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小説「哀しみのメトロポリス」#1
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 —あらすじ— 夜の六本木で客を引くキャッチの真山は、沖縄からこの街へとやってきた若い二人の男女と出会う。男は陸自上…
小説「哀しみのメトロポリス」#4
##創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 (九) 月曜の夜が終わり、火曜の早朝、俺はその日最後のバックを受け取り、六本木交差点へと歩道を歩いた。康佑とカナ…
小説「哀しみのメトロポリス」#8
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 (二十一) 身勝手なものだ。個人的な怨恨を晴らしたいが為に女を棄て、刃物を手に暴走する。心情は理解できるが、やは…
小説 「哀しみのメトロポリス」 #9
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 (二十四) 悲鳴が聞こえた。一人ではない。二人か三人。それは耳障りな不協和音となり、続いて激しい物音。何かが割…
小説「哀しみのメトロポリス」 #10
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 (二十六) フロアに落ちたスマートフォンを管が拾い上げ、こちらに差し出してくる。途端、それが振動し始めた。一瞬…
小説「哀しみのメトロポリス」 #11(完結)
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 (三十) 鳥居坂へとノーズを進めると、すぐ左手にインペリアル六本木が見えてきた。日曜の深夜、点いている街灯もまば…
小説「哀しみのメトロポリス」#1
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木
—あらすじ—
夜の六本木で客を引くキャッチの真山は、沖縄からこの街へとやってきた若い二人の男女と出会う。男は陸自上がりの青年である康佑、その恋人はカナといった。
二人は夜の街で知り合った悪い仲間とつるむようになり、ある夜カナは仲間たちに康佑の眼の前で輪姦されてしまう。
都会の非情さと過酷さに打ちのめされた康佑だが、カナを輪姦した連中を許してはお
小説「哀しみのメトロポリス」#2
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木
(二)
六本木交差点から五百メートルほどだろうか。溜池山王方面へ坂を下ると、一軒の古い喫茶店がある。店の名はAN。昼を過ぎた辺りから店を開き、酒を出すバータイムは六時からだ。黒ずんだ木材で作られた店の内装と、古いジャズの流れる店内の空気を、俺は気に入っていた。
待ち合わせの夕方四時。スーツの男はすでに店にいた。ボックス席に腰をかけ、テー
小説「哀しみのメトロポリス」#3
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木
(五)
金縁の眼鏡をかけた白いスーツの大男が数人の取り巻きに囲まれ、六本木通りの路肩に停まるベントレーへと、その巨体を左右に大きく揺らしつつ歩み寄った。この辺りを治める暴力団、関東恭撰会会長の川藤という男だ。五十代。六本木をシマとするキャッチは皆、店の専属のそれでもない限り、この男の許へ月にいくらかの金、『地代』と呼ばれるそれを納めている
小説「哀しみのメトロポリス」#4
##創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木
(九)
月曜の夜が終わり、火曜の早朝、俺はその日最後のバックを受け取り、六本木交差点へと歩道を歩いた。康佑とカナの姿も見えた。
「あまり飲み過ぎるなよ」
俺がいうと、二人は曖昧に笑って見せる。仲間ができたようだ。数人の混血児たちと共に、夜の街へと消えていった。
雨が降っている。傘はさしていたが、スラックスの裾は雨に濡れ、足首の辺りにまとわ
小説「哀しみのメトロポリス」#5
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木
(十三)
三丁目の交差点に面した四隅の一角に、スティーブはいた。いつもの場所だ。奴はいつもこの場所で客を引いている。店の専属ではない。侠撰会の息はかかっておらず、金を納めてもいないが、スティーブは俺と同じく、フリーのキャッチだ。違うのは、俺の案内する店の大半がキャバクラやホステスのいるクラブであることに対し、スティーブのそれは踊るクラブや
小説「哀しみのメトロポリス」#6
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木
(十五)
店を閉めたインド料理屋の前に、古いBMWが停まっていた。丸目の四灯、中央には豚の鼻に似たグリル。車内に人はいなかった。日曜の早朝三時、外苑西通り。
地下への階段を降り、扉を開く。暗い店内に、坂本龍一の映画音楽が薄く流れていた。原曲はシンセサイザーだったはずだが、聴こえているのはピアノの音と、チェロかバイオリンか、何か弦楽器のそ
小説「哀しみのメトロポリス」#7
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木
(十七)
BMWは、三丁目の六本木通りに面した時間貸しのパーキングに突っ込んであった。駐車監視員は昼夜を問わず繁華街をうろついている。
路上に駐車していても、中に人間が乗っているか、傍に持ち主がいるかすれば、切符を切られることはない。事実、夜の六本木は路上駐車だらけだ。タクシーやキャバクラ嬢の送りの車で、六本木通り、それに交差する外苑東
小説「哀しみのメトロポリス」#8
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木
(二十一)
身勝手なものだ。個人的な怨恨を晴らしたいが為に女を棄て、刃物を手に暴走する。心情は理解できるが、やはりそれは愚かな行いだといえるだろう。「若さと愚かさは同義だ」と、昔読んだ何かの本に書いてあった。ヘミングウェイのような風貌をした日本人の作家が書いた本だ。それは今も、部屋のどこかにある。
カナにはあまり外を出歩かせたくない。当面
小説 「哀しみのメトロポリス」 #9
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木
(二十四)
悲鳴が聞こえた。一人ではない。二人か三人。それは耳障りな不協和音となり、続いて激しい物音。何かが割れる派手な音も聞こえる。フロントの先、サウナの入り口で分かれた女性用のフロアからだった。
スリッパを脱ぎ、ローファーに履き替える。フロントの禿げ頭を一瞥したが、こちらを見ていない。悲鳴や物音の聞こえた先へと首を九十度回し、意識を
小説「哀しみのメトロポリス」 #10
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木
(二十六)
フロアに落ちたスマートフォンを管が拾い上げ、こちらに差し出してくる。途端、それが振動し始めた。一瞬、管と眼が合う。管が顎をしゃくった。受け取り、車速を落とす。大きな通りだ。徘徊する警官に、運転中の通話を見咎められれば面倒だった。振動し続ける携帯を握り、ステアリングを切る。バス停の脇に車を停め、ギアを抜いた。液晶に表示されている
小説「哀しみのメトロポリス」 #11(完結)
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木
(三十)
鳥居坂へとノーズを進めると、すぐ左手にインペリアル六本木が見えてきた。日曜の深夜、点いている街灯もまばらに思える。暗い路地の路肩にBMWを止め、管と降り立った。インペリアル六本木の敷地内へと駆け足で踏み入れる。カナの名を呼び、叫んだ。返事はない。痛めつけた、とヴェクターはいった。放り出した、とも。
施設内は暗かった。開店している
野良犬どもの六本木(まち) (小説
(一)
窓に網を貼った警察車両とパトカーが二台ずつ、六本木三丁目の吹き溜まりにゆっくりと進入してきた。サイレンは鳴らしていない。赤色灯が瞬いているだけだ。
早朝だった。辺りには外国人向けのBARやクラブが多い。吹き溜まりのあちこちで帰りそびれた若い酔っ払いがたむろし、また採り過ぎたアルコールを吐き出していた。
陽はまだ昇り切っていない。空気は青味がかっている
神の子、許されざり (小説)
1
衝立の向こうで扉の開く音がした。会話のため、無数の小さな穴を開けられているが、相手の姿は見て取れない。体臭が鼻を衝く。風呂に入っていないようだ。罪の告白か人生相談に訪れたこの相手は浮浪者か、それに近い人種だろうと武藤は見当をつけた。
「どうされました、今日は」
椅子に座り、静かに訊いた。衝立越しに、相手の落ち着かない気配が伝わってくる。体の微細な動きが止まらないらしい。薬物中毒者でもあ