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煩悩を知らしめるよに伽藍をば漂う香り和牛ステーキ

 二月ほど前、たまたま十年に一度だけというお札を某寺院で配っているという話を知り、面白がって(←罰あたりめ)行ってまいりました。
 正直、面倒くさがりで、人混み嫌い、列嫌いなので、見て見たいと思うだけでずっと止まっておりました。が。日々のマンネリのせいなのか、ある日、不意にいつもの自分と違うことがしたくなって、お札を頂戴せんと大行列するという、その俗っぽさを体験してみよっかな(←重ねて罰あたりめ)と出掛けましてございます。

 結果。見事に俗世界でございました。いや、自分的に良い意味で。
 平日だというのに大行列。途中で抜けようかとちらっと考えたが、抜けられず。常連らしい爺さん……もとい、人生大ベテランのお兄様・・・が「動き出すと早い」と話しているのがちらっと聞こえたが、本当に動き出したら、どえらい早かった。あれよあれよという間に訳も分からず人波に運ばれ、揉まれ、撹拌され、気が付いたらぺらっと薄いお札を持って、ご本堂の外にぺっと吐き出されていた。
  列が動き始めてから少しして、動きが鈍化したときがあったのですが、それに大ベテランお兄様が痺れを切らして「早くしろよ!」と絶叫。が。その直後、今度は(昔は)お兄様、列整理の係員の人に「ご苦労様。大変だね」と優しいねぎらいのお言葉。その様子を見聞きしていて
  ――うーん。。。まさに聖卑、善悪、併せ持つのが人よの
と非常にわかりやすく悟らせて頂きました。(昔は)お兄様に合掌。

 こんなすったもんだ以上に、この聖なる伽藍にて、驚愕したのが、門の中に並ぶ出店。門の外には門前町が形成されているだろうなとは予想してましたし、実際、お土産屋が並んでいてその通りだったんですが、寺院の中には、初詣なんかに神社の境内に並んでいるような、お祭り気分な出店がずらり。それが饅頭とか綿飴、お数珠などを売ってるというのなら、まだ分からなくもないのですが、たこ焼き、お好み焼き、煮込み、そして、トドメの和牛ステーキ
 最初、殺生の(おいしそうな)匂いが漂ってきたときは、気のせいか、あるいは
  ――空きっ腹のよる幻(臭)覚か? まさか己の内から湧いて出る煩悩臭ではあるまいな? 
 とすら思ったのですが、気のせいではなかった。においの出所を探って、我が臭覚が辿り着いたのは、もつ煮の出店。
(えっ? もつ煮って哺乳類の内臓だよね?)
 そんなものが寺院の中にあっていいのか? びっくりして辺りを見渡すと、(禁断の殺生)グルメ出店がずらーり。。。和牛ステーキの出店まであった! しかも、ご本堂の一番近くに鎮座。
  ――マジかよー!!
 心の中で大絶叫しましたよ。当然です。
 もはや「ご精進」という言葉の意味がわからなくなってきましたが、しばらくして、ふっと思いました。
  ――これはもしや、訪れる大衆俗人どもを試してるのか?
 ここでマーラーのごとき蠱惑的じゅるりな香りに誑かされて、和牛シテーキにかぶりついたら畜生道落ちとか?
 いや、出店で生計立てている人のことを思えば、欲に従って銭を落とすのが
  ――徳を積むとか、仏の道ということなのか?
 まてよ。銭を落とすということが
  ――転じて、厄落とし
 ……なんて、どんどんと煩悩が「じゅるり」の言い訳に詭弁を繰り出してきて、ますます訳が分からなくなりました。

〈余談〉
 大きなお寺さんなので、youがいるかと思いきや、いなかった。少なくとも私は見なかった。昨今は、こんなところにおらんやという山奥にも、you観光客が必ずいるというのに、やっぱり、長時間じっと並ぶってのは、日本人固有の特技なんやろか。
 して、行列を構成する年齢層は、ご想像のとおり、ほぼ中高年。8、9割がアラカン以上で残りが中年って感じ。あ。休憩所みたいなところで茶を啜っていた10~20代と思しき若い人もいたけど、大体が親や爺婆連れ。

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