『暗黒館の殺人』を読み終えました
\出して!早く!ここから出して!!/
というのが読んでる最中の最大の感想(悲鳴)でした。暗い!怖い!寒い!(これは季節の変わり目だから)
閉所が苦手なんです。どのくらい苦手かというとポケモンのゲーム内の洞窟ですら長時間さ迷って出口が分からないとムズムズゾワゾワしてくるくらいです。グラフィックの進歩が憎い。長距離のトンネルも助手席ならいざ知らず、運転しているとじわじわと胸を押さえつけられ続けているようなそんな苦しさを感じます。『暗黒館の殺人』を読んでいる間もずっとそんな感じでした。終始なんというか黴臭くて薄暗くて、出口があとどのくらいかさっぱり分からない、地肌が露出しているじめじめしたトンネルに放り込まれて、にっちもさっちも行かずとにかく進むしかない、そんな心細さがありました。もう本当に怖かったです。小学生みたいになってしまった。せめてね、江南くんや鹿谷さんが物語の道案内してくれていたら少しは安心できたんです。なんで!なんで江南くん墜落してしまうの!!泣きそうでした。えらいこっちゃと思って次の章に渡ったら急に知らん人出てくるし。むしろ今までミステリは「探偵の周辺だけは安全」というのを心の支えにしながら読んでいたので、セーブポイントのないホラーゲームやってる気分でして、大変ハラハラしました。安全地帯などどこにもない昏い隧道……。って感じでしたね!!(半泣き)金田一耕助ファイルだって金田一先生を精神的セーブポイントにしていたので読み通せたところあるんですよ。いやね、わかってましたよ。冒頭から江南くんの様子がおかしかったですもの。あーこりゃ鹿谷さん出てこないとどうにもならないんだろうなってことは察してました。それにしたってこんなに出てこないことありますか!解説を読み、目次を確認し、鹿谷さんは最終盤にしか出てこないことに絶望しながら覚悟を決めて読みました。あー怖かった。
何が怖かったって、個人的には望和さんですよ。館の中をずっとさ迷って、道行く人(そりゃほぼ身内だけですけど)誰彼かまわずに「清は、清はどこ?」って結構な勢いでまくしたてて泣くってもうそれだけで怖い。この人ひとりでたいがいなホラーですよ。「子を思う母親の暴走」ってなんでこんなに怖いんでしょうか。なんとなく生命の根源に関わる恐怖に近しいものをおぼえます。うまく言語化ができませんが。私の頭の中に、彼女が両手を力なく前に出して涙を流しながらよろよろと館をさまようイメージがこびりついてしまいました。誰か射影機(※1)持ってきて!!あの一族の事情を考えると怨霊にもなりきれずに「檻」の中でさまよい続けてそうで、それはそれで怖い。とりあえず清くんの教育に悪いのでお父さんなんとかしなさいよ、玄児君みたいに学校出してやんなよ!特別支援学校ならきちんと支援してくれるって!と実際的なことを無意味に考えて現実逃避していました。(この場合は「物語」から「現実」に逃避していたのかもしれませんね。)実際保護者が不安定だと子供に与える悪影響はもう、アレなのでねぇ。清くんが並外れて気丈なだけですからね。
美鳥ちゃん美魚ちゃんの双子ちゃんとか「ダリアの宴」なんかはゴシックホラー的な要素だなぁ、綾辻先生今回はそういう要素全部盛り盛りの豪華版なんですね、くらいの距離感で楽しく読みました。このお館ならローゼンメイデンの水銀燈か真紅が飾られていても疑問はないですね。解説が宝野アリカさんだったのでなおさら連想したんだろうな。それにしても双子ちゃんには双子ちゃんにしか出せない独特の魅力がありますねぇ。素敵です。ちなみに小説に出てきていたタイの「H型二重体」の方の自伝か何かを中高生の頃図書館で読んだことを思い出しました。(彼らの夜の営みを記した場面が衝撃的でほぼその記述の記憶ばかりなのは中高生のご愛嬌……。でも中也さんが双子ちゃんに求婚された辺りで思い出してなんともいえない気分になったのは内緒です。)ただ、玄児さんの出自については想定を超える陰惨さでかなり気持ち悪かったですね。まぁ「玄」という字には「くろ。くろい。また、暗い。(『新漢語林』より引用)」という意味があるので、たーしかに暗い出自の児だなとは思いましたけど。ちなみに玄遙の遙は「さまよう。そぞろ歩く。(『新漢語林』より引用)」という意味ですから、暗闇をさまようわけでこれ以上ない名付けだなぁと泡を吹いてひっくり返ったのは余談です。
中也さんについては、なんとなく中盤あたりから中村青司じゃなかろうかとは思っていたんです。建築に興味があるとか大分に許婚がいるとかで。でも同じ空間に江南くんがいるから!それに征順さんのいう死んだ「中村某」とも矛盾するし……?タイムパラドックス……??ミステリで……??まっさかぁ〜でもなぁ……と頭を抱えながらの読書でした。ですから真相がすべて明かされたとき頭を抱えましたよ。それってアリなんだ……!?Aさんだと思っていた人がBさんだったという展開そのものはよくあるものですし、玄児さんと同じ年頃の忠教さんの存在を提示されたあたりから中也さんか玄児さんかどちらかは忠教なのではとか疑っていましたけど。そこもちゃんと入れ替わったうえでさらに時空を超えて二重三重に入れ替わられるのまで考慮に入れてはいませんでした。終盤に向かいながらあっちもこっちも入れ替わっていくものだから驚きの連続でした。「視点」についても浦登一族の雰囲気からして妖術の類を使える人物がいるのか?でもこれミステリだよね?と整合性をつけようとして混乱していました。ミステリの懐ってひろいんだなぁとちょっと呆然としました。とりあえず『Another』シリーズの「現象」みたいなものと理解して読みました。「館」のもつ磁場のようなものですね。
中也さんが中村青司だと疑いを持つまでは、暗黒館にありとあらゆるこれまでの「館」の痕跡が現れるのでフルコースだー!全部乗せだー!と喜んでいましたが、逆でした。『暗黒館の殺人』が言ってしまえば「館」シリーズのエピソード零だったんですね。そこまでひっくり返るのか!……ということは残りの「館」にも実は暗黒館にあったモチーフが出てきてもおかしくないわけですね。というかあとがきの時点で先生が『びっくり館の殺人』についてはそのように予告もされていますし、続編も頭を柔らかくしながら楽しんで読みたいと思います。
※1射影機……ホラーゲーム「零」シリーズで用いられる「ありえないもの」を写す架空のカメラ型の機械。怨霊の除霊等に使う。(私は実際にプレイしたことはなく、ゲーム実況を見た限りでの理解です。念の為。)