Dad Body

1 平素、某少年漫画の主人公のように「見た目は大人、中身は子供」とうそぶいてはいるが、40の坂を過ぎると、肉体の変化というモノに否が応でも向き合わざるを得ない。
 朝起きたら古流を稽古していた時からの習慣で、身体作りと呼吸法(「肥田式」らしいが、本当かどうかは分からない)を行い、平均して週に5日ほど柔術の道場に通っている。それでも、今年になって「最近大きくなりましたねぇ・・・」と婉曲に言う人が増えてきた。
 私の場合、酒は(週に1度のワインを除いては)ほとんど飲まないし、間食もしない。ただ、とにかく「ご飯」(=白米)をよく食べる。古流を稽古していた20代後半から30代の頃も今と変わらない量を食べていたと思うが、昼も夜も「ご飯」を茶碗で2杯は当たり前のように毎食食べている。さすがに健康に気を使って、30代後半から夜「ご飯」を3杯食べないよう自制しているのだが、それでも稽古をすれば腹は減る。
 今の所、持病を除いては大きな病気の兆候は見られないので、「ご飯」くらい好きに食べさせてくれよ!と思っていたのだが、周りの人々から「太った、太った」と言われて、久しぶりに体重計に乗ってみると、これまでの人生で一番大きな数字が表示されていた。

2 私の柔術は、クリンチからテイクダウンしてパスを狙うか、下になったらディフェンスからエスケープして少しずつ良いポジションに戻すスタイルなので、これまで筋トレをする必要性を感じたことがない。スクランブルになりそうな時は、自分からさっさと下になってフレームを作るようにしている。
 柔術をする上で筋トレを必要としていない事に加えて、私の体付きも少し特徴的で、身長は日本人の平均レベルなのに、肩の幅と厚みが結構ある。大学時代に就職活動をした時に(当時は、武術を全くやっていなかった)、SHIPSでスーツを買おうとしたら、「お客様は、身長がMなのに対して、肩幅がLで、ウエストがSしかないから、既製服は難しいです」と言われたのを今でもハッキリ覚えている(現在のウエストはMLだが)。
 そういう次第で、筋トレすればますます上半身に厚みが出て、既製服がLでも着られなくなったら困る等と考えて今日まで筋トレをしなかったのである。もし身長がMの私がXLの服を着れば、間違いなく着丈や袖丈が長すぎて、つんつるてんになってしまうだろう。

 この点、容姿についても自己責任で、特に「太っている」事を怠惰と見なすアメリカ社会の考え方については、私は賛同できない。
 世の中には、生まれつき「太りやすい」人もいれば、いくら食べても太らない「太りにくい」人もいる。「太りやすい」人というのは、同時に筋肉が付きやすい人である事も多いので、「太りやすい」事が一概に悪いことだとは思えないし、痩せたくても痩せられない人もいるのだから、「太っている」という外見的な特徴を人格的評価に結びつける事には、「人は努力次第で誰でも肉体をコントロール出来る」という非現実的な前提を受け入れない限り、論理的に考えても無理がある。
 だから私は、「人は見た目が9割」という発想はしない。というか、この「人は〇〇が9割」というタイトルの本の広告が定期的に新聞に出るが、1割の逃げ道ないし例外を設けている時点で、これらのタイトル本は全て似非科学だと思っている。

3 


 だが、この記事を読んで少し考えさせられた。

 トム・デブラスは、アメリカでコロナ・パンデミックが起きて、多くのBJJジムが閉鎖された時に、彼がBJJfanaticsから出している教則を一本無料で入手出来るクーポンを配ってくれたので、その際に手に入れた「Half Domination」を見て以来の付き合い(勿論、私的な面識はない)になるが、彼の教則は必ず「最後までこの教則を見てくれてありがとう!もし教則を見て分からないことや聞きたいことがあれば、いつでもBJJfanaticsか私のFACEBOOKに質問をして欲しい。なるべく早く、それに対する私の回答をしよう」というコメントで締められる。
 ほぼ全てのBJJ教則は、一度作ったらそれきりで、内容的に問題があっても、撮り直しをしたりはしないのだが、彼の教則をいくつか見ている内に「トムおじさんは誠実でイイ奴だ」とすっかり彼の人柄が好きになってしまった。

 さて、今やインストラクターとして世界的にも有名になったトムおじさんであるが、「有言実行」を地で行くように、彼は競技者だった頃よりも今の方が身体は絞れている。


 彼はグッドシェイプな身体を維持するために、日々努力をしている。それに対して、私は彼より年上であるにも関わらず、自分の体型を維持するために何の努力もしていない。他者を「太っている」か否かで判断することがいかに愚かしかろうとも、それを自分が「Dad Body」化する事の言い訳に使っても良い事にはならないだろう。
 
 衣替えの季節になって、つい先日押し入れから愛用の「桃太郎ジーンズ」を出して履いてみようとしたが、ボタンが締まらない。お金があれば、現状に合わせて1インチ上を購入すれば良いのだが、昨今の値上げラッシュで「桃太郎ジーンズ」もかなり値上がりしているから、私にはとても買い替える金銭的余裕がない。
 いい年して、グッドシェイプな身体を自慢するのは、他者(特に異性)受けを狙った自己顕示欲の表れだと若い頃は馬鹿にしていたが、現実問題として40を過ぎて身体が変化し、「Dad Body」化に合わせて服を買い替え続けていれば、お金や収納スペースがいくらあっても足りない事に今更ながら気付かされたのである。
 「桃太郎ジーンズ」を買い替えなくて済むように、今朝から私も「腕立て伏せ」を始めたのである。果たしてこれがいつまで続くだろうか?
 

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藤田 正和
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