ホタルのルミネセンス
夏の風物詩、《読書感想文》と《自由研究》が不得手だ。
読書感想文を「課題」としてあたえられることで、
・作者の意図をくみたまえ
・何を学んだか述べたまえ
・自分がどう変わったか書きたまえ
と、無言の圧をかけられている気がした。
自由研究もしかり。
「自由」と言われると、途端に何をしたらいいか分からなくなる。
・自由といえど常識の範囲内で
・とはいえ型にはまらぬ柔軟な発想を
・それなりに準備期間もあるのだから大作を
と、自由の概念と着眼点の鋭さを試されているような気がしていた。
自由研究を通していちばん学んだのは、皮肉にも枠のありがたみである。
《読書感想文》や《自由研究》の意義は、知見を深めるほかに、本の内容やひとつのテーマを煮詰め、真髄を抽出し、自分の考えの純度を高めることではないかと考えている。
それなら《読書感想文》と《自由研究》のツーインワンな内容を出せば一挙両得だったな、といまさらながら思った。
サボりじゃない、合理性を求めているんだ。
あと、読「書」でなくても、読・ウェブ感想文とか、読・裏面表示感想文とかがあったっていい。
ふさげてるんじゃない、角度を変えるんだ。
そのへんにあった氷砂糖をテーマに試してみる。
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ここに、ひとつの氷砂糖がある。
氷砂糖とのファーストコンタクトは、期限間近の乾パンの缶詰を開けたときだったと思う。
某ドロップのハッカ味のような出で立ちに、一瞬警戒した。
スースー系はいささか苦手だ。
節子、それドロップやない、氷砂糖や。
某ドロップから《火垂るの墓》を連想してしまったし、氷砂糖の知見は以上なので、いろいろなサイトの説明を読んでみた。
みがけば光るのではなくて、つぶせば光る。
ホタルよりはかない光だろうに、なんという反骨精神。
試してみたい気もするが、ペンチでつぶすにはもったいないし、破片が飛び散りそうだ。
歯でつぶしたら回り回って差し歯がキラリになりそうだから、遠慮しておく。
なにより《摩擦ルミネセンス》という、大人数のアイドルグループが歌いだしそうな初耳フレーズ。
ちょっと、わたしが発光ならぬ発狂しそうになった。
印加、という文字面をみて、インドカレーしか連想できないレベルの知識量だ。
要は、吸収したエネルギーを光として放つ現象で、蛍光灯やLEDもルミネセンスによる光だという。
高熱をともなわないことから、漢字だと《冷光》と表記されるらしい。
これもまた詩的な表現で、サブスクで流れてきそうだ。
ちなみに、ホタルの幻想的な光も、生物の酵素反応によるルミネセンスなのだとか。
奇しくも、蛍光灯もホタルもだんだんと数が減っている。
蛍の冷光。
推理小説のタイトルにありそうだ。
ホタルのルミネセンス。
節子、それ風情がない、もはやルー語や。
あれ、氷砂糖どこ行った。
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これを夏休みの宿題として提出していたら、あたりまえに怒られて再提出を強いられた世代なので、やらなくてよかったと思う。
考え方の純度を高めるどころか、混じりっ気たっぷりの内容になってしまった感が否めない。氷砂糖はいつの間にか、ホタルにすり替わった。
そして、数日後には摩擦ルミネセンスをルミネエストと言っていそうな気がする。
節子、それ現象やない、駅ビルや。
氷砂糖はおいしくいただいた。
スッキリとした大人の甘さだった。