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こどものこころ ある不登校の子

一昨年小4の時から不登校になった少年Hはいまだに学校に行ったり行かなかったり。
私のレッスンにはほぼ普通に来るけれど、発表会で全員がやる紙芝居ヘンゼルとグレーテルは「やりたくない」というので、個人発表だけ得意分野の「水の生き物」の紹介をやろうと、じわじわ促したらば、とりあえずスケッチブックに川の魚の絵を描いてきました。 出るか出ないか?聴くと面倒なことになるので、当然出るという方向で、Hの描いてきた魚の英語名を調べて、本人に教えて、発音の録音をお母さんに送信。そこまでやってあげたらあとは練習してもらうしかありません。

紙芝居の全クラス合同練習の日は1回は来たけれど、リハーサル室の入り口にある下駄箱に座り込んで動かなくなり、そのまま1時間半座ったままでした。

Hのレッスンクラスは男子3人が大の仲良しで、特に学校でも同じクラスの親友は全面的にHをバックアップしてくれているので、Hとしても楽しくやってくる。しかし紙芝居をやらないとなると練習も見ているだけではつまらなかろう、と思うけれど、何せ本番に来るかどうかもわからないのに役割分担もできない。なにか彼が納得してできそうなことはないものか?頭をひねり、紙芝居セットを立てかけるホワイトボード の後ろに座らせて、倒れそうになった時に支える係を頼みました。

「いい。このボードが倒れるってことはまず無いんだけど、ホールの人は何よりもピアノが大事なの。だからピアノが傷つくようなことは絶対起こらないようにしないといけないから、君がここに座ってくれていれば大丈夫って言えるでしょ?だからやってくれる?」

Hは嬉しそうにもしなかったけれど、友達が最後の練習をしている時に教室のホワイトボード の後ろに言われた通り?座り込んでいました。

さて、発表会当日。リハーサルの集合時間にHのお母さんがやってきました
「発表やらないそうです」
え?だめだった?全部読み方教えたけど
「そうなんですけど、結局練習しなくて、できないからやらないって、、、」
そうか、、でここには来てるの?
「それが、紙芝居でホワイトボード の後ろに僕がいないと、もし何かあってピアノが傷ついたらもうホールを貸してもらえなくなるかもしれないんだ。って熱く語られたので連れてきました」

私は「ホールを使わせてもらえなくなる」とまでは言ってないんだけど、その言いようには彼の会場には来たいという気持ちが見えました。
幼稚園の時から出てきた発表会、親友もお姉ちゃんも出る、きっと他にも理由はあって留守番にはなりたくなかったのだと思います。

リハーサル開始したものの現場に来てHは急にホワイトボード番もできないと言い出し客席に貼りついたまま。
後ろにいてくれないと困るのよ!
と呼んでももう動かない。そこで親友男子チームは一緒に呼びに行ってくれました。
それでもダメ
男子チームもよくわかっているらしく無理強いしないで、冗談を言いながら戻ってきました。

結局出なかったH
ところが、終演後の記念撮影になったらホイホイ舞台に上がってきました。
そして集合写真にも笑顔でおさまりました。

ちゃっかり病?とも思えますが、その実拒絶するときの表情は能面のように固まってしまうし、地面や壁に貼りついたらそのまま。ここまでになるとやはり病気と言えます。


前の投稿にアップした場面緘黙の子がこのHのアンケート欄に
「出られなくて悔しかったね」
と書いた一言。私は気づかなかった。出ないのは、ただ出たくないだけなのかと思っていましたが、この子たちは本当は「普通」にやりたいと思っている。
でも、心の何かが体のどこかにストッパーをかけてしまうから自分の力では動かせないのかもしれない。
だから  悔しい

Hが会場まで来たのも、もしかしたら「やれるモード」になるかもしれないと思って、モードが切り替わってくれるのを待っていたのかもしれません。

ところが、後日分かったことにHは本番に出ていたのです
発表会後のレッスンで、教室に写真を掲示しておいたところ、男子チームのメンバーが
「H 出てたよ、本番、ホワイトボードの後ろにいたよ!ほら」
と、写真を指差しました。
よく見ると、紙芝居のボードのしたにやせっぽちの足が見えます!
これHの足か!
本番は一度に20人の生徒が舞台上に上がるので、慌ただしく私はすっかり見落としていました。
なるほど堂々と集合写真にはあるはずだわ!

生徒はたった20人の小さな発表会
でも、そこには子供たちのさまざまな姿がありました。
他の子達は「来年はあれやるんだー」と言うほど今はモチベーション上がってます。
さあ、来年彼らは何を見せてくれるのか?
それぞれの前進を楽しみに!

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