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待草雪
2022年1月30日 09:00
絶滅危惧種の亜人、Sランク『超希少種』獣犬族(じゅうけんぞく)のヒュウラは、『世界生物保護連合』3班・亜人課の新人保護官ミト・ラグナルによって保護された。本来は人間が作った一生人間に保護される特別施設に送られる予定だったが、とある1人の人間が組織の最高幹部者達と行った交渉により、組織の亜人課現場担当部隊の手伝いで成果を出す事を条件に、期限付きだが亜人課現場部隊支部で自由に過ごせる特別猶予を貰って
2022年1月25日 08:39
114 この世の物質には一定の条件を課すと必ずそうなる法則がある。人間はこの数多くの自然の法則を見出し、物質が起こす現象を研究し、応用し、人間の文明の新たな礎にする。人間はこれらを総じて『科学』と称している。 水は水素と酸素の元素が結合した『密集』体である。金属は純物質では自然界に存在しないが、意図的に他物質を混ぜ込まない限りは、人間は同一元素の『密集』として精錬し、物として作り出す。 火
2022年1月20日 19:22
112 空中に作られる爆弾は、空中に作られる電磁砲になった。小さな白い手が放つ指弾きが銃の引き金のように、電撃の球から矢を撃ち出して飛ばしてくる。その電磁砲も”魔法”だった。充電の必要は全く無く化学技術も設備も一切必要無く、指で宙を叩いて指で宙を弾けば、電撃の矢が宙に生まれて駆けていく。 創作御伽話に登場する魔術者達も皆が消魂するだろう、魔力も詠唱も特別な道具も才能も修行も全部要らない”全て
2022年1月17日 19:46
108 ヒュウラは俊足で通路を駆けた。空気を爆発させる鼠の亜人の威嚇を手掛かりにして、鼠を探す。追われているが、追いもしていた。足の速さを含む運動神経は、己の方が遥かに優っている。 右手で掴んだ瓶の中の酒が振られて揺れた。左手が腰に巻いた赤い布からずり落ちそうになっている、柄だけになった巨斧を掴んで支える。ライダースーツのような黒い服のズボンに柄の尻を押し込んで無理矢理支えを増やすと、ポケッ
2022年1月15日 12:51
105 支部から突然、狼の遠吠えのような声が響いた。 支部の外に居るミト・ラグナルが通信機を耳から離した。驚愕しながら建物を見る。吠え声は何かに怒っているように聴こえた。ローグが出したものではないと直感で想った。 支部の中に居るリングも、吠え声を聞いて驚いた。身を飛び上がらせると、直ぐに目をキラキラ輝かせて、鳴き声混じりに呟いた。「ニャー。ヒュウラ、吠えた。ヒュウラ、吠えられるのニャね。
2022年1月13日 22:26
101 ローグの子供は超希少種亜人用の座布団に座っていた。お行儀良く正座をして、程良く柔らかい敷き物の心地良さに、黒い大きな獣耳を振りながら上機嫌になる。 集会場は崩壊間際の状態だった。『原子』が作った爆弾で、壇も白幕もプロジェクターも、全てが砕けて焼け焦げて徹底的に破壊されていた。 唯一無傷で残されている青いビニールシートに乗った座布団の上で寝転がると、ローグは着ている黒いダボダボの服の
2022年1月12日 00:01
98 十数分歩いただけで、ミト・ラグナルの自室に問題無く辿り着いた。ローグが先程まで滞在して内部を物色していたらしく、散乱しているスナック菓子のチーズ味だけが食い散らかされている。 ローグの歯と味覚に合わずに放り捨てられていた海苔付きの醤油煎餅を、歯と舌に絶妙に合って好物となっているヒュウラは拾い集めて腰のポケットに3枚収めた。1枚を口に入れて齧り食うと、菓子袋の下敷きになっていたテレビのリ
2022年1月10日 16:10
悪い事をしたら罰が下る。恐ろしいモノに、恨まれて。96 ローグの子供は前方を凝視した。夜闇のように暗い人間の建物の通路に充満する、煙の中に影を見つけた。 小柄な大人の影が2つ、背の高い影が1つの合わせて3つ。横に繋がって、彼方へと動いていく。 子供は歯を見せて笑った。大きな獣のような黒い耳を上下に振る。赤い目が深紅に、水色に、黄色に、黄緑に、灰色になって、深紅に光った。 数字で1を示
2022年1月9日 15:57
95 ミト・ラグナルとリングは、支部から少し離れた丘の上まで避難していた。周囲に支部から逃げてきた他の保護官達が固まって立っている。 皆が崖の下に見える支部を心配そうに眺めている。建物の一部が爆発した。窓が割れて炎と黒煙が噴き出る。 ミトは目を見開きながら、たった1体の亜人に破壊されていく己の職場を凝視していた。隣で身を伏せて同じものを見ているリングは、一声鳴いてから呑気に呟く。「ニャー
2022年1月8日 10:00
93「ヒュウラ、駄目よね。それだけは絶対に駄目。だけど……だけど」 支部の自室に居るミト・ラグナル保護官は、額に巻いているパイロット用のゴーグルを外す。ゴーグルの下に巻いていた青いバンダナも外すと、カーキ色の迷彩服の上に着ていた鎧も脱いだ。サブマシンガンを壁に立て掛けているヒュウラの巨斧の横に置くと、リモコンを掴んでテレビを消す。 スナック菓子の袋が其処彼処に散らばっている汚れた部屋の中央
2022年1月6日 09:37
89 デルタの指示に保護官達は喜んで従った。爆発音が連続で聞こえてくると、高層の建物達が大きく崩れ出した。 保護官達はローグ以外の生き物の保護を開始する。瓦礫の中に身を埋めている父娘を引っ張り出す。噴水の水の中に沈んでは浮かんで息継ぎを繰り返していた少年を引っ張り出す。目の前にいる巨大なドブ鼠に震えながらゴミ箱の中に入っていた女性を引っ張り出す。 ゴミ箱に居た巨大なドブ鼠も、抵抗しないよう
2022年1月4日 13:29
87 南西大陸の端にある人間だけの楽園は、人間だけの地獄と化していた。人間によって自由を奪われた木々の前で、四肢が吹き飛んだ死体が崩壊した建物に潰されて燃えながらアスファルトの地面に転がっている。 赤ん坊から年寄りまで、あらゆる世代の人間だった肉塊が黒煙と一緒に不快な臭いを周囲に漂せている。死体、死体、死体、死体ばかりに埋め尽くされた惨たらしい地の遥か上にある、オフィスビルの非常階段の一角に
2022年1月3日 10:35
84 デルタ・コルクラートは、執務室の椅子に座ったまま物思いに耽ていた。重厚な木の机の上にノート型パソコンを起動させた状態で置いている。 同じく卓上に置いていた通信機が激しく震え出すと、デルタは機械を耳に当てて応答した。機械を肩と耳で挟みながら、パソコンを操作して通信画面を表示させる。カメラを起動すると、液晶画面に女性が写った。四角形の枠の中に上半身を収めた女はデルタと瓜二つの顔をしており、
2022年1月2日 02:02
自分がこの世界に生きる理由を形作っている結晶は、自分自身では無い。81 南西大陸の端に位置する、とある国の、とある都市は、人間、人間、人間ばかりが犇き合って暮らしていた。虫1匹飛んでいない高度な衛生管理が施された人間だけの楽園に植えられた街路樹達は、実が付かない様に殆どの枝が切り取られている。 早朝の通勤ラッシュで、人間を運ぶ様々な乗り物はどれも人間達で鮨詰めになっていた。地下を掘ってコ