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ポロロン♪ わたしは吟遊詩人

10年ほど前だろうか、100均ショップをうろついていたら郷愁を誘うものに再会した。

うわっ。
懐かしー。

使う予定もないのに、即、買い物かごに入れたのは言うまでもない。



四角い台座に丸い窪み。
蓋部分にはワイヤーが張られている。
そのワイヤーを押し下げると、窪みに置いたあれがスーイっと切れる。

ゆで卵切り器である。
エッグカッターとかエッグスライサーなどと横文字な言い方もあるが、私の中では昔も今もゆで卵切り器である。

子どもの頃、私はこれをおもちゃ代わりにしては母に叱られた。
あのワイヤー部分が竪琴にしか見えなくて、指先で弾いて遊ぶのだ。
音楽を脳内再生することも忘れない。

「わたしは吟遊詩人、あなたのために歌います。ポロロン♪」

一人っ子なので、一人遊びは得意。
空想にふけることもしょっちゅうだった。



そんな子ども時代を懐かしく思い出しながら買ったゆで卵切り器、結局2、3回使ってお蔵入りとなった。

そもそもゆで卵を作らない。
私以外の家族がそれほど好きではなかったので、自分だけのために作るのは面倒だったのだ。



あれから10年。
半年ほど前から週1で活躍の場を与えられるようになった。
ゆで卵のせトーストにハマったのだ。
食パン・せん切りキャベツ・ゆで卵・マヨネーズ(たまにチーズやトマト)。
たったこれだけであの素晴らしく美味しい食べ物になる、奇跡のコラボ。
以来、日曜日の朝食になった。
家族の誰も食べなくても、自分だけは食べる。
不思議と作るのが面倒でもない。

これにコーヒーとフルーツを添え、BGMに爽やか調のジャズかボサノバを流す。

アラマア、ナントオシャレナンデショウ。
自己満足度アップである。



今も時々ワイヤーを弾く。
ポロロン♪ わたしは……
心の中であのセリフを呟きながら。

絵がちょっと(いや、かなり)アレですが  ゆで卵切り器  こんな感じ






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