声の主は君だったのね
ふぃふぃふぃふぃ~
ふぃふぃふぃふぃ~
夕方、つけっ放しのテレビからそんな音が聞こえてきた。
懐かしさを感じて、包丁を握る手を休める。
カエルの話題だった。
声の主はカジカガエル。
本州、四国、九州の山地の渓流やその周囲の森林に生息し、オスの鳴き声が鹿に似ていることからこの名が付けられたとの事。
カエルだったのか!
思わず声を上げてしまった。
***
山間部に近い所に暮らしていた私は、子どもの頃は山に分け入る機会はままあった。
山は町とは違う音にあふれている。
風に揺れて木の葉がこすれる音、湿った土を踏みしめる音、川のせせらぎ、鳥の鳴き声に虫の羽音、正体の分からない音まで。
そんな中に混ざって、たしかにこの音——声を耳にしていた。
「ふぃふぃふぃふぃ~」という笛の音に似たような美しさ。
声の主は鳥だろう、私は当然のように思った。
コマドリ、キビタキ、ミソサザイ、オオルリ……たくさんの鳥が耳を楽しませてくれるが、そうした彼らの誰かなのかな。
まさか澄んだ高い声がカエルのものだなんて想像もできなった。
だって、カエルって「カッカッカッカッ」とか「グエッグエッグエッ」という声じゃない?
そういう思い込みもあったし、疑問を突き詰める貪欲な知識欲もなかったので、ン十年間記憶の箱に収めることになった。
ああでも、かなりの時間は経たけれど真実を知らないまま人生を終えずに済んで良かった!
すっかりハマった私は、ここしばらくはカジカガエルの鳴き声の動画を再生しまくっている。
便利な世の中ね。
でもやっぱり”生歌”を堪能したい。
ウィッシュリストに「カジカガエルの鳴き声を聴く」と記そうか。