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シーラカンスなお菓子

思うところあり、社会人になってまもないころの自分の日記(手書き)を引っ張り出した。

マシンガンのようにうちつけられた文字が綴るのは、仕事、仕事、仕事、信念、たまに文句。

今はどうか。

このnoteにはずむ指が打ちつけるのは、菓子、菓子、菓子、歌詞、たまに瑕疵。

先日、とある若い方がわたしの記事を引用して

「この人の文章めちゃくちゃ読みやすいし楽しいな。とても好き。印刷したものを本棚に入れたい」

ありがとうございます

と書いてくださった。

恐縮しながら読んでいたら、そのあとに

「それにしてもお菓子をたくさん食べている」

それにしてもォゥ

と続いていて、いかにも、と思った。

時を経て、菓子を食べる余裕も、味わう余裕も、それを楽しげに書き連ねる余裕がうまれたのか。

自分ではなにも変わっていないように感じていても、いつのまにか意識の水面は入れ替わっているらしい。

では、旅先で出会えたシーラカンスモナカのことも書き留めておこう。

仙台のパティスリー、カズノリイケダの別業態《メゾンシーラカンス》の看板商品。

2024年現在、入手するには本店で並ぶか、数量限定のオンラインで取り寄せするかしかない。

たまたまわたしが仙台を訪れたときに、駅の催事に出店していたのだ。

シーラカンスモナカ、と聞くと、ち、珍味!?と思ってしまうが、見た目はごくごくふつうのモナカ。

日持ちは購入から10日ほど

モナカの中に、あんこと、フランス産のイズニーバターが入っている。

メゾンシーラカンス、という店名には、時代を超えて古き良きお菓子を伝えていく、という意味合いが込められているという。

そのシンボルに選ばれたのが、何億年も前から姿を変えず、深い海の底で静かに生きている魚、シーラカンス。

なんでも、シェフパティシエの池田一紀さんのご実家は、明治時代からつづく老舗の和菓子屋なのだとか。

モナカの表面にロゴのように記されている文字は、その和菓子屋の店名「栄泉堂」である。

シーラカンスの生き様には及ばないが、日本人のDNAに長く深く刻み込まれ続けてきた和の味、モナカとあんこ。

それと、フランス産バターの出会い。

シーラカンスのすり身ではない

モナカは、ニチャアァとなることなく、ナイフできれいに切れた。断面が地層のようでうつくしい。

きっと、あんこのまったりした甘みと、乳製品のクリーミーさが混じり合うやさしい味だろう。

かじるやいなや、ちがった。

歯触りのよい薄いモナカを通過すると、塩味の強いバターの層がキリッと主張してくる。

そして、すっきりしたあんこの甘みがそれを包み込む。

バター部分が、深海に泳ぐシーラカンスのようにも見える。

あまじょっばい、というより、しょっぱあまい。

みたらしのような和の甘さ×和の塩味ではなく、和の甘さ×洋の塩味のなせる技。

予想だにしない展開と、はじめて出会う味わい。知っている味なのに、あたらしい。

魚なのにどこか魚じゃない、まさしく深海魚をみたときのような驚きと興味深さ。

これは、クセになる。

このときわたしが購入したのは、シーラカンスモナカ2個と、チョコレートのマカロン、そしてシーラカンスのタマゴのセット。

チョコレートマカロン

チョコレートで全面おおわれた、いかにも濃厚そうなマカロン。

白って200色あんねん、と脳内でアンミカさんがささやいてくるような、乳白色のグラデーション。

こちらはチョコレートにバターに生クリームと、ふんだんに洋の味。口いっぱいに、ぜいたくな味が広がる。

と思いきや、ほんのり花の香りというか、オリエンタルな風味が広がり、後味さわやか。

原材料をみたらジャスミンが使われていた。芸が細かい。

そして、モナカ以上に商品名からは察しがつかない、これ。

直径7~8㎝はあろうか

袋が不透明なので、より謎が深まる。
しかもまあまあ大きいし、かっちりしている。

シーラカンスは、お腹のなかで卵を孵す卵胎生だそうだ。
直径10㎝くらいあるというが、シーラカンス自体が幻のような存在だから、お目にはかかれない。

こちらも、まだ本店かオンラインでしか購入できないので、方向性はおなじだ。

袋からごろんと飛び出してきたそれは、シロップでコーティングされた、まんまるのパイ。

いったい何が生まれてくるのか。

えいやあとまっぷたつにしたら、こちらもあんことバターがくるんと詰まっていた。

十勝産あずきとバター、ゲランド塩、そして天面には黒ゴマ。

シロップでコーティングされた部分のパイはモリッと固めの食感で、かむと香ばしいざくざくのパイに。

こちらもバターに塩味が効いていて、しょっぱあまい。味覚のツボを気持ちよく刺激される。

周りがパイ生地なので、バターとの親和性が高く、洋の中にあんこの和がダイブしてきた、という感じ。

モナカよりは記憶の中にある味わいだけれど、やっぱり類を見ない。

食べごたえ抜群の大きさ

シーラカンスの名を冠し、生き様を宿したお菓子たちは、実にあたらしく、それでいて古き良き遺伝子を受け継いだ味であった。

このシーラカンスは、進化している。

ところで、わたしの意識の水面の変化は、進化なのだろうか。
それとも、潜在意識が深海から上がってきたのだろうか。

どちらでもいいけれど、それにしても、お菓子をたくさん食べている。

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