伸びる子
その子が入ってきたのは4歳の時だった。
それも本人がどうしてもピアノを習いたいという強い意志でお母さんが連れて来た。そんなに小さいとたいがいは親の方が習わせたくて連れてくることが多いのに、その子の場合は子供にせがまれて連れてきた珍しい例だった。
ピアノをやりたい理由は、自分の好きな歌を弾きたいから。
はやく弾けるようになりたくて、楽譜の読み方を教えると、すぐに、毎日ピアノの前に座って足を組み、膝の上に歌集を置いて左手で歌集を抑え、右手で旋律の練習をしていた。まだ譜面台に楽譜を乗せると小さくて見えないからだ。
そうやって自分で絶対音感をつけてしまった。
うちの教室は英語と音楽を教えているので、発表会は両方発表する。
初めての英語の発表会ではカントリーロードを原語で歌い、次の年には
それを自分で弾き語りすると言って、お見事にやってのけた。
お仕事をしているお母さんは、毎日子供の練習を見ていられないので、仕事から帰ってくるといつも「ピアノ練習したの?」と聞いていたら、ついに自分でピアノの横にビデオカメラをセッティングして30分間の練習を録画
お母さんはその日から仕事から帰ってくると30分の練習を見せられることになった。
小さい頃は泣くこともよくあったけれど
理由は二つ
やれると思ったことができなかったとき
やらせて欲しかったのにやらせてもらえなかった時
小学校高学年頃だったろうか
モーツァルトのトルコマーチが弾きたいと言い出したけど、左手はまだギリギリオクターブ指が届かなかった。成長期だからあと半年もすれば届きそうだね、と言ったら
「じゃあ半年間右手から練習を始める、それから左手をやる」
と自分で計画を立て、結局弾けるようにしてしまった。
高校受験は半年前までB判定だった第一志望校に結局合格してみせた。
初めて受けた英検はすれすれ1点で合格した。
やる!といったことをぜったいやる!
この子のすごいところは、成長するにつれ思い通りにならなくても感情的にならず、自分なりの突破口を模索してギリギリまで諦めない
この子の思い出を書いているだけで、私は励まされている。
タイトルの写真はこの子が小さい時膝に乗せていた歌集 もうぼろぼろだった