赤い彗星のザクロ琥珀
百貨店の、銘菓百選や諸国銘菓が好きだ。
全国の選りすぐりのお菓子が集まっていて楽しいので、用もなく立ち寄りがち。
なにかいいものあるかな、とうろうろしていると、一角に各地から集めた琥珀糖のコーナーが。
青や白などの涼しげな色合いや、パステルカラーのかわいらしい色合いに混ざって、それは文字どおり異彩を放っていた。
本来の意味とはちがうが、紅一点。
柘榴琥珀。
〇〇のしずく、とか、〇〇のかけら、とか、キラキラネームを授けられがちな昨今の琥珀糖界隈において、直球のネーミング。
石とか虎とか王とか、力強いにもほどがある。
ザクロコハク、とカタカナで書くと、なんとなくマグロの仲間っぽい。
名前はよく聞くザクロだが、果実を買ったことはないし、たぶん生食したこともない。
つぶつぶがいっぱいで、どこを食べたらいいのかもよく分からない。
果実中の可食部率は、わずか20%だという。ちなみに、ぶどうやブルーベリーはほぼ100%。
口にしたことがあるのは、ジュースくらいだろうか。
酸味がリードした甘みと、ほのかな渋みがぎゅっと濃縮されていたように思う。
胃の中がふつふつとするような、これがポリフェノールというやつか、という感じの重厚な味だった。
宝石のようにキラキラな琥珀糖にうしろ髪を引かれつつも、めずらしさと期間限定の文字に前髪をつかまれて、今回は京都の俵屋吉富さんの柘榴琥珀を購入。
金色のゴム紐を外したら、三つ折りのようにパタパタと蓋を開けていく形式。
厚めの紙でできた函、楕円にくりぬかれた窓は、大正ロマンのような、はたまた古き良き旅館のようなクラシックなしつらえだ。
一面のマグロの赤身、もとい紅。
整然と詰められたさまは、桐箱に納められた超高級さくらんぼのようでもある。
この頃流行りの琥珀糖より、3倍くらい格式高い。
もはやシャア専用ザクロ。赤い彗星の琥珀糖。
そして、格式以前に物理的な高さがある。四角かと思いきや、八角形。
角に上下左右との空間があるので、とりだしやすい。
琥珀糖といえば、おもわず光に透かしてみたくなる菓子No.1である(個人の意見)。
からりころんとしたそれを、指でつまんで夏の光にかざす。
光を通すと、紅のそれは少しだけ朱色を帯びる。
紙風船のような質感の琥珀糖だからできる遊戯。
飴玉だと、ベタベタしてしまってそうはいかない。
午後4時、南西の空、もろに逆光、ブラインド越し。
夕日よりも空を赤く染める、柘榴琥珀をしばしながめて堪能する。
さて、味はどうだろう。
店頭のポップには、ほんのりザクロの味、とひかえめに書いてあった。
そもそもザクロそのものの味をよく認識していないから、分かるだろうか。
鼻に近づけると、ふわりとフルーティーで甘い香りが漂った。
口に含むと、カリッ、シャリッ、ジュルッ、トロッと食感が変化していく。
いちごやラズベリーとはひと味ちがう、深みのある落ち着いた果実感が広がる。
それでいて、鼻に抜ける香りははなやか。
ベリーならクランベリー、どことなくプルーン、赤ワインの様相も、といった感じか。
可食部率100%の、食べやすいザクロ。
ザクロと言われなければ何の味だか分からないかもしれないが、これは希少価値もあるので、大事にいただきたい。
でもきっと彗星のごとく、わたしの胃袋へ消えてなくなるだろう。
ところで、紅一点という言葉はザクロが由来だそうだ。
中国の詩人、王安石の「石榴詩」の中で、緑の草原の中に一輪だけ咲いている赤い花の情景が描かれており、この花がザクロの花なのだという。
この柘榴琥珀の場合は、紅全面である。