクが消費者の意識に影響を与えていることが明らかになりました。
日常生活における不安要因は多岐にわたり、自然災害や環境問題、戦争・テロといった大規模なリスクから、食品の安全性に関する具体的な懸念まで、幅広い分野で消費者の不安が存在していることがわかります。これらの結果は、消費者の安全意識を高めるための施策や情報提供の重要性を示しています。
図1-1. 日常生活を取り巻く分野別の不安の程度(n=435)
1-2. 食品の安全性の観点から感じるハザードごとの不安の程度
調査結果によると、食品の安全性に関する具体的な不安要因として最も多く挙げられたのは「有害微生物(細菌等)、ウイルス等による食中毒」で、82.5%の回答者がこれに不安を感じていました。これは、食中毒が健康に直接的な影響を及ぼすため、消費者の間で特に高い懸念を引き起こしていることを示しています。
次に多かったのは「かび毒」に対する不安で、65.3%の回答者がこれを挙げました。かび毒は、食品の保存状態や製造過程で発生する可能性があり、その健康リスクが消費者に広く認識されていることがわかります。
「いわゆる健康食品」に対する不安も63.6%と高い割合を示しました。健康食品は、その効果や安全性についての情報が不十分であることが多く、消費者の間で不安を引き起こしていることが考えられます。
その他の不安要因としては、「農薬や化学肥料の残留」が58.2%、「食品添加物」が56.7%、「遺伝子組換え食品」が54.3%と続きました。これらの結果は、消費者が食品の生産過程や加工過程における化学物質の使用に対して強い懸念を抱いていることを示しています。
また、「輸入食品」に対する不安も50.1%と半数以上の回答者が挙げており、輸入食品の安全性や品質管理に対する不信感が存在していることがわかります。
図1-2. 食品の安全性の観点から感じるハザードごとの不安の程度(n=435)
1-3. 食品の安全性の観点から感じるハザードごとの不安の程度(年度別推移)
調査結果によると、食品の安全性に関する不安要因は年度ごとに変動しています。特に「有害微生物(細菌等)、ウイルス等による食中毒」に対する不安は、毎年高い割合を示しており、令和3年度には80.1%、令和4年度には81.7%、令和5年度には82.5%と、徐々に増加しています。これは、食中毒事件の報道や新たな病原体の発見が消費者の不安を増大させている可能性があります。
「かび毒」に対する不安も、年度ごとに増加傾向にあります。令和3年度には60.2%、令和4年度には63.1%、令和5年度には65.3%と、こちらも上昇しています。かび毒に関する情報が広まり、消費者の認識が高まっていることが影響していると考えられます。
「いわゆる健康食品」に対する不安は、令和3年度には58.7%、令和4年度には61.4%、令和5年度には63.6%と、こちらも増加傾向にあります。健康食品の効果や安全性に関する情報が不十分であることが、消費者の不安を引き起こしていると考えられます。
「農薬や化学肥料の残留」に対する不安は、令和3年度には55.3%、令和4年度には57.1%、令和5年度には58.2%と、やや増加しています。消費者は、食品の生産過程における化学物質の使用に対して強い懸念を抱いていることがわかります。
「食品添加物」に対する不安も、令和3年度には53.2%、令和4年度には55.4%、令和5年度には56.7%と、増加傾向にあります。食品添加物の安全性に関する議論が続いていることが、消費者の不安を増大させていると考えられます。
「遺伝子組換え食品」に対する不安は、令和3年度には50.1%、令和4年度には52.8%、令和5年度には54.3%と、こちらも増加しています。遺伝子組換え技術に対する理解が進む一方で、その安全性に対する懸念が依然として強いことが示されています。
食品の安全性に関する不安要因は年度ごとに変動し、全体的に増加傾向にあります。これらの結果は、消費者の不安を軽減するための継続的な情報提供とリスクコミュニケーションの重要性を示しています。
2. 食品安全委員会の取り組みについて
調査結果によると、食品安全委員会の取り組みに対する認知度や評価は、消費者の間で一定の関心を集めています。まず、食品安全委員会の認知度については、回答者の多くがその存在を知っているものの、具体的な活動内容については十分に理解されていないことが明らかになりました。具体的には、食品安全委員会の活動を「よく知っている」と回答した人は全体の20%程度にとどまり、「名前は知っているが、具体的な活動内容は知らない」という回答が多数を占めました。
食品安全委員会の活動に対する評価については、全体的に高い評価を得ているものの、改善の余地があると感じている消費者も少なくありませんでした。特に、リスク評価やリスク管理の透明性に関する評価が高く、消費者は科学的根拠に基づいた判断を重視していることが伺えます。一方で、リスクコミュニケーションの面では、情報の伝達方法や内容に対する改善要望が多く寄せられました。具体的には、専門用語が多くて理解しにくい、情報が一方的で双方向性が欠けているといった意見が見られました。
また、食品安全委員会の情報発信の効果についても調査されました。消費者は、公式ウェブサイトや報告書、プレスリリースなどを通じて情報を得ていることが多いものの、その情報が実際の消費行動にどの程度影響を与えているかについては、ばらつきが見られました。特に、若年層や高齢者層では、情報の受け取り方や活用方法に違いがあり、ターゲット層に応じた情報発信の工夫が求められています。
総じて、食品安全委員会の取り組みは消費者から一定の評価を得ているものの、情報の伝達方法や内容の改善が求められていることがわかります。今後は、より分かりやすく、双方向性を持ったリスクコミュニケーションの強化が重要となるでしょう。
3. 甘味料のアスパルテームについて
調査結果によると、甘味料アスパルテームに対する認知度は比較的高く、多くの消費者がその存在を知っていました。しかし、具体的な安全性や健康影響についての理解は十分ではなく、不安を感じている消費者も少なくありませんでした。アスパルテームに関する認知度は、全体の70%以上の回答者が「名前を知っている」と答えましたが、「具体的な内容を知っている」と答えた人は約30%にとどまりました。
アスパルテームに対する不安の程度については、約50%の回答者が「不安を感じる」と答えました。特に、長期的な健康影響や、特定の健康状態(例:フェニルケトン尿症)に対する影響についての懸念が多く見られました。これらの不安は、アスパルテームに関する情報が十分に提供されていないことや、過去の報道やインターネット上の情報が影響していると考えられます。
また、アスパルテームに関する情報源についても調査されました。消費者が最も信頼している情報源は「医療専門家」や「公的機関の発表」であり、これらの情報源からの情報が最も安心感を与えることがわかりました。一方で、インターネットやSNSからの情報は信頼度が低く、これらの情報源から得た情報に基づいて不安を感じる消費者も多いことが示されました。
さらに、アスパルテームに関する情報提供の改善点として、消費者からは「わかりやすい説明」や「具体的な事例を交えた情報提供」が求められていました。特に、科学的根拠に基づいた情報を簡潔に伝えることが重要であり、消費者の理解を深めるための工夫が必要とされています。
総じて、アスパルテームに対する消費者の認識は高いものの、具体的な安全性や健康影響についての理解が不足していることがわかります。今後は、信頼性の高い情報源からのわかりやすい情報提供を強化し、消費者の不安を軽減するための取り組みが求められています。
<総括>
令和5年度の食品安全モニター課題報告によると、日常生活における不安要因として最も多く挙げられたのは「自然災害」で、93.8%の回答者が不安を感じていました。次いで「環境問題」が80.4%、「戦争・テロ」が80.2%と高い割合を示しました。「食品安全」に関しては60.7%の回答者が不安を感じており、特に有害微生物やウイルスによる食中毒が82.5%と高い割合を示しました。その他の不安要因としては、「かび毒」が65.3%、「いわゆる健康食品」が63.6%、「農薬や化学肥料の残留」が58.2%、「食品添加物」が56.7%、「遺伝子組換え食品」が54.3%、「輸入食品」が50.1%と続きました。食品安全委員会の取り組みに対する認知度は高いものの、具体的な活動内容については十分に理解されていないことが明らかになりました。甘味料アスパルテームに対する認知度は高いものの、具体的な安全性や健康影響についての理解は不足しており、約50%の回答者が不安を感じています。
<一次情報>
令和5年度 食品安全モニター課題報告「食品の安全性に関する意識等について」の結果(令和6年1月実施)
概要
https://www.fsc.go.jp/monitor/monitor_report.data/2023kadai-gaiyou.pdf
統計表
https://www.fsc.go.jp/monitor/monitor_report.data/2023kadai-table.pdf
調査票
https://www.fsc.go.jp/monitor/monitor_report.data/2023kadai-questionnaire.pdf
食品安全モニターからの報告、アンケート調査結果(課題報告)
https://www.fsc.go.jp/monitor/monitor_report.html
【食品安全委員会】食品安全モニターからの報告
https://www.fsc.go.jp/monitor/monitor_report.html
食品の安全性に関する不安要因は多岐にわたり、消費者はさまざまなリスクに対して高い関心を持っています。これらの結果は、食品の安全性に関する情報提供やリスクコミュニケーションの重要性を示しており、消費者の不安を軽減するための施策が求められています。
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