文学フリマで初めて推しと対面した話
文学フリマというイベントがある。公式サイトの説明をそのまま持ってくるが
>作り手が「自らが〈文学〉と信じるもの」を自らの手で作品を販売する、文学作品展示即売会
である。小説や短歌、詩やエッセイ等の色々な文学が集まるイベントだ。私が行ったのは今回で2度目だがかなり盛況で、そこそこ広く作られている(と思う)通路が人でいっぱいでなかなか通れないくらいだった。
私の現在の推しである、QuizKnockの志賀玲太さんはディレクターの仕事をしていて時たま動画に出るくらいなのでメインで表に出ている人ではないから、普段からQK動画を見ている人でないとピンと来ないかもしれない。が、本当に魅力的な人だと思う。物腰の柔らかさであるとかいつもニコニコしているところとか、その割にツッコミはなかなか鋭かったりするとか、声がいいとか顔がどんどん美人になっていくとか好きなところは色々あるのだが、私が一番好きなのはその文章力だ。ツイッター(と言い張る。現𝕏)であるとかnoteであるとかで綴られる文章がなんとも心地良くて好きなのである。リズムもそうだし単語のチョイスも好きだ。私の中で、文章が好みの人は絶対に外さないという確証があるので(文章ってその人が如実に出るから)、安心して推していられる人である。
さて、そんな志賀さんは短歌も詠んでおり、文学フリマで短歌の本を出すという。そんなの買わない選択肢などないではないか。しかも当日はご本人が直参するという。QuizKnockでは基本的にファンレター等は受け付けていないので、これは手紙を書いて渡すチャンス、と思った。そこで志賀さんが好きなサンリオのシナモロール便箋を購入し、便箋5枚にびっしりと愛と感謝を書き込んだ。志賀さんはチーズが好きで子供の頃誕生日に何が欲しいか訊かれてチーズと答えたというエピソードを聞いてチーズを使ったお菓子も差し入れに用意した。
のだが、結果から言えばその時は会えなかった。志賀さんが直前で体調不良となり出られなくなってしまったのだ。
とはいえ入場チケットも購入していたし、売り子さんが来て既刊は売るというので当日は本を購入し差し入れと手紙を預けてきた。それが5月のこと。
そしてそれからしばらくして、次の文フリ(9月)に志賀さんが出るとアナウンスしてきた。前回は行けなかったが次は直参するという。今度こそ会える!、と私は指折り数えてその日を待った。
文フリ1週間前辺りから前日までは今までにないくらい感情が乱高下していた。いよいよ会える、いやでもまた急に体調不良とかあるかもしれない、なんなら私も急にコロナとかなったら行けない、無事行けて会えたとしてめちゃめちゃ冷たくあしらわれたらどうしよう、いやそんな人じゃないか、いやでも、とか本当に気持ちが忙しかった。自分でも面白いくらいに躁鬱になっていた。なにしろ接触イベント(ではないが)なんて10年以上ぶりくらいだったので。
少し話はずれるが、私は接触イベントというものにそこまで興味はない。推しに認知してもらいたいとも思わない。認知されたくないというよりは、認知されて悪印象を持たれるくらいなら知らない人でありたい、という感じ。知らない人なら好きも嫌いもないけれど、知っていたら何らかの感情がセットでつくわけで、それが好印象とは限らない以上、だったら知らなくていいと思っている。
とはいえ、生で見られるなら見たい。声が聞けるなら聞きたい。それに新刊が出るなら買わない選択肢はない。ということで行くことにしたのだが、嫌われたらどうしよう、いやでもさすがに本買って差し入れ渡す1分程度で嫌われることはなくないか、いやでもすごい冷たくあしらわれたら気持ち折れるし、けどそんな人じゃないでしょ、いやでも……(以下エンドレス)。
ということが1週間くらい続いての前日。どうなったかといえば、感情が完全に無となっていた。凪、と言い換えてもいいかもしれない。感情の乱高下に疲れ果て、もう行かなくてもいいんじゃないかという本末転倒な気持ちにまでなっていた。完全なイベントブルーである。
とはいえ手紙も差し入れも用意したし、何より新刊は欲しいし代わりに買ってきてとか頼める相手もいない。何より行かなかったら絶対後悔することは分かっていたので当日会場へと向かった。その時も凪だったのだが、入場列に並んでいたらさすがに緊張してきた。
会場へ入り志賀さんのブースを目指す。あの辺だよなーなんか人だかりのあるとこ、と思って向かったら列が出来ていた。12時開場で12時10分くらい。ブースの後ろには貰った差し入れとおぼしき紙袋が幾つも置いてあった。皆早いなガチ勢だな!、と思ったし、志賀さんがそれだけ人気なことが純粋に嬉しかった。
さて。実際はそんな冷静でも何でもなかった。当然ながら。
なにせブースの中には志賀さんがいるのである。わーわーわーわーわー本物だー!!!!!
志賀さんは動画で見せるそのままに、ずっとニコニコしていた。「いますよー実在してますよー」なんて冗談も言っていて、そんな冗談言うのかー……そりゃ言うか、と妙に納得したりもした。自らもオタクでオタクの気持ちが分かる志賀さんである。
徐々に私の順番が近付く。お釣りが出ないように新刊代を用意しながら頭の中でシミュレーションを続けた。私はとにかくアドリブが苦手なのでひたすら頭の中でシミュレーションをした。そうしないと「ア……ワァ……」とか完全にちいかわ状態となってしまう。ちいかわのああいう態度が可愛いとなるのはちいかわが小さくて可愛いからであって、大きくて可愛くない私がやったらただの不審者である。それだけは絶対に避けねばならないし、列が出来ている中で迷惑をかけるのも嫌だ。とにかくスムーズに、と私は自分に言い聞かせた。
そしていよいよ私の番となった。わーわーわーわーわー志賀さんだーニコニコしてるーめっちゃ可愛いー(男性にこう言うのは失礼かもしれないけれど私的には最上級の褒め言葉ということでひとつ)。
新刊を購入しお金を渡す。差し入れと手紙も渡す。「ありがとうございます」とニコニコしながら言ってくれる志賀さん。はー可愛い可愛い可愛い可愛い。
そして私は帰り際に言った。
「TOMOEリーグ応援してます」
(TOMOEリーグとは、フォロワークラブ「QuizKnock schole(クイズノック スコレー)」でのコンテンツのひとつ。3人1組でチームを組み、リーグ戦でクイズを戦う。志賀さんはまだ未勝利)
私がそう言うと、それまでもニコニコしていた志賀さんの表情がパッと明るくなった。
そしてはっきりと私にこう言った。
「次は勝ちます」
それから1週間くらいはずーっとその余韻に浸っていた。志賀さんの「次は勝ちます」という力強い言葉が思い返される度にジンと来て、可愛い可愛いーって思ってたけどめちゃめちゃカッコ良かったー、とか思っているうちにあっという間に1週間が過ぎていた。自分でもびっくりした。え? もう1週間経ったの⁉⁉⁉⁉⁉、となったくらいである。いつもなら、まだ火曜日かー水曜日かー週末が遠いーとか思いながら仕事をしているというのに。たかだか1分にも満たない接触で1週間持つとは思わなかった。
と同時に、これが推しの力なんだよなとも思った。その存在がこちらの生活に彩りをくれるし、日々生きる糧になるのだなとも改めて思った。推しなんて作ろうと思って作れるものではないから、推しのいる生活は本当にありがたいことだなとしみじみ思う。
なので志賀さんは、いや志賀さんだけでなく全ての推しとなる人達は、元気で心身共に健康で精力的に活動して欲しい。それがきっと誰かの人生を救うから。