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それが近江屋洋菓子店

気になっていた店に、ようやく足を運ぶことができた。

情報誌のスイーツ特集に、たびたび名を連ねる有名洋菓子店。まもなく創業140年を迎える、老舗中の老舗だ。

ショートケーキといえば、大多数のひとが三角形を思い浮かべると思う。

一方、近江屋洋菓子店のショートケーキは、ホールケーキをそのまま小さくしたような円形。

雑誌でその愛らしい姿を目にしてから、いつかこのショートケーキを買いに行こう、と記憶の片隅にとどめ続けていた。

とはいえ自宅からは少々距離があり、会社帰りには間に合わない営業時間。

長らく二の足を踏んでいたが、先日とあるテレビ番組をみて「これは運命!行かねば!」と、思い立った。

《人生最高レストラン》は、「食」の話題からゲストの「人生」を深堀りする土曜深夜のトーク番組。
この日は、惹かれてやまぬ江口のりこさんがゲストだった。

江口さん「近江屋洋菓子店っていう、神田にあるお菓子屋さんなんですね。いい意味でふるくさい感じの洋菓子が並んでて、そこの珈琲ゼリーがすごくおいしいんです」
―― え、甘いもの好きなんですか?
江口さん「甘いもの大好きです(ニコッ)」
―― 意外!なんか甘いもの食べなさそう!
江口さん「めちゃめちゃ大好きです甘いもの(ニコニコ)」
――(この店は)偶然出会ったんですか?
江口さん「神田によく行く整体があって、そこの近くにあるお菓子屋さんで、ふらっと散歩してたら見つけて。おいしいんです、他のケーキもおいしいんです」

11/19OA《人生最高レストラン》より

MCの方と同じく、江口さんは甘いもの苦手そう、と勝手に思ってしまっていた。

甘いものを好まなさそうな方が「甘いもの好き」と知ると、仕事柄なのかギャップ萌えなのか、跳ねるようにうれしい。

その江口さんが「めちゃめちゃ」甘いもの好きとか笑顔で言っているし、近江屋洋菓子店の名を挙げている。

推しが推しを推していて、推しと推しが合致して、背中を押されないわけがない。

母の誕生日ケーキもかねて、平日の午後に神田まで足を運んだ。

東京メトロ丸の内線、淡路町駅から徒歩3分。

ビルの1階にある店内は天井が高く、広々として明るい。
だが、一歩足を踏み入れると、むかしなつかしい感覚に包まれる。

ガラス扉にかかれた、店舗名の縦長フォント。
銀色の金属フレームがやたらと主張する、うす暗い長尺ショーケース。

いろいろな書体がおどる手書きのプライスカード、ケースのすみに置かれた造花。

白いシャツに青いワンピース、白いエプロンというクラシカルな制服。バーコードおろかカードも不可、現金のみの決済方法。

こぎれいながらも年季の入ったしつらえに、明治時代から続く歴史をそこかしこから感じた。

ケーキやプリンも、はやりの凝った造形とは程遠く、本当に必要なものだけを残したシンプルなフォルム。

それでも、ふんだんにあしらわれた旬の果物が、照度低めのケースを華やかに大胆に彩る。種類も豊富だ。

江口さんがおすすめしていた珈琲ゼリーは、残念ながら完売していた。

一方、看板商品の丸いショートケーキはたくさん並んでおり一安心。
母の誕生日ケーキに、とねらいを定めていた洋梨のタルトも、ツヤツヤと輝きながら並んでいた。

時を止めたような店構えとは対照的に、販売員さんはとても忙しそうだった。接客に商品補充、宅配便集荷対応、電話対応、とせわしなく動き回っている。

入店時すでに数人が並んでいたが、会計を終えて振り返ったら、老若男女がさらに10人くらい列をなしていた。
お取り置きと思しき、タグのついた紙袋も棚にところせましと置いてある。

ここは本当に長年愛され続けている店なのだ、とケーキを頂く前から確信した。

箱のイラストがかわいらしい
ほぼ日手帳2023の絵柄にも選ばれている
「神田連雀町」という地名に歴史を感じる
(1933年に須田町と淡路町に編入)
ショートケーキ、洋梨タルト、アップルパイ
ピンとツノが立った生クリーム

満足のいくいちごが仕入れられないとのことで、現在サンドされているのはいちごではなく黄桃。
これはこれで期間限定のおたのしみだし、そのこだわりぶりは信頼の証。
はみ出す橙黄色のまぶしさよ。

照明を近づけたら神々しくなった
真上から撮りたくなるショートケーキ

しっかり甘みを感じながらも軽い口当たりのたっぷり生クリーム、香ばしさの残るきめ細やかなスポンジ。

あと、食べても食べても出てくる黄桃。フォークを刺すと増える仕組みなのかと思うくらい、終わらない甘い黄桃。

なにより、まんまるゆえにホールケーキをまるごとひとりで食べているような贅沢感がある。

三角形のショートケーキも魅惑的だが、まるいショートケーキはどこから攻めてもいいし、なにより途中でバランスを崩して倒れない。大満足。

タルト生地には厳しい母も、洋梨のタルトを食べて「このパイ生地がおいしい!またよろしく」と言っていた。
パイに近いサクサク食感タルト、これもまた気になる。

味や店の雰囲気は伝統を守りつつも、YouTubeやTwitterなど、情報発信は時代を柔軟に取り入れているようだ。
このカットムービーなんて、見事で何回も見てしまう。

こういう「守るところは守り、攻めるところは攻める店」は、明治・大正・昭和・平成・令和、その後も脈々と愛され続けていくのだろうな、と感じた。

次は、江口さんの好物の珈琲ゼリーと、大容量フルーツポンチを赤子のように抱えて帰りたい。

あと、この店の近くには整体や整骨院が何軒もあった。
いつどこから江口さんが出てくるか分からない。

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