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あんバターサブレ緩急
いつかまた逢いましょう、と思ってはいたものの、そのいつか、がこんなに早く訪れるとは。
商品コンセプトが「サウダージ」の歌詞を連想させる、あんバタースコーンサンドのお店。
和歌山のスナックからはじまり、各地での催事を経て、ついに東京駅のグランスタに常設店が。
最初から、こうなることが決まっていたみたいに。
実店舗をオープンするにあたり開発したクッキーは、 私たちがこれまでの道のりで泣いたり、笑ったり、困ったり、頑張ったり、お客さまや仲間に心配、応援いただいたり………
そんなたくさんの気持ちを託してカタチにしたものです。
見た目は決して 派手ではないけれど、
私たちの想いがいっぱい詰まったお菓子たちをどうぞお召し上がりください。
泣いたり、笑ったり。
実店舗は、ミスチルの「しるし」の歌詞を彷彿とさせた。
オープン翌日の朝、出社前に立ち寄る。
大行列だったらまたの機会にしよう、通勤で必ず通るし、と傷つかないための予防線を張りながら。
土曜朝8時の開店直後だったからか、ひとは多いものの、ほぼ行列はなかった。
宝飾ケースと木製のカウンターの下は、スナックのソファのようなベルベット風のしつらえになっている。
ミニチュアの看板がかわいい。
原点たるスナック魂を散りばめているのがいい。
看板商品はあんバタースコーンサンドなのだが、事前にインスタを眺めていて、東京駅限定の新商品に目を奪われる。
あんバターサブレサンド
ピスタチオ×グリオットチェリー
ダーリンダーリン、ビジュアルと、文字面が好みすぎる。
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カウンター内には、接客中の制服の販売員さんと、入館証を首から下げた白Tシャツのお兄さんが。
オープンして間もないし、きっと本店の方も応援に来ているのだろう。
ちょうど、目当てのあんバターサブレの前に立ってニコニコしている。
早く、これを我が手中におさめたい。
わたし「すみません、これっ…」
白T兄「はい、こちら東京駅限定の新商品でして(ニコニコ)」
存じ上げております、これを買いに来たので、お兄さんのおすすめの品、買いますとも、と心の中でつぶやく。
わたし「こ」
声を発したと同時に、白T兄さんがおだやかに、なめらかに説明をかぶせる。
白T兄「ピスタチオを使ったあんバタークリームの中に、ブランデーに漬け込んだグリオットチェリーをはさんだサブレでございます。お酒が効いているのでおとなの味です」
なくならないうちに早く買いたいわたしと、限定の新商品をおすすめしたい白T兄さん。
目指す近未来は同じなのに、熱量と発言がぶつかり合う。
わたしの心の声は届かなかったが、それもいい、その方がいい。イチオシなのが伝わってきた。
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説明をじっくり聞いて、購入。
勤務中は会社の冷蔵庫に入れておき、凍らせておいた保冷剤をつけて持ち帰る。
手のひらにすっぽりおさまるほどのサイズで、3個で約1500円はさすがにお高い。
でもわたしには、長距離通勤で貯めに貯めたJREポイントがあるため、JR東日本の駅構内では無敵だ。JR弁慶。
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キツネ色のサブレと、淡いグリーンのクリームが、ほぼ全部おなじ厚み。
お菓子の家を作るなら、これは洋服ダンスにしよう。
グリオットチェリーの姿は目視では見えないが、中に隠れているのだろうか。
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要冷蔵商品だけれど、サブレはさっくりほろほろで、めくろうとしたら崩れてしまうほど。
口に含むと、クリームとしっとり馴染む。
サブレとピスタチオの香ばしさの奥で、白あんのおだやかな甘さがひかえめに、でも抜群の安心感で構えている。
ドアを開けたらこどもが弾けるように飛び出してきて、その奥でおばあちゃんがにこにこ笑っているような。
と思ったら、食べ進めるにつれてグリオットチェリーの酸味と、ブランデーの風味がコツンコツンと。
酸いも甘いもかみ分けたスナックのママが、ハイヒールで満を持してあらわれた感じだ。
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味に緩急がついているからか、ひとつだけでもたべごたえがあった。
製造所の住所はまぎれもなく和歌山。
しかも、ふつうの集合住宅の1階のよう。
大きな機械は入らないだろうから、ひとつひとつ、手作業でていねいに作っているのだろう。
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会社帰りに遠巻きにのぞいてみたら、白T兄さんはまだ売り場にいらっしゃった。
通しおつかれさまです、と心の中でつぶやく。心の声は、白T兄さんに届くだろうか。
つぎはレモンのあんバタースコーンサンドを買おう。