山口遼

WEBライター。 生業の傍ら、作家を目指して大型新人賞を獲るべく小説も執筆。 東京は吉…

山口遼

WEBライター。 生業の傍ら、作家を目指して大型新人賞を獲るべく小説も執筆。 東京は吉祥寺在住。 独身。婚歴なし、子供なし。猫がいる。

マガジン

  • お馬鹿エッセイ

    著者が体験したお馬鹿なエピソードを描く。

  • 神の子、許されざり (小説)

    過去に書き上げ、某大型新人賞を受賞し損ねた、要するにボツ原稿。 あらすじ かつて暴力団に籍を置いていた武藤は更生し、六本木にある教会で神父を務めている。有能な構成員であった過去から、かつての上司である阿南は武藤を組織へ戻そうと執拗に誘うが、武藤にはその意思がなかった。 一方、大学院生である香村龍の許へ、米国在住の老女からメッセージが届く。老女はベトナムで戦死した父親の影を探しに来日するつもりだという。 来日を果たし、日本で落ち合った二人は歴史を辿るが、その過程で龍は何者かに命を狙われる。

  • 野良犬どもの六本木(まち)  (小説)

    江戸川乱歩賞落選作の一つ。たしか一次選考を通過した先、二次選考で落ちた記憶が。 —あらすじ— 六本木にある吹き溜まりでホームレス生活を送る北乃は昏い過去から逃げるように世捨て人として暮らしを送る。 そこへかつての仲間が訪ねてくるのだが、北乃にはすでに社会復帰する意思がなかった。 ある日、北乃たちの暮らすホームレス集落に母子が訪ねてくる。母は覚醒剤に溺れ、娘は未就学児だった。やがて母は暴力団に殺されてしまい、娘はその身を囚われてしまう。北乃は娘を救出するため、六本木の街を駆け巡る。

最近の記事

小説「哀しみのメトロポリス」#1

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 —あらすじ— 夜の六本木で客を引くキャッチの真山は、沖縄からこの街へとやってきた若い二人の男女と出会う。男は陸自上がりの青年である康佑、その恋人はカナといった。 二人は夜の街で知り合った悪い仲間とつるむようになり、ある夜カナは仲間たちに康佑の眼の前で輪姦されてしまう。 都会の非情さと過酷さに打ちのめされた康佑だが、カナを輪姦した連中を許してはおけず、復讐のために動き始める。 一方、真山は街を治める暴力団幹部より非正規のルー

    • 小説「哀しみのメトロポリス」#2

      #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 (二)  六本木交差点から五百メートルほどだろうか。溜池山王方面へ坂を下ると、一軒の古い喫茶店がある。店の名はAN。昼を過ぎた辺りから店を開き、酒を出すバータイムは六時からだ。黒ずんだ木材で作られた店の内装と、古いジャズの流れる店内の空気を、俺は気に入っていた。  待ち合わせの夕方四時。スーツの男はすでに店にいた。ボックス席に腰をかけ、テーブルには水とお絞りだけが乗っている。 「あら、いらっしゃい」  ママが俺に声をか

      • 小説「哀しみのメトロポリス」#3

        #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 (五)  金縁の眼鏡をかけた白いスーツの大男が数人の取り巻きに囲まれ、六本木通りの路肩に停まるベントレーへと、その巨体を左右に大きく揺らしつつ歩み寄った。この辺りを治める暴力団、関東恭撰会会長の川藤という男だ。五十代。六本木をシマとするキャッチは皆、店の専属のそれでもない限り、この男の許へ月にいくらかの金、『地代』と呼ばれるそれを納めている。  キャバクラ帰りらしく、川藤は上機嫌に見える。六本木通りに面したビルのエレベ

        • 小説「哀しみのメトロポリス」#4

          ##創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 (九) 月曜の夜が終わり、火曜の早朝、俺はその日最後のバックを受け取り、六本木交差点へと歩道を歩いた。康佑とカナの姿も見えた。 「あまり飲み過ぎるなよ」 俺がいうと、二人は曖昧に笑って見せる。仲間ができたようだ。数人の混血児たちと共に、夜の街へと消えていった。 雨が降っている。傘はさしていたが、スラックスの裾は雨に濡れ、足首の辺りにまとわりついた。  六本木にキャッチの数は多いが、そのほとんどが店の専属だ。複数の店と

        小説「哀しみのメトロポリス」#1

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        • お馬鹿エッセイ
          5本
        • 神の子、許されざり (小説)
          1本
        • 野良犬どもの六本木(まち)  (小説)
          1本

        記事

          小説「哀しみのメトロポリス」#5

          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 (十三)  三丁目の交差点に面した四隅の一角に、スティーブはいた。いつもの場所だ。奴はいつもこの場所で客を引いている。店の専属ではない。侠撰会の息はかかっておらず、金を納めてもいないが、スティーブは俺と同じく、フリーのキャッチだ。違うのは、俺の案内する店の大半がキャバクラやホステスのいるクラブであることに対し、スティーブのそれは踊るクラブやバーといったものであり、そして経営者やスタッフ、また客の多くもが外国人や混血児で

          小説「哀しみのメトロポリス」#5

          小説「哀しみのメトロポリス」#6

          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 (十五)  店を閉めたインド料理屋の前に、古いBMWが停まっていた。丸目の四灯、中央には豚の鼻に似たグリル。車内に人はいなかった。日曜の早朝三時、外苑西通り。  地下への階段を降り、扉を開く。暗い店内に、坂本龍一の映画音楽が薄く流れていた。原曲はシンセサイザーだったはずだが、聴こえているのはピアノの音と、チェロかバイオリンか、何か弦楽器のそれだった。俺の知っている『Merry Christmas Mr.Lawrence

          小説「哀しみのメトロポリス」#6

          小説「哀しみのメトロポリス」#7

          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 (十七)  BMWは、三丁目の六本木通りに面した時間貸しのパーキングに突っ込んであった。駐車監視員は昼夜を問わず繁華街をうろついている。  路上に駐車していても、中に人間が乗っているか、傍に持ち主がいるかすれば、切符を切られることはない。事実、夜の六本木は路上駐車だらけだ。タクシーやキャバクラ嬢の送りの車で、六本木通り、それに交差する外苑東通り、それらから細部へと入り組む路地に至るまで、駐車車両で溢れかえっている。  

          小説「哀しみのメトロポリス」#7

          小説「哀しみのメトロポリス」#8

          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 (二十一) 身勝手なものだ。個人的な怨恨を晴らしたいが為に女を棄て、刃物を手に暴走する。心情は理解できるが、やはりそれは愚かな行いだといえるだろう。「若さと愚かさは同義だ」と、昔読んだ何かの本に書いてあった。ヘミングウェイのような風貌をした日本人の作家が書いた本だ。それは今も、部屋のどこかにある。  カナにはあまり外を出歩かせたくない。当面の間、身を隠すのに必要な物を訊いたが、何も要らないとカナはいった。着替えの類はス

          小説「哀しみのメトロポリス」#8

          小説 「哀しみのメトロポリス」 #9

          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 (二十四)  悲鳴が聞こえた。一人ではない。二人か三人。それは耳障りな不協和音となり、続いて激しい物音。何かが割れる派手な音も聞こえる。フロントの先、サウナの入り口で分かれた女性用のフロアからだった。  スリッパを脱ぎ、ローファーに履き替える。フロントの禿げ頭を一瞥したが、こちらを見ていない。悲鳴や物音の聞こえた先へと首を九十度回し、意識をそちらに奪われている。  人影が二つ、足早にサウナを出るのが見えた。二人で何かを

          小説 「哀しみのメトロポリス」 #9

          小説「哀しみのメトロポリス」 #10

          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 (二十六)  フロアに落ちたスマートフォンを管が拾い上げ、こちらに差し出してくる。途端、それが振動し始めた。一瞬、管と眼が合う。管が顎をしゃくった。受け取り、車速を落とす。大きな通りだ。徘徊する警官に、運転中の通話を見咎められれば面倒だった。振動し続ける携帯を握り、ステアリングを切る。バス停の脇に車を停め、ギアを抜いた。液晶に表示されている名は、『L』のバーテンダー、林だった。回線を繋ぎ、耳に当てる。 「お忙しいところ

          小説「哀しみのメトロポリス」 #10

          小説「哀しみのメトロポリス」 #11(完結)

          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #六本木 (三十)  鳥居坂へとノーズを進めると、すぐ左手にインペリアル六本木が見えてきた。日曜の深夜、点いている街灯もまばらに思える。暗い路地の路肩にBMWを止め、管と降り立った。インペリアル六本木の敷地内へと駆け足で踏み入れる。カナの名を呼び、叫んだ。返事はない。痛めつけた、とヴェクターはいった。放り出した、とも。  施設内は暗かった。開店している店舗がないのだ。地下に位置する中央噴水広場を中心とし、その周囲を地下一階から地上

          小説「哀しみのメトロポリス」 #11(完結)

          ぼくと痔の四半世紀冷戦

          #創作大賞2024 #エッセイ部門 (序) 先日、トイレで大きい方をしたあと驚いた。トイレットペーパーに多量の鮮血が付着していたからだ。 ぐおお、また来たか、という感があった。 発症しては寛解し、寛解してはまた発症し、を延々と繰り返すぼくの痔。 思えばその闘いは実に四半世紀にも及ぶのだった。 (ファーストインパクト) 高校一年の春だった。 教室に先生が入ってきて、ぼくたち生徒は「きりーつ」の号令で一斉に立ち上がる。 「れーい」 「ちゃくせーき」 ぐああああああああああああ

          ぼくと痔の四半世紀冷戦

          愚親、死すべし

          子供を育てる、ということは。 (大して考えもせずポンポコと子供を作り産むバカな親たちに) 1. ぼくは大学を出ていない。それどころか、高校すら卒業できなかった。 高校を出られなかったのはぼくの責任に違いないのだが、大検(現・高認)を経て大学を卒業できなかったその責の所在はぼくにはない、というのがぼくの意見である。 ぼくの育った家は父親が早逝したために片親であり、兄妹はぼくを含めて三人もいた。そして残ったその母親もこれまた無責任な女であり、子供たちの体がそこそこ大きくなると、

          愚親、死すべし

          野良犬どもの六本木(まち) (小説

                         (一)    窓に網を貼った警察車両とパトカーが二台ずつ、六本木三丁目の吹き溜まりにゆっくりと進入してきた。サイレンは鳴らしていない。赤色灯が瞬いているだけだ。  早朝だった。辺りには外国人向けのBARやクラブが多い。吹き溜まりのあちこちで帰りそびれた若い酔っ払いがたむろし、また採り過ぎたアルコールを吐き出していた。  陽はまだ昇り切っていない。空気は青味がかっている。静かだった。警察車両のエンジン音だけが轟き、辺りに反響した。 「来たぞ。警察だ

          野良犬どもの六本木(まち) (小説

          水死体運搬船タイタニック (エッセイ)

          #創作大賞2024 #エッセイ部門 海の男。 うーむ、憧れる。響きからしてカッコいい。その言葉から連想されるのはやはり船乗りだろうか。しかし一口に船といっても様々な物がある。客船もあれば貨物船もあり、巡視船もあればクルーザーだってあるわけだ。 その中でも最もタフでダンディズム溢れる存在が漁船であり、またそれを駆る漁師なのだと思う。荒れ狂う大海原へと船を出し、ねじり鉢巻きを頭に大物を次々と釣り上げ、船に掲揚した大漁旗を翻しつつ港へと戻ってくるのだ。カッコいい。やはりカッコい

          水死体運搬船タイタニック (エッセイ)

          神の子、許されざり (小説)

           1  衝立の向こうで扉の開く音がした。会話のため、無数の小さな穴を開けられているが、相手の姿は見て取れない。体臭が鼻を衝く。風呂に入っていないようだ。罪の告白か人生相談に訪れたこの相手は浮浪者か、それに近い人種だろうと武藤は見当をつけた。 「どうされました、今日は」  椅子に座り、静かに訊いた。衝立越しに、相手の落ち着かない気配が伝わってくる。体の微細な動きが止まらないらしい。薬物中毒者でもあるのだろうか。  発言を促すでもなく、武藤は待った。何かを語るために作りあげた心

          神の子、許されざり (小説)