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出さないポストカード
気になっていた「野田ともうします。」が再放送していた。
2010年~2013年にかけて、NHKワンセグやEテレで放送していた5分間のショートコメディである。江口のりこさん演じる地味な大学生、野田さんの愉怪な日常を描いている。
シーズン1からシーズン3まで、5分×全60話が淡々と再放送。北京オリンピックの中継やハイライトが終わった、真夜中に。
10年前だというのに、江口さんが変わらなさすぎてちょっと笑った。
シーズン3の第11話「奪われたレーゾンデートル」が特に好きである。
起き上がりこぼしを冷蔵庫の卵入れに入れて固定する、両面テープの片面使い、冷蔵便でせんべいと洗剤を送るといった具合に、モノの存在価値(レーゾンデートル)を奪う野田母と、それに困惑する野田さんの回。
わたしもなにかのレーゾンデートルを奪っていないだろうか。
基本的に、モノは用法用量を守りながら使っているつもりだけど――と部屋を見渡す。
あ、
あった。
ポストカード。
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やわらかな線とグラデーションがきれい
出せない、ポストカード。
こう書くと、着てはもらえぬセーターを寒さこらえて編んでます的な、センチメンタルでリグレットでスイートでビターな感じになってしまう。
ちょっとちがう。
出さない、ポストカード。
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これは、単に送る相手が限られる
気に入って手放すのが惜しくなり、絵葉書ならぬ観葉書と化したパターン。
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鳥獣戯画とはまた違うゆるさでかわいい
本来、伝えたいことを書いて、ポストに投函して、誰かに届けられるために存在するポストカード、のレーゾンデートルを奪っていた。
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オレンジがものすごくおいしそう
しろやぎさんは手紙を読まずに食べるが、わたしは書きもせず、飾りもせずにしまっておき、たまに眺めてニヤニヤする。
賞与が振り込まれた直後の入出金明細のごとく。
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こんなかわいい絵柄、手放せない
子供のころは、よく手紙を書いていた。
転校したり、学区外の学校に進んだりと、物理的に距離があいた友人と連絡をとるには、当時は手紙しか方法がなかったからだ。
手紙の場合、自分が書いたものはコピーでもとらない限り手もとに残らないし、おたがいに返事が1か月以上あくことも普通だった。
届いたかどうかも、読んだかどうかもわからない。
しばらく経って届いた相手の返事に、多少「んん?」という部分があっても、そもそも自分が何を書いたか詳細に覚えていないし、タイムラグと手書きのあたたかみの魔法でポジティブに解釈できた。
いまやメールすらほとんど使わず、LINEやSNSのコメント欄でこと足りている。自分が送った内容も確認できて、手軽で、リアルタイムでやりとりできるから、コミュニケーションは正確で密になっている、はず。
しかし文章の量が少なく、往復スピードが速いから、それぞれの思惑を少ない文字数の中から瞬時に判断する必要がある。だから行きちがいも起きるし、ちょっと疲れてしまうこともあるんだろうなあと思う。
コミュニケーションを便利にするためのツールが、コミュニケーション自体のレーゾンデートルを奪うこともあるのかもしれない。
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やっぱり手放せない
ところで、出さないポストカードの場合、「小さなギャラリー」というあらたなレーゾンデートルを与えているので、罪悪感は抱かなくてよいと思っている。
「野田ともうします。」は、放送時間が遅いから全部録画していたのだが、1話5分でさっくり終わるのと、クセ強めの内容にひきこまれ、結局全部リアルタイムで見た。
奪われし、レコーダーのレーゾンデートル。